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「赤ずきん」は心神喪失で無罪?NHK Eテレ『昔話法廷』がリアル&重厚すぎて大反響

文=菅谷仁/編集部
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NHK Eテレ『昔話法廷』公式サイトより

 NHK Eテレの番組『昔話法廷』がじわじわと反響を広げている。豪華俳優陣の起用や小中学生向け教材とは思えないような重厚かつシリアスな内容に加えて、視聴者が最も気になる“判決シーン”がなく、“後味の悪さ”が逆に評判になっている。29日朝には最終回『「桃太郎」裁判』が放送され、『昔話法廷』というワードが同日午前、Twitterのトレンドにランクインした。

 最終回では、“鬼に対する強盗殺人”の罪に問われた桃太郎(仲野太賀)を追及する天海祐希が演じる検察官と、佐藤浩市演じる検察官の息詰まる論戦が展開され、“差別”という重いテーマに深く切り込んだ。

 同番組は、『シンデレラ』や『浦島太郎』などの童話や昔話の主人公や主要キャラクターを被告人として、裁判員裁判を行うという意欲作だ。脚本はNHK大河『おんな城主 直虎』を手掛けた森下佳子氏が担当した。

 前出の桃太郎の事例のように、各物語の主人公らは現代日本の法律を踏まえるとなんらかの罪を犯している可能性が高い。例えば、3月11日に放送された『「赤ずきん」裁判』では、佐藤玲演じる赤ずきんが「お腹に大量の石を詰めて、オオカミを殺した罪」に問われた。しかも同放送回では、殺人事件でたびたび焦点になる「被告人の心神喪失による責任能力の有無」がテーマになっていた。

『赤ずきん』は心神喪失だったのか?

 『「赤ずきん」裁判』では冒頭、検察官の吉田羊が起訴状を朗読するところから始まる。

「赤ずきんは、残虐極まりない方法でオオカミを殺害しました。おばあさんの見舞いに向かった赤ずきんは、森で出会ったオオカミに、おばあさんの家の場所を教えてしまいました。先回りしたオオカミはおばあさんに化けて待ち伏せし、後から来た赤ずきんも食べてしまいました。偶然通りかかった猟師が寝ているオオカミのおなかを裂いて2人を救出。その後、赤ずきんは大量の石を拾ってきて、オオカミのおなかに詰めて殺害したのです。赤ずきんの犯した罪は刑法第199条の殺人罪に当ります」

 しかし赤ずきんは罪状認否で罪を認めたものの、犯行当時について「その時のことは覚えていない」と証言。加えて、弁護士の竹中直人が「オオカミに食べられた赤ずきんは精神障害を起こし、心神喪失の状態にありました。すなわちやってはいけないことの判断ができず、自分の行動を制御できなったのです。刑法第39条により、赤ずきんは無罪です」と主張する。

 続く証人尋問では、殺されたオオカミの母親に対し、検察官が「オオカミのお腹に詰められていた大量の石」を示しながら犯行の残虐性を強調。オオカミの母親が赤ずきんににじり寄って「赤ずきんとおばあさんを襲った息子が悪いのはわかっていますよ。でも、こんなにむごい殺し方をしなくてもいいじゃありませんか!お願い!息子を帰して」などと絶叫する場面も差し込まれた。

 一方、弁護士は「オオカミに食べられた赤ずきんは胃の中で“低酸素脳症”に陥り、もうろう状態にあった。想像を絶する死の恐怖を味わったことで、強い心的外傷を負った」と反論。精神科医の鑑定結果を提出するのだった。

 続いてオオカミに食べられた赤ずきんのおばあさんが証人尋問に登場。検察官と弁護士の攻防の中、赤ずきんの精神状態に対する疑義が生じたり、新たな物証が検察官から提示されたりして、事件の全容に一歩ずつ近づいていくのだが……番組は検察官、弁護士、双方の最終弁論で終わる。判決シーンはない。

本当の裁判なら検察側が起訴前鑑定をやっているはず

 通算10年以上司法担当を務め、多くの裁判員裁判を傍聴してきた全国紙社会部記者は同番組について次のように語る。

「不謹慎な言い方かもしれませんが、争点が明確でわかりやすく、なにより面白いです。伝説の冤罪弁護士、正木ひろし氏が大活躍していた昭和ならまだしも、現代の裁判は物証や証言を巡る地味な確認作業が大半なので、あそこまで見事な検察官、弁護士の討論を聞くことは滅多にありません。

 オオカミは人なのか、死んだオオカミが赤ずきんを襲った殺人未遂の罪状は別に審理されているのか、オオカミの腹を裂いた猟師は緊急避難で許されるのか、そもそも赤ずきんは何歳なのかなど、疑問に思うところがないわけではないですが、子ども向けの教材としてはよくできていると思います。

 『赤ずきん裁判』の回で付け加えるのであれば、弁護士側の(精神)鑑定結果しかないというのは少し解せません。こうした事案であれば、検察側が起訴前鑑定をやっているのが当然ですから。精神鑑定は医師の問診の質や回数などで結果に差が出ます。本物の裁判では、双方の鑑定結果を巡って争うことになるのではないでしょうか。

 裁判員制度が導入されてから、誰もが殺人や強殺などシビアな裁判の審理に参加する可能性があります。こういう番組で、裁判の仕組みや事件の見方を学ぶのは子どもだけではなく、大人にとっても役立つとは思います」

 番組公式サイトでは、各話の動画が視聴できるほか、児童・生徒用、教員用の各種教材資料もダウンロードできる。学校の授業に使用するだけではなく、子どもたちの長期休暇中の自由研究などにも活用できるかもしれない。

(文=菅谷仁/編集部)

菅谷仁/Business Journal編集部

菅谷仁/Business Journal編集部

 神奈川新聞記者、創出版月刊『創』編集部員、河北新報福島総局・本社報道部東日本大震災取材班記者を経て2019年から現職。

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