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佐藤信之「交通、再考」

もし今年“コロナがなかった場合”、日本は今頃…街中に訪日客があふれ、活況に沸いていた

文=佐藤信之/交通評論家、亜細亜大学講師
もし今年“コロナがなかった場合”、日本は今頃…街中に訪日客があふれ、活況に沸いていたの画像1
「Getty Images」より

 令和に入って、巨大台風などの自然災害、パンデミックと、想像外の出来事が続いている。台風・豪雨で鉄道路線や国道は寸断され、全国各地に運行を再開していない路線が残ってしまった。新型コロナウイルスの感染拡大が、人々の日常生活自体を大きく変えることは確実で、新しいライフスタイル、とくにリモートワークの普及により鉄道業界への影響が心配されている。

新型コロナウイルスの感染拡大

 令和2年は、新型コロナウイルスの感染で大混乱の一年であった。そもそも新型コロナは、前年末に中国の一地方、四川省の武漢市で最初の感染者が発見され、1月までは中国内のローカルな問題であった。それが横浜港に向かっていた豪華クルーズ船のダイヤモンド・プリンセス号で感染者が発見され、2月に横浜港に入港すると、その対応で国は厚生労働省を中心に大混乱となった。

 中国で感染者が急増しても、当時の安倍晋三首相は、中国の習近平主席の来日予定に気を使って入国制限を中国の武漢などの一地方に限定した。1月末からの旧正月には多くの中国人観光客が日本にやってくることになった。その観光客のなかから感染者が見つかり、さらに観光客と接点のあった観光バスの乗務員や観光地の販売員が感染し、国内で市中感染が進んでいることが予想された。3月になると、スペイン、イタリアでの医療崩壊があり、各国では強力な国民の活動制限が行われ、日本もようやく海外からの入国制限に動くことになった。

 前年のインバウンドの旅行者数は3188万人で、対前年比2.2%増と好調であった。しかし、令和2年に入ると、1月は前年同月比1.1%減、2月は58.3%減と大きく減少した。そのなかでも、インドネシア、フィリピン、ベトナム、オーストラリア、ロシアからの入国客は、2月としては過去最高を記録し、コロナがなければ前年に比べて大きくインバウンドが増加したであろうことが想像できた。

 さらに、2月28日には北海道で「緊急事態宣言」を発出。東京都でも公立学校の春休みの前倒しによる休校措置が始まったが、その後国も同様な方針を決めたために休校措置は全国に広がった。3月には、月末近くに東京都の小池知事がロックダウン(都市封鎖)にまで言及して危機感をあおった。安倍首相は、4月7日にようやく重い腰を上げて緊急事態宣言を発出し、11日以降、感染の広がる自治体では県境を越えた移動の自粛と事業所や商店への休業が要請され、補償金や協力金の名目の財政措置が講じられた。

 しかし、結果的に新型コロナウイルスの国内感染は3月にはピークアウトしており、国の対策の遅れを露呈することになった。

 当時、一部に、新型コロナの感染は気温が上昇するにしたがって穏やかになるという考えがあり、筆者もそれに期待した一人であるが、次の感染拡大は8月末以降との認識でいた。しかし、第1波が完全に終息を見ないうちに、7月には予想外に再拡大が始まった。

 国は、第1波が沈静化したことから、コロナ後の経済回復策としてGo To イベント政策を打ち出したが、当初8月上旬の開始をめざしていたところ、なぜか7月の中旬に急遽1週間の前倒しを決定した。地方の経済への影響の大きい観光業や都市の中小の飲食店への肩入れとして立案された政策であるが、期せずして感染拡大のなかでの開始となってしまった。東京発着の旅行を除外していたが、10月1日から対象に加えられた。

 その後、一時感染拡大は落ち着きを見せたが、収束には至らずに、そのまま第3波に突入した。11月末から政府は「勝負の3週間」として飲食店の時間短縮を要請していたが、12月の半ばには、毎日のように感染者数、重症者数、死亡数の記録を更新していった。

 東京都について、12月18日から27日までGo Toトラベルの東京着の停止と東京発の自粛を決め、12月14日には菅義偉首相は突然、Go Toトラベルを全国で12月28日から1月11日まで中断することを発表した。菅首相はGo To政策の継続を強く主張していたが、感染拡大により医療体制がひっ迫してきており、年末年始の医療が手薄くなる時期の感染を抑え込む必要を認識したのである。当然、観光業や飲食業には影響が見込まれるが、「with コロナ」、新型コロナウイルスと共存していくという政府の方針の限界を表している。コロナを完全に終息させない限り経済の本格的な回復は見込めないであろう。

新型コロナの経済への影響

 新型コロナによるマクロ経済に対する影響は、前年の10月に消費税の税率が引き上げられたことによる景気後退が前段にあって、それが回復する余裕もなく新型コロナで大きな打撃を受けることになった。

 日本の実質GDPは、前年の10~12月には消費税率の引き上げにより、前期比-1.8%、年率-7.0%の大幅減少となった。通年でも前年比0.6%増と、6年ぶりの低水準であった。景気動向を見計らって、消費税の引き上げを目指していたが、必ずしも景気の力強さがみられない場面での税率の引き上げとなり、当然の結果として経済の不振をもたらした。

 年々財政支出の増加により国債の発行高が巨額となっていたため、景気による影響の小さい消費税の増税で安定した歳入を図るために、ある程度の経済の低迷があっても強行する覚悟があったのであろう。しかし、運が悪いことに、予想もしなかった新型コロナの感染拡大が起こってしまった。

 令和2年には、新型コロナの感染拡大と営業自粛によって1~3月の実質GDPは前期比0.6%減、4~6月は同7.9%減と2四半期連続の減少となった。その後7~9月には3.36%戻したが、この年の前半の落ち込みを埋め合わせるには大幅に不足していた。そして、冬に入っても感染者の増加は続いており、通期でも大幅なマイナスが予想される。

鉄道業界では、新型コロナがなければ今年はどうなっていたのか?

 新型コロナの影響は、産業ごとに濃淡があり、巣ごもり需要が見込まれる産業分野では売り上げが大幅に増加したケースもある。しかし、鉄道業界は、リモートワークの奨励により通勤需要が減少し、長距離でも出張などのビジネス需要や不要不急とされる観光需要を中心に利用客数が大幅に減少したために、おしなべて減収・減益となった。多くの事業者が運転資金さえ事欠くような状況になった。

 そもそも新型コロナがなかったならば、今年は特別の年になるはずであった。JR東日本は3月に山手線、京浜東北線に高輪ゲートウェイ駅を開業した。田町の車両基地を縮小して、東海道線、山手線、京浜東北線の線路を順次切り替えて、広大な再開発用地を生み出して、品川開発プロジェクトを立ち上げた。

 品川開発プロジェクトは、国家戦略特別区域会議の答申を受けて国が認定した「グローバルゲートウェイ品川」のコンセプトに基づき、将来東京が国際都市としてアジア諸都市に勝ち抜くために、企業のオフィスや外国人ビジネスパーソンの生活空間を新しく生み出そうという野心的な構想に基づいて開発されることになっている。

 また、7月には2週間にわたり東京オリンピック・パラリンピックが東京都と隣接県を中心に、開催されることになっていた。直前にマラソンの酷暑対策として北海道の札幌市に会場を移すことが決まって一部に混乱も見られたが、JR東日本をはじめとする東日本の鉄道会社は、観客輸送に伴う特需で忙しくなるはずであった。

 オリンピック・パラリンピックの観戦では、インバウンドの常連国である中国、韓国、台湾、香港だけでなく、欧米を含めた世界中からの観光客が見込まれ、国内の観光事業にとっては飛躍する機会になったであろう。

 開催期間中は、成田空港、羽田空港、関西国際空港などの主要空港だけでなく、国際チャーター便の飛ぶ地方空港でも海外からの来訪客で賑わうはずであった。北海道では、PPP(Public-Private-Partnership)手法を導入して、新千歳空港など7空港の運営が民間企業の北海道エアポートに任された。基本的にはターミナルビルの経営が中心であったが、6月には北海道の玄関口である新千歳空港について、空港施設の運営についても担当することになった。あえてオリンピックのタイミングを選んで、海外からの観戦客が北海道の行楽地にも流入することを期待して実施したのであろう。

 オリンピック・パラリンピックによるインバウンド特需は、新型コロナの感染拡大により霧消し、JTB総合研究所によると、令和2年9月中のインバウンド客は1万3700人と、前年比99.4%の減となったという。9月までの9カ月間の累計は397万3154人で、令和元年の3188万人に比べて87%減少したことになる。

 政府は10月1日から、順次入国条件を緩和しており、まずはビジネスでの交流を再開させようという考えである。レジャー目的の海外からの旅行客については、ワクチンの供給体制が確立し、各国での感染状況が沈静化する段階での検討課題ということになるであろう。コロナ以前の需要規模に戻るには5年程度の長さで考える必要があるという計算もある。

 もともと東京オリンピックは、代々木と臨海部などでのコンパクトな開催が目玉であったが、結果的に会場は北海道と東日本全体に広がった。開催費用は、延期に伴う追加費用を含めて1兆6000億円余りとなった。各地での観客輸送のキャパ不足が懸念されていたが、とくに多くの会場が建設された東京の臨海部では、観客輸送のための公共輸送機関の整備が遅れていた。

 都は、築地市場を豊洲に移転し、跡地には新たに環状2号線を建設して、湾岸の選手村と新国立競技場などの主要施設を結ぶことを計画していた。築地市場は、更地にして環状2号線とオリンピック・パラリンピック開催中の選手・関係者用の駐車場(バス850台、乗用車1850台)に利用する計画であった。しかし、平成28(2016)年8月に小池都知事が就任すると、新たに建設された豊洲市場の問題を浮かび上がらせ、豊洲移転を一時凍結した。

 計画の遅れにより、環状2号線は築地市場を迂回して片側1車線の暫定道路としてオリンピックに間に合わせることになった。環状2号線には、虎ノ門・新橋から臨海部まで連節バスを使って大量輸送を行うBRT(Bus Rapid Transit=バス高速輸送システム)の運行を計画した。

 BRTの運行は京成電鉄に委託されることになり、京成は新たに令和元年7月に「東京BRT」を設立した。京成バスが100%出資する完全子会社である。令和2年5月の運行開始を予定していたが、新型コロナの感染拡大に伴い10月まで延期された。環状2号線の整備の遅れだけでなく、当然、オリンピック・パラリンピックの延期が影響したのであろう。

 湾岸部には大規模な選手村が建設されたが、オリンピック・パラリンピック後は、改修してマンション群「HARUMI FLAG」として分譲、賃貸を行うことが決まっている。分譲、賃貸あわせて5632戸が開発され、分譲マンションは、令和元年7月から販売が始まった。第1期分の最高予定価格は2億2900万円と高額であるという。

 コロナ以前の計画では令和5年春の竣工を予定していたが、オリンピック・パラリンピックの延期により工程の見直しが必要となっており、入居時期も延期することになる。

 鉄道各社は、オリンピック輸送の具体的な内容は公表していなかったが、JR東日本は、開会式の会場の最寄り駅である千駄ケ谷、信濃町、原宿の改造をすすめ、千駄ケ谷と原宿の2駅では臨時ホームを常設ホームに改造して、混雑緩和を図った。また千駄ケ谷、信濃町を通る総武緩行線では一部の駅でホームドアの使用を開始したため、ドア位置が異なるオレンジ色の中央線の車両の使用を終了させた。

 中央線は、朝夕は総武線と運行系統を分離し、総武線は御茶ノ水で折り返し、中央線は東京発着の各駅停車で運行していた。3月のダイヤ改正以後は、終日、総武線は三鷹まで、中央線は東京発着の快速として運転することになった。今後中央線では、令和5年度にグリーン車2両を増結して12両編成に増強する予定になっている。

 コロナ後の旅客減少の段階では、減収を抑えるためにグリーン料金のような付加価値サービスが重要になっていくのであろう。通勤ライナーの特急化も同様に、実質的な料金の値上げである。令和3年春のダイヤ改正では、東海道線の通勤ライナーの特急化が予定されている。

これから……予想

 新型コロナの感染拡大の対策として、国は、企業に対して出社の自粛、リモートワークの奨励を行った。ネット環境の進歩により、自宅に居ながらにして会議に参加できるというリモート会議の周知が進み、参加者が一堂に会する必要がないという魅力を認識することになって、コロナ後も、多くの企業ではネットの活用が続くことになるのであろう。

 今までは、大都市の問題は、過密・集中であった。朝には郊外から都心に向けて大挙して通勤者が移動し、鉄道や道路の混雑は深刻度を増し、国は混雑緩和のために、長年にわたって企業にフレキシブルな就労時間の導入を求め、時差通勤を推奨してきた。

 期せずして、新型コロナによって、リモートワークが進んで、通勤電車の混雑が緩和されることになった。JR東日本の見込みでは、コロナ後も2割程度旅客が減少するという。従来の混雑率180%の路線の場合、旅客が2割減少すると、144%まで緩和されることになる。大きな整備投資を行わずに、国が目標とする150%をクリアすることが可能となった。

 リモートワークが一般化すると、なにも職場近くに居住する必要はなくなる。かつてバブル経済の頃、都心の地価の高騰により人口が郊外に転出した。長時間電車に揺られて都心まで通勤し、近郊区間を中心に通勤電車の混雑が悪化したのであるが、いまや週に1回会社に通勤して、あとの4日は家で仕事をすればよいので、貴重な睡眠時間を縮め、通勤で疲労困憊するということも無用になるのである。

 郊外では、リモートワークに伴う新しい需要を見込んで、シェアオフィスやボックスタイプのワーキングスペースが各地に登場している。開放室タイプの施設は、喫茶店などの他の業態の転換もあるかもしれない。もともと外回りの営業の途中で、コーヒーショップで仕事の整理といった光景を良く目にしたが、セキュリティ面で問題があるため、外出先でのパソコンワークを禁止している企業もあった。もともとニーズが高まっていたものの、いままでは実数が多くないのでビジネスにはつながらなかったといえよう。

 鉄道各社もエキナカのコワーキングスペースの開発に熱心で、先行して導入したJR東日本は、東京駅や新宿駅などの改札内にボックスタイプを設置し、15分単位の料金で、延長は一回限り、それ以上は改めて予約が必要と、なかなか長時間の利用には使いにくかった。朝夕を中心に利用が多く、予約待ちで利用をあきらめた人も多いようだが、昼間は比較的すいていたので、次の段階としてこの時間帯の新しい需要の創出が課題であった。コロナに伴い、この時間帯のニーズを取り込む形で、駅前にあるJR系ホテルのホテルメッツが客室を活用した半日利用できるプランを設けた。

おわりに

 新型コロナの大流行は、大災害に匹敵する社会的な悲劇であるが、一方で、これからの人々の生活パターンを大きく変化させる歴史上の一大事件として記録されることになるかもしれない。ネット社会が叫ばれて久しいものの、日本ではデジタル技術が人々の生活に浸透していなかったことが浮き彫りとなった。あとで工業化した国のほうがより近代的な設備で操業を始めることができるので、デジタル技術の導入には有利であった。

 今回のコロナ問題で、旧態依然の日本の生産の場で、デジタル化により大きく近代化、効率化が進む可能性がある。これから人口減少期に入ることから、生産性の向上による生産額の維持は、日本経済の規模を維持するうえで必須であるが、これまでは生産の海外シフトが進むことで国内の空洞化が進むばかりであった。生産を国内へ回帰することで海外依存度を下げていくことも政策課題として強調されて良いのではないかと思う。

 アメリカのトランプ大統領が“America first”のキャッチフレーズのもと、海外からの批判にも動じずに経済のアメリカ回帰の政策を推進し、世界一の経済大国の地位を盤石なものにしている。日本も、なりふり構わず、あえて既存のサプライチェーンも見直すことで、国内の経済再生のための強力な政策を実行してほしい。

佐藤信之/交通評論家、亜細亜大学講師

佐藤信之/交通評論家、亜細亜大学講師

交通評論家、亜細亜大学講師、Yahoo!オフィシャルコメンテーター、一般社団法人交通環境整備ネットワーク相談役


亜細亜大学で日本産業論を担当。著書に「鉄道会社の経営」「新幹線の歴史」(いずれも中公新書)。秀和システムの業界本シリーズで鉄道業界を担当。

 4月19日『鉄道と政治、政友会、自民党の利益誘導から地方の自立へ』中公新書発売。

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