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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

クラシックコンサート、ソリストがドタキャンしたらどうなる?観客が知らない壮絶な舞台裏

文=篠崎靖男/指揮者
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クラシックコンサート、ソリストがドタキャンしたらどうなる?観客が知らない壮絶な舞台裏の画像1
「Getty Images」より

 リハーサル最終日。コンサートを翌日に控えて、ソリストのソプラノ歌手も参加する予定です。僕も大好きな歌手なので楽しみにしながらリハーサル会場に到着したところ、真っ青な顔をした事務局員が僕を待ち構えていました。

「歌手が風邪を引いてしまって声が出ないらしいです。マエストロ、どうしましょうか?」

「アチャー」と残念に思うしかありませんが、そこで判断できることは限られています。

(1)ほかの歌手を代役として探す

(2)プログラムを変える

(3)ソリスト歌手なしにして、オーケストラ伴奏だけで演奏する

 まあ、3番目のオプションは冗談にもならないので除外するとして、まずは1番目の「ほかの歌手を探す」です。僕はいくつかの指示を出し、「見つかればいいけれど……」と希望を持ちながら、とにかく、オーケストラ楽員が待っている会場へ行き、1時間程度のリハーサルをします。そして休憩時間となり控室に戻ってみると、この1時間の間に片っ端から音楽事務所に電話をかけまくった事務局員が僕を待っています。その時に、「見つかりました!!」となれば一件落着なのですが、実際は「今、返事を待っています」という答えがほとんどです。そして再びリハーサルに戻り、次の休憩になって、いよいよ深刻さが増していきます。コンサートは翌日に迫っているのです。

 定番のオペラであれば、それこそ公演直前に電話一本で呼び出された歌手が、そのまま舞台に立ってなんとか歌いこなすことはできますが、オーケストラと共演する曲は馴染みがないものも多く、予定が空いていたとしても「歌ったことがないので、明日、急に歌うのは無理です」と断られることも多いのが現実です。特に現代曲の場合は、初演に出演した歌手しか歌えないことも多く、そんな場合、まったくのお手上げとなります。そこで、2番目オプションである「プログラム変更」の可能性が浮上します。

 余談ですが、オーケストラのプログラムづくりにおいて、ソリスト選びは重要です。これは人気があるソリストを選べばよいというだけではなく、ソリストの楽器も慎重に考えなくてはなりません。そんななかで人気があるのは、なんといってもピアノとヴァイオリンです。これはモーツァルト時代より前から同じで、古今東西の作曲家たちは、この2つの楽器のために多くの協奏曲を書いてきました。しかし、ピアノ好きな客とヴァイオリン好きな客の層は違いますし、どちらにしてもピアノとヴァイオリンばかりにするわけにはいかないので、楽器別にソリストをバランスよく散りばめなくてはなりません。

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