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藤和彦「日本と世界の先を読む」

18日の伊豆大島近海の地震、首都直下地震の前兆か…伊豆半島の津波対策、議論されず

文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員
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伊豆大島(「海上保安庁 HP」より)

 12月21日午前2時20分頃、青森東方沖を震源とするマグニチュード6.5の地震が発生した。岩手県盛岡市が震度5弱、北海道の函館市や青森県の八戸市などで震度4の強い揺れを観測したが、気象庁は「東日本大震災の余震とみられる」との見解を示した。

 東日本大震災以降も日本各地で地震が発生しているが、筆者が注目したのは12月18日午後6時過ぎに発生した伊豆大島近海の地震(マグニチュード5.0、最大震度5弱)のほうである。この地域では12月21日未明にかけて20回以上の余震が続いた。

 気象庁はこの地震についてコメントを出していないが、伊豆半島から伊豆大島にかけての地域も地震の多発地帯である。あまり知られていないが、直近の例では2014年5月5日に伊豆大島近海でマグニチュード6.2(最大震度5弱)、06年4月21日に伊豆半島東方沖でマグニチュード5.8(最大震度4)の地震がそれぞれ発生している。

 政府の地震調査委員会は14年に「首都直下地震は今後30年間に70%の確率で起きる」との見解を示した際に、想定される震源地を明らかにしていないが、筆者は「伊豆半島周辺が震源地になる可能性が高いのではないか」と考えている。1923年に発生した関東大震災(マグニチュード7.9)の震源地が伊豆半島周辺であるとの説が有力だからである。被害の大半は東京の大火災で生じたことから見逃されがちだが、「地震発生直後に横浜や鎌倉に津波が押し寄せた」という事実がある。

「熱移送説」

 大方の地震学者が信奉している「プレートテクトニクス説」に疑問を抱いている筆者が参考にしているのは、角田史雄埼玉大学名誉教授が提唱する「熱移送説」である。熱移送説については、2019年6月25日付コラムなどで紹介しているが、改めて説明すると、以下のとおりである。

(1)熱移送説で主役を務めるのは、「プレートの移動」ではなく「熱エネルギーの伝達」である。その大本のエネルギーは、地球の地核から高温の熱の通り道に沿って地球の表層に運ばれ、表層を移動する先々で火山や地震の活動を起こす。

(2)熱エネルギーの表層での出口のひとつは南太平洋(ニュージーランドからソロモン諸島にかけての海域)に存在し、南太平洋から出てきたPJ(インドネシアからフィリピンに向かい台湾を経由して九州へ)とMJ(フィリピンから伊豆諸島を経由して首都圏へ)という2つのルートで日本に到達する。

(3)熱エネルギーが伝わると熱のたまり場では噴火が起き、地盤に「問題」がある地点では地震が発生する。熱エネルギーの速度が一定であることから、火山の噴火から地震発生の予兆を捉えることが原理的に可能である。

 以上が熱移送説の概略だが、首都圏に達するMJルートについて角田氏は、西之島(東京の南方約930kmにある火山島、MJルート上に位置する)の噴火活動に注目している。西之島の火山活動を引き起こす熱エネルギーが北上し、首都圏に到達するからである。

 西之島は2013年の大噴火で面積が2倍以上になり話題となったが、その後も15年、17年から今年にかけて断続的な噴火を繰り返している。このことは熱エネルギーが首都圏に継続的に到達していることを意味するが、千葉県東方沖では18年7月7日にマグニチュード6.0(最大震度5弱)、20年1月3日にマグニチュード5.9(最大震度4)、同6月25日にマグニチュード6.1(最大震度5弱)の地震が相次いで発生している。

 首都圏に流れ込んでいる熱エネルギーにより千葉県東方沖や茨城県などで比較的大きな地震が多発しているのに対し、伊豆半島周辺では19年6月24日にマグニチュード4.1の地震が発生した程度である。熱エネルギーの放出が進んでおらず、今後大規模な地震が発生するリスクが高まっているのではないだろうか。

「伊豆大震災」の教訓

 12月18日に発生した伊豆大島近海の地震について角田氏に尋ねたところ、「西之島の活動が低調になっていることなどから、伊豆半島周辺で近い将来大規模な地震が発生する可能性は低い」とのことだったが、油断は禁物である。

 伊豆半島周辺では、前述の関東大震災後にも1930年に北伊豆地震(マグニチュード7.3,死者・行方不明者272人)、1978年に伊豆半島近海地震(マグニチュード7.0、死者・行方不明者26人)が発生している。特に北伊豆地震では、震源に近い静岡県三島市で震度6を観測し、地震断層が掘削中のトンネルを塞いでしまうほどの被害を伊豆半島地域にもたらした。地元では「伊豆大震災」と呼ばれている。北伊豆地震の場合、発生までの約半年間周辺で群発地震が起きていたことから、今後伊豆半島周辺で地震が多発するようになれば、要警戒である。

 北伊豆地震クラスの地震が発生すれば、この地域を通過する東海道新幹線や東名高速道路などで甚大な被害が発生する可能性が高い。南海トラフ巨大地震の発生に備えて西日本の太平洋沿岸では津波対策が議論されているものの、伊豆半島周辺の津波対策は議論の俎上にすら上っていないのが現状である。

 阪神・淡路大震災が発生するまで「神戸では大きな地震が起きない」と妄信されていたように、伊豆半島周辺についてはまったくと言ってよいほど問題視されていないが、はたして大丈夫だろうか。大規模地震の発生を予測することで世の中をいたずらに騒がせるつもりは毛頭ないが、「備えあれば憂いなし」との願いから、拙稿をしたためた次第である。

(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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