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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

クラシックの指揮者、なぜ楽屋は高級ホテル並みに豪華?高級ソファーや冷蔵庫、シャワーまで

文=篠崎靖男/指揮者
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クラシックの指揮者、なぜ楽屋は高級ホテル並みに豪華?高級ソファーや冷蔵庫、シャワーまでの画像1
「Getty Images」より

 オーケストラで指揮をしているとき、このように問いかけられることがあります。

マエストロ、僕が吹いている音は何でしょうか?」

 マエストロというのは、イタリア語やスペイン語で芸術家や専門家に対する敬称として使われますが、クラシック音楽業界では指揮者のことです。これは便利な言葉で、「あ、今回初めて来た指揮者の名前、なんだっけ?」と忘れてしまっても、「マエストロ」とさえ言っておけば問題ありません。20代のペーペーの指揮者から、80代の大指揮者にまで呼びかけることができます。

 関西の繁華街で「社長、安い飲み放題のお店がありますよ!」と声をかけられる「社長」と、なんとなく似ているような気がしますが、それも”当たらずとも遠からず”です。イタリアに行けば、指揮者だけでなくパン屋の主人から生ハムづくりの名人まで、みんな「マエストロ」なのですから。

 さて、冒頭の「僕の吹いている音は何ですか?」との問いには、2つの意味があります。まず、楽譜が古くて、音符の印刷が不明瞭だったり、周りの楽器が出している音を聴いていると、自分の音はどう考えても間違えているのではないか、というものです。実は、楽譜には結構エラーがあり、指揮者のスコアだけ直されている場合が多く、指揮者に尋ねてくることもあります。また、演奏者は間違っているように感じるけれど、それは作曲家の意図であると指揮者が判断することもあるので、確認するために指揮者に尋ねてくることもあるのです。

 しかし、本来ならば、「僕が演奏している音は合っていますか?」と尋ねるところです。自分が演奏しているにもかかわらず、何の音なのかを尋ねてくるのは奇妙です。

 2つ目の意味は、同じ音であってもハーモニーによって高さが微妙に異なることから来るのです。音楽は、メロディー、リズム、ハーモニーから成り立っています。ピアノやギターとは違い、オーケストラの楽器は1人1つの音しか出すことができないので、一般的な3つの音で構成されるハーモニーであれば、最低3人の演奏者が必要となります。

 たとえば、ある演奏者が「ド」を吹いていたとしても、その「ド」がハーモニーのどこに位置するのかで、音の高さを微妙に調整するのです。ハーモニーの真ん中にある「ド」であれば、明るいハーモニーの場合は少し音を低めにとり、暗い場合は少し高めに演奏しないとハーモニーが美しく響きません。とはいえ、この程度の単純なハーモニーであれば、プロの奏者なら自分がどの位置の音を吹いているか即座に判断するのですが、もっと複雑なハーモニーの場合、指揮者に「自分は何の音」、つまりはどの位置の音かどうかを聞いてくるのです。

 その時に、指揮者がおどおどして、「えーっと、ちょっと待ってください……」などと言いながらスコアを必死で見つめてしまうようであれば、「あの指揮者、勉強していないのか」と、オーケストラ全体から白い目で見られることは間違いありません。

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