トヨタ、章男社長の暴走…広報が競合他社に関する報道に介入、メディアに“説明”要求
「最近のトヨタは、日産やマツダなど競合他社の報道についても『ご説明』を求めてくるようになり、異常としかいいようがない」
トヨタ⾃動⾞の内情に詳しい全国紙ベテラン記者は、同社の広報担当者がマスコミに対する統制を強めていることをこう危惧する。従来からメディアを自社に都合のいいように操りたいという姿勢は示していたものの、今年に入ってから、さらにこの傾向は顕著になったという。
見出しや記事内容が不満だと即座にしつこく電話攻撃
冒頭のベテラン記者によると、最近のトヨタ広報のクレームは、もはや「立派な業務妨害」のレベルに達しているという。
「トヨタ広報は、決算や各種発表の際、事前に新聞各社の担当記者に⾒出しやトーンなどを教えるよう電話で迫るのが常態化しています。これだけでも十分な『圧力』なのですが、ひどいのは実際に記事が配信されたり、掲載された時です。最近はどこのメディアも⾃社のホームページで当日に記事をアップしていますが、その見出しや内容が気に入らないと、即座に現場記者に『後ろ向きの記事ですね』『弊社の販売努⼒をなぜ取り上げないんですか?』などの嫌がらせの電話がかかってくる始末です。他の企業だと、どれだけ⾃社に批判的なことを書かれても後⽇嫌みを⾔ってくるくらいです。事実誤認でもないのに、こんなことは前代未聞で驚いています」
本来、報道機関は、事前に報道する内容を教えてほしいなどという要求は断固拒否すべきだが、記者クラブの担当記者は軒並み、トヨタから出入り禁止にされたくないために真面目に電話に出て対応しているという。取材する側もポチ化して、報道機関としての矜持が失われていることも問題だ。
「なぜ他社は批判しないのか?」と他社報道に⼝出し
さらに、このベテラン記者が⾔う通り、競合他社の報道についても「ご説明」を求める電話攻勢を始めたというから、異常さがさらに一段階上がったといわざるを得ない。この記者の弁。
「例えば、日産は1月27日付で2030年代早期から主要市場で投入する新型車をすべて電動車両にするとプレスリリースしましたが、これについてトヨタ広報が記事を掲載・配信したメディアに対して、『なぜこのトーンや⾒出しになったのか教えてほしい』『なぜ⽇産の取り組みは肯定的に取り上げられるのか』などの『ご説明』を求めたわけです。リリース処理の性質の記事なので、淡々と事実を全社とも書いただけなのですが、2月に入ってからも同様の傾向は続き、マツダなど競合他社の報道についても『ご説明』を求め続けています」
自社に関する記事についての問い合わせなら、「ご説明」もまだ正当化できるかもしれないが、さすがに他社の報道にまで口出しをするのは、やりすぎだといわざるを得ない。
イエスマンの新執行役員入りが報道圧力を強めた
トヨタのマスコミ統制がひどくなったのは1月1日付の人事が大いに関係しているという。
この執行役員人事では、寺師茂樹氏が外れたことで、トヨタを支えるはずの「7人の侍」が章男氏のほか、番頭の小林耕士氏のたった2人になってしまったことが関係者の間で話題になった。7人の侍というのは、18年2⽉に静岡県にあるトヨタ創業者の豊⽥喜⼀郎氏の再現された生家の仏間に集結し団結の⾎判状まで作成した章男⽒と6⼈の当時の副社⻑のことだ。たった3年で⾝内の⼩林⽒しかいなくなってしまい、「章男⽒のワガママっぷりが⼀層進む」(トヨタ担当記者)とみられている。
その象徴が、新執行役員に昇格した長田准渉外広報本部副本部長だ。広報を統括するチーフコミュニケーションオフィサー(CCO)という日本では聞きなれない役職に就任した長田氏は、社内では「取り立てて目立った業績はなく、章男氏へのヨイショだけでのし上がった」(トヨタ関係者)と評判は芳しくない。この長田氏が広報政策の責任者に就任してから、前述のような業務妨害としか思えないクレーム攻勢が激しさを増したことを考えると、「章男氏の意向を受けた長田氏が社内ヨイショのため、メディアに対する圧力を強めている」(全国紙経済部デスク)と思われる。
章男社⻑「メディアの理解が⾜らない」とコロナ禍でリアル懇親会
トヨタの章男社長のマスコミ嫌いが増していることについて、筆者は日本を代表する巨大企業の透明性は確保されねばならないとの立場から、たびたび批判してきた。決算会見が宗教儀式と化していることや、気に入らないメディアを出入り禁止にするどころか新聞社を買収する動きを強めていることなどをこれまでに報じてきたので、ご参照いただきたい。
その章男氏だが、今月初め、東京・日比谷の東京ミッドタウン内にある高級車「レクサス」の体験型施設「レクサスミーツ」で、在京メディアを対象としたリアルでのオフレコ懇談会を実施した。章男氏が直々に参加したが、「初回だからなのか、当たり障りのない内容だった」(先のトヨタ担当記者)という。
トヨタのオフレコ懇談会自体は、コロナ禍前は愛知県の章男氏の自宅で毎朝行われていたが、章男氏が「在京メディアが批判的なことを書くのは理解が足らないからだと考え、懐柔工作に乗り出してきた」(同)。感染対策の上、午前中に開かれたとはいえ、コロナ禍での緊急事態宣言中にリアル懇談会を開くこと自体、非常識といわざるを得ない。
中日新聞、章男社長の「真意」をイタコ報道
章男氏が在京メディアに不満を持つのも無理はない。愛知県など東海、中部地⽅に本拠を置く地元メディアや、全国メディアの名古屋本社のトヨタ担当記者はすでにポチ化が完了しており、批判的な報道をするようなメディアは皆無となっているからだ。
なかでもブロック紙の中日新聞の「御用新聞化」は際立っている。代表例が昨年12月25日付朝刊に掲載された『豊田会長発言 真意は「一石」 「EV」ひとり歩きに懸念 電動車への正しい理解促す』だ。「特報」と題されたこの記事は、章男氏本人へのインタビューならまだしも、なんと中面の1面すべてを使って章男氏の「真意」をまるでイタコかのように解説しており、トヨタの⾃社メディア「トヨタイムズ」と錯覚するような、客観報道とは程遠い内容となっている。
内容的には、昨年12月17日に開かれたオンライン懇談会で章男氏が日本自動車工業会会長としての立場から、政府が最近発表した2050年までに温室効果ガスを実質ゼロにする「カーボンニュートラル」についての発言を取り上げている。この懇談会では「電動化=電気自動車(EV)化という浅い認識をマスコミと政治家が広げている」という“アキオ劇場”が急に展開され、参加者したメディア関係者のひんしゅくを買ったことについてはすでに報じた。
中⽇新聞の記事では冒頭から、章男⽒の発⾔が「⼀部報道で、豊⽥⽒がガソリン⾞を廃⽌する⽅向性に反対姿勢を⽰し、あたかも政府と対⽴するような構図で描かれた」とした上で、「豊⽥⽒は本当に脱ガソリン⾞政策に反対し、政府批判を展開したのか。真意を探った」と始まり、章男⽒の主張がそのまま掲載されている。
筆者は章男氏の「急速な電動化は日本の自動車業界にとってよいことではない」という主張自体は正しいと考えるため、それに沿って記事を組み立てることは問題ではないと考える。むしろ、この記事中で看過できないのは、中⾒出し「『エネ議論』狙い」の部分だ。「複数の関係者によると、今回の一連の発言は、日本がカーボンニュートラルという大きなハードルを乗り越えるために、社会全体の電動車への正しい理解を共有し、エネルギー政策の『大変革』についての議論を促すように一石を投じる狙いがあったとみられる」とあるが、トヨタ関係者からの働きかけに基づいて、こんなヨイショを地の文で書いているのだとすれば、「特報記事」どころか、単なる広告記事である。
情報誌「ファクタ」が3月5日に「トヨタ章男の奇行に愕然」という号外速報をオンラインで公開した。この記事によると、先月の日本経済新聞社主催の「日経スマートワーク大賞2021」の表彰式で、章男氏が突然会場を訪れ、大賞にトヨタが選ばれたにもかかわらず、日経の岡田直敏社長に向かって普段の⽇経の報道姿勢への批判を始め「出入り禁止だ」などと悪態をつき、場の雰囲気をぶち壊したという。
これまでの章男氏のマスコミ批判は、記者会見や懇談会など自社の活動の範疇にとどまっていたが、今回が決定的に違うのは、表彰式には章男⽒の⽇経に対する不満とはまったく関係のない企業の担当者も出席していたところだ。自分のストレス解消のために、他人の晴れの場を台なしにするとは、経営者云々というより、もはや社会人として失格である。
圧倒的な社会的影響⼒にともなう説明責任がありながら、報道機関を敵視し、あれこれ批判されると逆ギレする。そのくせ、⾃分はマスコミだろうが業界違いの他社だろうが業務妨害や迷惑⾏為をしても許されるというのは、さすがに傲慢も過ぎるというものだろう。
章男⽒本⼈は巨⼤企業の創業⼀族として苦労したことを強調するが、それはそれとして、⽇本社会がそういう特別な出自ではない一般人が圧倒的多数を占める以上、最低限の礼節や常識は⾝に着けてほしいものである。「国⺠⾞」をつくってきたトヨタなら、なおさらではないか。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)