“大阪都”は実現するのか――。大阪都構想の住民投票開催(11月1日投開票)まで約2週間に迫っている。
前回行われた2015年の住民投票では、反対70万5585票、賛成69万4844票と、わずか1万票の僅差で否決。その後、維新の党最高顧問の橋下徹氏(当時)は、政界引退を発表。翌日の全国紙4紙のトップでも、その結果を伝えるなど大きな関心を集めた。
前回は接戦の末に勝利した形の反対派の自民党だが、今回の住民投票ではかなり劣勢に立たされていることは間違いない。その最大の理由は、異常なまでの吉村洋文府知事人気と菅義偉新首相誕生だ。大阪自民党府連の議員が、こう説明する。
「もともと大阪自民は全国の中で、もっとも公明党に与してきた地域です。公明党への9つの調整区のうち、4つが大阪、2つを兵庫が占めるほどでしたから。その公明党が都構想賛成を表明し、風向きが変わりました。安倍政権も維新の会にべったりでしたが、露骨に大阪自民を切るようなことはしませんでした。
ところが、松井一郎市長や橋下徹元代表と昵懇である菅首相に政権に移った途端、急速に維新支持が進んでいきました。人事をみても、大阪の自民党議員の大半を実務が多い政務官に指名し、大阪から引き離しました。菅首相はドライな方なので、大阪自民に対して恣意的に切り捨てを行っていると感じている議員も多いです」
現在行われている選挙活動でも、その傾向は明確に表れていると前出の議員は続ける。
「維新の会は大阪が本部のようなもので、今回の住民投票に党としての存在意義をかけて巨額の選挙活動費を投じています。ところが、大阪府連は全国にある自民党の一支局にすぎません。資金面でも、人員面でも、大きな差が生まれているのです。もちろん、自民党府連としても党本部に資金増や人員増員を打診していますが、なしのつぶてです。
維新の会が選挙カーを使いまくり、パーティー券を売りさばくなど、惜しみない選挙活動を行っているのに対して、自民党では選挙カーの台数すらまともに確保できない状況。菅首相は、共産党と組み理念を曲げてまで都構想に反対する大阪自民に対して、『倫理的にありえない』と周囲に漏らしているそうです。仮に自民党として議席を減らすことになっても、連携がとれる維新の会に与することで自身にとってはプラスになるという判断なのでしょう」
大阪都実現で何が変わる?
住民投票で可決されて都構想が実現すれば、大阪はどう変わるのか。首都圏では都構想に関する報道は決して多いとはいえないが、関西では日増しに加熱している。ただ、住民の中には「結局どう変わるのか?」と、正しく理解していない声も多い。住民説明会を開催するに伴い多少変化の兆しは見えているが、在阪メデイアの大半が維新の会にべったりで提灯記事が溢れ、その本質の理解まで及んでいない。その傾向が顕著なのがテレビ局だ。“吉村人気”にあやかり、中立的な立場報道ができているとはいえない状況が続いている。
「驚くのは、数社を除いてほとんどの報道陣が維新の会にべったりという異常な状況です。さすがにこのタイミングに来て批判報道も出てきましたが、それも保身のためでしょう。改革を掲げ既存政権を打破すべく生まれた政党のはずですが、安倍政権時代の自民党と同じ構図となっています。特にメディア上層部と党幹部の結びつきは強く、批判的な姿勢を持つ記者のなかには、飛ばされた人までいるくらいです。あの朝日新聞ですら維新の会には及び腰ですから。
これからの時代、リスク管理も含めた地方分権は必要ですが、維新の会の強引なファシズム的なやり方が正しいとは思えません。そして、党内は完全なトップダウン型であり、慢性的な人材不足で政策や憲法をまともに話せる議員は、ほんの一握り。一番の懸念は、今の議員たちでは都構想という改革をするための能力が足りないと感じることです。実際、在阪の記者の多くが本心では、このレベルの議員たちでは都構想がうまくいくはずがない、と思っていますよ」(全国紙政治部記者)
都構想で優勢に立つ維新の会だが、決して一枚岩というわけではない。露骨なまでのトップダウンや派閥に嫌気が差し、内部批判の声も上がっているというのだ。維新の会中堅議員はこう話す。
「吉村知事は、“イソジン発言”やコロナ対策、IR失敗など多くのまずい対応があり、冷静に見ると成功体験のようなものはほぼないんですよ。ただ、大阪では盲目的な維新信者が溢れており、維新擁護のネット工作員のような人たちまで出てきています。一方で、都構想反対派にも過激派が出てきており、建設的に都構想を議論できるような雰囲気ではありません。僕たち議員からみても引いちゃうくらいで、そんな地域は大阪だけですよ。
個人的には、大阪市がなくなるということを徹底して説明しない党内の方針には疑問を感じています。都構想が実現するとどうなるのかということを、ちゃんと説明できない議員もいるくらいですから」
菅政権の保護も受け、住民投票でも優勢に立つ大阪維新の会。だが、その舵取りは不安のほうが大きいのは、紛れもない現実なのだろう。
(文=編集部)