2021年は地方金融機関の経営統合・再編が加速することになる。再編論者である菅義偉氏が首相に就任後、広域連合や異業種提携が相次いでいる。先陣を切って福井銀行が、同じ福井市内に本店を置く福邦銀行を子会社にする。福邦銀は非上場の第2地銀である。
1月14日、福邦銀が実施する50億円の第三者割当増資を福井銀が引き受けることで合意した。福井銀が福邦銀株式の過半数を取得して子会社にする方向で協議を進める。2021年度中に手続きを完了する。
地方銀行再編を看板政策に掲げる菅政権の発足後、実際に経営統合が決まるのは初めて。共同持ち株会社を設立し傘下に各銀行を置くのが一般的で、子会社にするのは珍しい。当面、福邦銀のブランドは維持し、1グループ2行体制となる。
福井銀の林正博頭取は記者会見で、「効果は変わらず、労力が少ないため子会社を選んだ」と述べた。共同持ち株会社形式では全株式を持ち株会社が持つことになるため、株式交換の手続きが必要になる。新しい組織の役員や管理部門設置もコスト要因となる。福邦銀の渡邉健雄頭取も「(持ち株会社にすると)内向きの仕事が増える。資本関係を強化して弾力的にやっていく」とした。
福邦銀は09年に国から60億円の公的資金を注入されている。福井銀に対する第三者割当増資の実施前に、前倒しして公的資金を一括返済する。利益剰余金をこれに充当する。県内の大企業を中心に大きなシェアを持つ福井銀の20年9末時点の単体の預金残高は2兆7179億円、貸出残高は1兆7851億円。21年3月期の連結純利益は前期比12%増の24億円の見込み。
相互銀行が発祥で零細企業や個人事業主を取引先に持つ福邦銀の20年9月期末時点の預金残高は4387億円、貸出金残高は3170億円。21年3月期の連結純利益は2億7000万円を予定している。両行の福井県内の貸出金のシェアを合算すると金額ベースで50%弱となる。福井銀は福井県内のほか、石川、富山両県にも支店を展開しており、石川県の北國銀行(地銀)、富山県の富山第一銀行(第2地銀)とも提携している。
特例法が地銀再編の号砲となる
人口減少により地域経済は衰退の一途をたどる。長引く日銀のマイナス金利政策。そこに新型コロナウイルス感染拡大が加わり、地方銀行を取り巻く経営環境は一段と厳しくなっている。政府は20年11月、地銀同士の合併に独占禁止法を適用しない特例法を施行。10年間の時限措置だが、これで同一県内の金融機関同士が合併しやすくなる。地銀再編を促すための地ならしである。
日銀も同年11月、経営統合または経費削減に取り組んだ地銀や信用金庫などに対し、日銀当座預金の金利を年0.1%上乗せする制度を取り入れた。22年度までの限定だが、日銀が地銀再編に「アメ」を与えるという異例の措置だ。
法整備の背景には県内合併がタブー視されてきたことがある。長崎県の旧親和銀行(本店佐世保市)を傘下に持つふくおかフィナンシャルグループ(本社福岡市、傘下に福岡銀行、熊本銀行を持つ)と旧十八銀行(同長崎市)の統合協議は16年2月に基本合意してから、公正取引委員会の審査に2年以上かかった。両行を合わせると県内の中小企業向けシェアが75%に上り、競争を阻害する恐れがあると見られたためだ。20年10月、合併が認められ、十八親和銀行がようやく発足した。
親和銀と十八銀の合併が公取委の反対で暗礁に乗り上げたことが、県内合併に道を開くことになったのだから皮肉である。これ以降、新潟県の第四北越フィナンシャルグループ(本社新潟市)傘下の第四銀行(本店新潟市)と北越銀行(同長岡市)が21年1月に合併して第四北越銀行がスタートを切った。三重県の三十三フィナンシャルグループ(本社四日市市)傘下の三重銀行(本店四日市市)と第三銀行(同松阪市)は21年5月に合併して三十三銀行となる。
青森、宮城、山形、福島の東北が次の火薬庫
特例法が県内合併に道を開いた。同じ県内の金融機関同士が合併し、結果的に貸し出しシェアが高くなっても容認される。福井県の福井銀行による福邦銀行の子会社化が合併特例法の第1号案件となったが、21年の最大の焦点は、地域金融機関の再編がどこまで進むかである。
震源地は東北だ。東北の人口は全体の1%程度、約9万人が毎年減り続けている。それなのに東北6県に15行の地域金融機関がひしめき合っている。東北が地銀再編の発火点となる。
青森県はトップを走る青森銀行(本店青森市)をみちのく銀行(同)が追う図式だったが、両行が経営統合を検討していると報じられた。両行は「検討している事実はない」として統合について否定的だが、「公的資金が入っている、みちのく銀が単独で生き残るのは難しいのではないか」(有力金融筋)。「統合すれば県内のシェアは7割を超えるが特例法の適用でハードルは一気に下がる」(東北ブロックの地銀の頭取)。
ただ、みちのく銀が公的資金200億円を返済できるかどうかが今後の大きなポイントになる。公的資金の扱いが統合の最大のネックになる可能性が指摘されている。宮城県は七十七銀行(本店仙台市)、山形県は山形銀行(同山形市)、福島県は東邦銀行(同福島市)が県内で圧倒的なシェアを確保している。そのため、各県の2番手が県境をまたいで合併する可能性が出ている。
仙台銀行(本店仙台市)ときらやか銀行(同山形市)の第2地銀同士が経営統合し、2012年に、じもとホールディングス(HD、本社仙台市)を設立した。じもとHDはネット金融大手で「第4のメガバンク構想」を掲げるSBIホールディングス(HD)と資本提携した。
SBIHDは福島県の福島銀行(第2地銀、本店福島市)、大東銀行(第2地銀、同郡山市)に相次いで資本参加した。だが、SBIのメガバンク構想に参画を表明しているのは福島銀だけで、大東銀は加わらない。SBIのメガバンク構想に参加している宮城の仙台銀、山形のきらやか銀、福島の福島銀の広域連合もありうる。群馬県の東和銀行(第2地銀、同前橋市)もSBIとの資本・業務提携を決めた。
20年10月、静岡銀行(地銀、本店静岡市)と山梨中央銀行(地銀、同甲府市)が業務・資本提携した。20年11月、群馬銀行(同前橋市)が千葉銀行(同千葉市)や第四銀行(同新潟市)、中国銀行(同岡山市)など地銀10行で構成する地銀広域連携「TSUBASAアライアンス」に参加した。
TSUBASAアライアンスに加わった沖縄県の琉球銀行(同那覇市)と沖縄銀行(同)は1月、包括業務提携に進んだ。現在までのところ、両行の経営統合については否定的な考えを示しているし、第2地銀の沖縄海邦銀行(同)は2行連携に参加しなかった。“オール沖縄”を体現する金融機関が果たしてできるのだろうか。
政府・日銀が再編を促すなか、2021年は中位以下の地銀を中心とした動向をチェックしたい。
上位行は、それぞれが主導権を握れるかたちでの広域金融機関を目指すことになろう。具体的なイメージとしては、傘下に地銀首位の横浜銀行(本店横浜市)と都内の第2地銀東日本銀行(本店東京都中央区)を持つコンコルディア・フィナンシャルグループ(本社東京都中央区)、ふくおかフィナンシャルグループあたりだとみられている。
首都圏の地銀最大手の1行である千葉銀行はどうするのか。静岡県の静岡銀行、岡山県の中国銀行が“台風の目”となるかもしれない。
(文=編集部)