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川崎重工“解体”、なぜ各事業が一斉に赤字に?リストラ着手に遅れた企業の悲惨な末路

文=編集部
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川崎重工業の工場(「Wikipedia」より)

 川崎重工業は抜本的なリストラに手を付けるのが遅れたツケに直面している。2021年4月、船舶海洋とエネルギー・環境プラント事業を統合。同年10月、車両およびモーターサイクル&エンジン事業を分社化し、原子力関連事業からは撤退することを、ようやく決断した。

 利益率が高かった航空宇宙システム事業は新型コロナウイルス感染拡大の影響で受注が減り、20年度に派遣社員も含め600人を他部門への配置転換などによって減らす。部門全体の1割弱の人員を削減するが、早期退職は募集しないという。

航空機事業が巨額赤字に転落

 21年3月期の連結決算の売上高は前期比8.6%減の1兆5000億円、営業損益は200億円の赤字(前期は620億円の黒字)、最終損益は270億円の赤字(同186億円の黒字)に転落する見通しだ。未定としていた期末配当を無配(前期末も無配)とし、年間配当も19年ぶりに無配となる。

 新型コロナの影響に伴う航空需要の低迷から米ボーイングが減産や生産調整を行ったため、主力の航空機事業の損失がかさむ。航空宇宙システム事業の受注高は21年3月期には3100億円と1049億円減る見通し。20年同期の実績は4149億円だった。売上高は5325億円から4000億円へ1325億円(25%)の減収。営業損益は427億円の黒字から250億円の赤字に転落する。

 航空機部門は哨戒機など防衛省向けの売り上げが下期に見込めるが、ボーイング向けの航空部品の回復は見込めない。

 こうした苦しい状況のなかで精密機械・ロボット事業は健闘している。売上高は2173億円から2200億円と微増の見通し。営業利益は122億円から100億円へと2割弱の減益となるが、絶対額では6つの事業部のなかで一番多い。それなりに稼いでいるといっていいだろう。

 来年、統合するエネルギー・環境プラント事業の売上高は、ほぼ横ばい。2429億円から2400億円となる見通し。営業利益は85億円で半減する。船舶海洋事業の売上高は800億円で増収だが、営業損益は30億円の赤字(前期は6億円の赤字)と赤字幅が拡大する。2期連続の営業赤字となり不振が続く。

 船舶海洋部門で液化水素運搬船、エネルギー・環境プラント部門で水素ガスタービンや水素貯蔵タンク、水素液化システムなどの開発に取り組んでいる。両事業の統合により次世代燃料といわれる水素の強固な供給網を築く。水素燃料を使う次世代航空機向けエンジン部品を開発する。

 分社化する車両事業の売上高は1500億円と1割近い増収だが、営業損益は20億円の赤字の見通し。前期は38億円の赤字だった。黒字化にはほど遠い。分社することにより、親方日の丸の意識から脱却して自律的な経営を目指す。分社化によって外部資本を受け入れやすくするという、隠れた狙いがあるかもしれない。

 同じく分社化するモーターサイクル&エンジン事業の売上高は3200億円で5%の減収、営業損益は50億円の赤字(前期は19億円の赤字)と赤字が拡大する。二輪車およびオフロード四輪車のパワースポーツ事業は唯一の消費者向けビジネスだ。分社化により意思決定のスピードを上げ、「Kawasaki」ブランドで知られる二輪車事業を牽引する。

 赤字が定着してしまった鉄道車両や二輪車を本体から切り離して、再生に期待するが、前途は多難だ。分社化が収益回復の決め手となるという保証は、どこにもない。

 原子力関連事業からも撤退する。三菱重工業や東芝の原発設備メーカーに蒸気発生器などの主要部品を納入してきたほか、廃炉・廃棄物処理事業を手掛けてきた。部品や設備の設計・調達、据え付け工事などの業務を、原子力発電所関連の保守を行っているアトックス(東京・港区)に21年4月に譲渡する。原子力事業の人員(20人程度)は水素技術の開発に振り向ける。

社長追放のクーデター事件で露呈した「事業部あって本社なし」

 多くの投資家が思い起すのはクーデター事件だ。三井造船との経営統合交渉をめぐって経営陣が対立した。

 2013年6月13日、臨時取締役会を開き、三井造船との経営統合に積極的だった長谷川聡社長ら3役員を解任し、三井造船との経営統合交渉の打ち切りを決めた。3人を解任する緊急動議には取締役会議長を務める大橋忠晴会長をはじめ、解任された3人を除く10人の取締役が賛成した。後任の社長には村山滋常務が昇格した。

 クーデター事件は中国への新幹線車両の技術供与の際のミスに通底するものがある。カンパニー制の弊害が出たということだ。事業部制に市場原理を導入し、より独立会社に近づけた形態がカンパニー制である。田崎雅元社長(当時)が01年、カンパニー制を導入した。川崎重工業の経営の特徴はカンパニーの集合体だというところにある。「事業部あって本社なし」と称されるほど、個性が強く独立していた。それぞれ事業を受け持つカンパニーが競い合って、収益を向上させるというのが建前だった。

 中国に車両技術を供与するにあたって、カンパニー制の弊害が出た。車両カンパニーは受注を最優先し、中国国内での特許取得の準備を怠った。その結果、最先端の新幹線の技術を盗まれてしまった。JR東海の葛西敬之会長は川崎重工業の国際感覚の欠如を厳しく指弾した。

 取締役会はカンパニーのプレジデント(代表)で構成される。かつて社長・会長を務めた大庭浩氏(03年に78歳で死去)というワンマン経営者が君臨しており、トップダウンで経営方針が決まった時期もあったが、今はカンパニーのプレジデントによる合議制である。カンパニーのトップの多数決で決まる。社長がトップダウンで事を進めることは事実上、封じられてきた。

 三井造船との統合という会社の命運を決める案件を「取締役会を軽視した」という理由で各カンパニーの利益代表が葬り去ったというのが、ことの真相に近いと、今ではいわれている。一時期、川崎重工業を代表する分野だった造船は、いまや苦境に立つ。儲かるといわれている液化天然ガス(LNG)運搬船では中韓勢の安値攻勢を受け、19年12月の引き渡し分を最後に受注残がなくなってしまった。

ロボット出身の橋本社長が挑む水素ビジネス

 2016年にトップに就いた金花芳則社長は「部門横断型の技術開発」を掲げて構造改革を進めるはずだったが、出身母体である鉄道部門で発生した品質問題に足をすくわれた。17年に製造した新幹線の台車に亀裂が生じ、18年には米国向け車両でも品質不良が表面化した。大幅なコスト増で165億円の損失を計上した。

 新幹線の台車亀裂問題で、ガバナンスが機能していないことが浮き彫りになった。「車両カンパニーの不始末と考え、他のカンパニーは我関せずの態度に終始した」(関係者)。全社的な危機感が乏しいことは、これまでと変わらなかったという。

 20年6月の定時株主総会を経て、金花氏の後任として橋本康彦氏が社長執行役員兼最高経営責任者(CEO)に就いた。歴代社長は造船や鉄道、航空宇宙事業出身者で占められたが、橋本氏は長年、傍流視とされてきたロボット部門から出た初めての社長だ。造船、鉄道、航空宇宙事業は壊滅的な打撃を受け、業績が相対的に堅調なロボット部門出身の橋本氏にお鉢が回ってきた。橋本氏はロボット一筋で歩んできた。設計者として双腕の協働ロボット「デュアロ」を開発した実績がある。1990年代に半導体ロボットを米国で拡販し、トップクラスのシェアを築いた人物である。

 川崎重工業は航空宇宙、二輪車、プラント、ロボット、鉄道、造船の6事業のトップが“一国一城の主”として君臨している。岩盤と見られている6事業体制を打ち破ることが橋本氏の使命(ミッション)だ。「スピードが価値と利益を生む。変化に対し敏感に対応できる会社にするのが私の使命だ」。橋本社長は事業方針説明会で、こう力説した。

 6事業部体制を解体する第1弾が二輪車・鉄道車両部門の分社化であり、造船とプラント事業の統合である。陸・空輸送システム(航空宇宙システムカンパニー、車両の新会社)、モーションコントロール&モータービークル(精密機械・ロボットカンパニー、モーターサイクル&エンジンの新会社)、エネルギー&マリンエンジニアリング(エネルギー・環境プラントカンパニーと船舶海洋カンパニーの統合体)の3グループに再編する。

 3つの事業のシナジーの糸口となるのが水素ビジネスだ。水素はすべての事業が関わるプロジェクトで部門横断の研究開発組織「技術開発本部」が担う。一連の事業のシャッフルで30年度(31年3月期)の連結売上高は20年度(21年3月期)見込みの1.7倍の2兆5000億円、売上高営業利益率は8%(営業利益2000億円)を目標にするが、水素ビジネスの30年度の売上高を1500億円に設定している。マーケット(株式市場)からは「楽観的過ぎる」との厳しい声が出ている。

 川崎重工業は水素を冷却し、大量に輸送するサプライチェーンのリーディングカンパニーに飛躍するという。目指すは水素社会の実現だ。6事業部体制の解体、3グループへの再編は、はたしてうまくいくのだろうか。

(文=編集部)

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