
なんとも恐ろしい話ではないか。
国際オリンピック委員会(IOC)のジョン・コーツ副会長が記者会見で、緊急事態宣言のさなかでも、東京オリンピック・パラリンピックは開催するかと問われ「答えは『イエス』だ」と断言。日本の世論の大半が今夏の五輪開催に反対しているが、コーツ氏は「もし(世論が)改善しないとしても、我々は我々の仕事をするだけだ」と言い切った。
日本に暮らす人々の健康を省みないIOC幹部らの“暴論”、それに唯々諾々と従う日本政府
さらにトーマス・バッハIOC会長は、国際ホッケー連盟のオンライン総会で、「最後のカウントダウンが始まった」とし、東京大会の開催を宣言。「五輪の夢を実現するために誰もがいくらかの犠牲を払わないといけない。アスリートは間違いなく彼らの五輪の夢を実現することができます」と述べた。
なぜ日本の人々が、IOCや一部のアスリートの夢の犠牲にならなければならないのか!? これまでも私たちは、多額の税金投入という犠牲は十分払ってきた。だがコロナ禍の今、犠牲が命や健康にまで及ぶおそれを多くの人が感じている。
そんななかでのIOCトップらの発言は、まさに五輪至上主義ここに極まれり。開催地で暮らす人々の命や健康に対する不安を、まったく省みない暴論といえよう。
バッハ会長は今月19日から行われた東京オリパラ調整委員会に出席するはずだったが、緊急事態宣言下の来日を回避。オンライン参加し、挨拶でこんな風に日本人を持ち上げていた。
「大会が可能になるのは日本人のユニークな粘り強さという精神、逆境に耐え抜く能力を持っているから」
欧米各国であれば、暴動でも起きかねない状況だろう。それでも、日本の人々は「堅忍持久」「耐え難きを耐え」の犠牲的精神で対応してくれて、自分たちにとってはなんとも都合がよく、ありがたい、ということだろう。
なめられたものである。そうしたIOC幹部の発言に、大会組織委や日本政府はなんの異も唱えず、唯々諾々と開会準備にいそしんでいる。民意よりもIOCを優先する日本政府のありさまは、まるで終戦直後のGHQ支配下の時代に戻ったかのようである。
直近の調整委員会では、選手1万5000人のほか、7万8000人の関係者が世界中から来日予定であることが明らかになった。前回の本欄でも指摘したように、選手村に隔離される選手たち以上に、後者の関係者が市中に感染を広げるリスクが懸念される。海外から入国する関係者が18万人にのぼるという当初の想定よりだいぶ絞り込まれたとはいえ、7万8000人という数は相当に多い。
出入国管理統計(速報値)によると、今年4月に日本に入国した外国人の数は1万7557人。これに帰国する邦人が加わり、今でも水際対策に苦慮している状況だ。東京や大阪では、海外渡航経験のない人が、インドで流行している変異株に感染している事例も出ている。検疫をすり抜けた人から、市中感染が始まっている可能性がある。
五輪を強行すれば、4月の来日外国人の4倍以上に及ぶ人たちが、現在変異株が流行している国々を含めて世界中からやってくる。出国前に検査を行い、陰性証明書の提出を求めるとはいえ、直前に感染した場合は検査をすり抜けてしまう可能性は否定できない。また、その時点でどれだけの人たちがワクチンを接種済みかも不明だ。