米スペースX社が提供する衛星通信サービス「Starlink(スターリンク)」。これまではスタンドタイプのハイパフォーマンスアンテナ一式の場合、アンテナのサイズは縦横50cm以上、高さが約50~70cmで、重量は6.9kg、付属品を含めると10~20kg近くなることから、歩きながら持ち運ぶというのは困難だった。そんなスターリンクに14インチのノートPCサイズで重量1.1kgの持ち運び可能な「Starlink Mini(スターリンク・ミニ)」が登場した。価格は3万4800円で、料金プランは屋外などに持ち出して利用する想定の「ROAM」で月50GBが月額6500円、容量無制限が1万1500円。ヤマダデンキなど家電量販店でも購入可能だが、近い将来、スマホサイズになって一気に普及し、多くの人々がスマホ感覚で保有するようになる日は来るのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
「世界中で利用可能な高速インターネット」を謳うスターリンクは、光ファイバーケーブルの引き込みが困難な山間部や島しょ部などネット環境が整っていない場所で、高速のインターネット通信を利用できるようになるのがメリット。ユーザーターミナル(アンテナ)を開けた場所に設置し、宅内ネットワークを介してWi-Fiや有線で接続すれば、手軽にネットを利用することができる。キャンプなどのアウトドアのほか、自然災害時や山間部の工事現場でのネット環境確保にも利活用が期待されている。
モバイル衛星通信サービスは世界的に市場が拡大しており、2023年時点の55億6000万ドル規模から30年までに86億3000万ドルに成長すると予測されている(「Fortune Business Insights」調査による)。海外の大手企業が注力しており、米通信大手ビアサットは21年、英衛星通信サービスのインマルサットを73億ドルで買収。英衛星通信大手ワンウェブは22年に仏ユーテルサットと経営統合。独保険大手アリアンツは22年に米衛星通信のインテルサットを買収するなど、大型M&Aが相次いで成立。米アマゾン・ドット・コムも早ければ25年内にも英国で「Project Kuiper」の提供を開始する予定。
そんな加熱する市場に、米EV(電気自動車)大手テスラCEOのイーロン・マスクが率いるスペースX社が参入したのは2020年。宇宙企業である同社は市場が拡大する衛星通信事業に目をつけ、米国で試験サービスを開始し、日本では22年にサービス提供を開始。その革新的な技術は注目されるべきもので、従来の衛星通信サービスが地上約3万6000kmの静止衛星を利用するのに対し、その約65分の1の距離にある低軌道周回衛星を利用。マスク氏の伝記『イーロン・マスク』(文藝春秋/著:ウォルター・アイザックソン/訳:井口耕二/)によれば、マスク氏は衛星の大きさを従来の10分の1に小型化することを目標に開発を進め、構造を簡素化することで製造コストを一桁安くすることに成功。さらに衛星を宇宙に運ぶロケットの打ち上げ費用も従来の10分の1に削減。以上の取り組みにより、従来の衛星通信サービスに比べて高速なデータ通信を実現しており、衛星の数は6000個以上におよび、衛星通信網としては世界最大規模となっている。
KDDIがスペースXと業務提携してパートナーに
これまで日本では前述の大きいサイズのハードウェアが販売されており、ハードウェア費用は5万5000円で、別途利用料として、自宅で接続する「レジデンシャル」は月額6600円、屋外などに持ち出して利用する想定の「ROAM」は6500円(50GB)、1万1500円(容量無制限)がかかる。今回国内で発売されたスターリンク・ミニは「お手持ちのかばんにも楽々収まるコンパクトでポータブルなキット」と謳われており、本体のサイズは298.5×259×38.5mmで、キックスタンドと15mケーブルを含めても1.53kgのため、持ち運びやすい。ダウンロード速度は最大100Mbps超で、最大128台のデバイスを同時接続可能。電源は12V~48V 60W定格入力に対応しており、USB PD給電も可能(最小20V/5A、100W対応が必要)。
気になるのは、さらに小型化が進み、スマホサイズになって多くの人々が保有するようになる日は来るのかという点だ。ITジャーナリスト・石川温氏はいう。
「スターリンクに関しては、日本国内ではKDDIがスペースXと業務提携をしてパートナーになっており、実は今年の前半に『スマートフォンとの直接通信』が可能になります。専用のアンテナが不要で、今持っているスマートフォンとスターリンクの衛星が直接つながります。サービス初期はショートメッセージなど限定的なサービスになりますが、将来的には音声通話やデータ通信も可能となるため、山奥や離島など、これまで『圏外』だったような場所でもつながるようになります。オプション料金がいくらになるかはわかりませんが、山登りを趣味にしているような人は、ぜひauを検討するといいと思います」
(文=Business Journal編集部、協力=石川温/ITジャーナリスト)