
企業のM&A(合併・買収)は成立時には派手に報道されるが、その後に経営効果を上げたのか、あるいは計画通りの効果は上がらなかったのか――事後の実態を検証する報道は極めて少ない。“M&Aのその後”が見えにくいのだ。
M&Aの仕上げはPMI(Post Merger Integration=買収後の経営統合プロセス)で、特に海外企業を買収した後はPMIが大きく問われる。では、PMIの決め手は何か。それは、ひとえに買収先の経営を担う人材の質である。
グローバル展開をしている大手企業なら買収先の経営人材には困らないが、中小企業には現地に駐在して買収先の経営に従事できる人材が乏しい。自ずと、海外企業のM&A は成長戦略の選択肢になりにくい。
この限界を突破できるソリューションが「ターンキーM&A」だ。「ターンキー=鍵を回すだけの状態」で、M&Aの検討からPMIまでのプロセスを遂行できる仕組みである。この「ターンキーM&A」をサポートするのは、コンサルティング会社のTransition Consulting(米国カリフォルニア州ロサンゼルス市)。日本オフィス(東京都港区)も開設して、日本の中小企業の米国企業買収をサポートしている。
日本オフィス代表の郷田裕昭氏は、国内市場の縮小と中小企業の行く末を憂慮している。
「今後は多くの業界で国内市場の発展は期待できず、縮小傾向をたどっていくでしょう。中小企業も、国内にとどまっている限り展望は開けません。中小企業にとって、海外展開は重要な戦略になるというよりも、むしろ不可欠な戦略になると言った方がいいのです」
郷田氏の見解を裏付けるのが、総務省のデータである。日本の人口は2004年に1億2784万人、30年に1億1522万人、50年には1億人を下回って9515万人、2100年には4771万人にまで落ち込む。同時に、2004年に19.6%だった高齢化率は、それぞれ31.8%、39.6%、40.6%と上昇していく。
当然、生産年齢人口(15~64歳)は減少する。05年の8442万人(総人口比66.1%)から50年までに約3500万人が減少し、50年には4930万人(51.8%)に落ち込む。
こうした人口動態を踏まえれば、経済規模が縮小するのは必然である。しかし、中小企業の海外展開は今なおハードルが高く、ましてや相手国にゼロから拠点を築いて事業を軌道に乗せるには、暗中模索を強いられる。従来からさまざまな成功ノウハウも喧伝されているが、不確定要素が混在する状況下では、まずノウハウ通りにはいかないのが現実だ。
そこで、Transition社はリスク回避のひとつの手法として「ターンキーM&A」を推進している。では、「ターンキーM&A 」とはどんな仕組みなのだろうか。そもそも、数あるM&Aアドバイザリー会社の提供サービスと何が違うのだろうか。
買収先の企業へ臨時経営者を派遣
Transition社のサービスエリアは米国で、特に西海岸エリアでの実績が多い。競合他社とのサービスの違いは、買収先への「臨時経営者派遣」だ。
Transition社において審査、育成された、事業開発や経営再建で実績を築いた現地人のプロ経営者を新経営者として派遣する。新経営者は前オーナーと前経営陣から業務を引き継ぎ、 経営状況分析と経営計画策定に着手する。日本側は報告内容および報告周期・会議方法・経営陣へのリクエスト方法など管理手段を確立し、遠隔コントロールできる体制を整備する。それにより、「ターンキー」を可能にしているのだ。