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“国家事業”リニア新幹線、問われ始めた存在意義…追加費用1兆円超、JR東海の経営圧迫

文=編集部
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山梨リニア実験線で試験中のL0系(「wikipedia」より/Hisagi)

 JR東海(東海旅客鉄道)は、リニア中央新幹線の品川-名古屋間(約286キロメートル)の総工費が従来計画から1兆5000億円増え、7兆400億円になると発表した。費用の増加の主な内訳は品川、名古屋ターミナル駅の難工事への対応に5000億円、地震対策の強化で6000億円、トンネルの掘削に伴い発生する残土の運搬費用3000億円などだ。

 リニア中央新幹線は最高時速500キロで品川―名古屋間を40分で結ぶ。東海道新幹線より、およそ1時間短縮される。27年の開業に向け工事を進めてきた。従来の総工費は同区間で5兆5000億円。37年の大阪延伸開業を目指しており、大阪までの総工費は9兆円を想定していた。財政投融資を活用し、国から3兆円を借り入れている。

 金子慎社長は記者会見で、総工費の増加分について「営業キャッシュフロー(本業による現金収入)を主体に、不足分は新規の借り入れで賄う」と説明した。当初計画していた2027年開業は難しいとする見方を維持した。静岡県内のトンネル工事について、川勝平太知事は水資源への影響を理由に、本格着工を認めていない。

21年3月期の最終赤字は2015億円

 2021年3月期の連結決算は売上高が前期比55.4%減の8235億円、営業損益は1847億円の赤字(20年3月期は6561億円の黒字)、最終損益は2015億円の赤字(同3978億円の黒字)だった。最終赤字は1987年の国鉄分割民営化でJR東海が発足して以来初めて。新型コロナウイルスの感染拡大で出張や旅行の自粛が広がり、“ドル箱”の東海道新幹線の利用が落ち込んだ。百貨店やホテルも苦戦した。

 東海道新幹線を主力とする運輸事業の営業収益は前期比62.7%減の5330億円、営業損益は1833億円の赤字(同6176億円の黒字)。JR東海高島屋を中心とする流通部門の営業損益は122億円の赤字(同74億円の黒字)。JR東海ホテルズなど「その他の事業」の営業利益は90%減の13億円。駅ビルなど不動産事業は130億円の営業利益をあげたが、コロナ禍による収入の落ち込みを補填できなかった。

 コロナによる収入減は東海道新幹線が大半で、1兆220億円に達した。年間配当は130円と前期から20円減らした。22年3月期の売上高は前期比49.8%増の1兆2340億円、営業損益は2150億円の黒字、最終損益は900億円の黒字を見込む。コロナワクチンの接種が広がり新幹線の利用が回復するとみている。金子社長は「(利用状況は)7~9月期は18年と比べ65%、10~12月以降は80%程度で推移する」とした。

 東海道新幹線一歩足打法だ。JR東日本の首都圏、JR西日本の近畿圏のような安定収入路線を持たない。コロナワクチンの接種がどの程度、広がるかに新幹線の利用状況の回復はかかっている。難問はリニア中央新幹線が開通できるかどうかである。

リニア工事による大井川水量問題が静岡県知事選の最大の争点

 JR東海リニア中央新幹線の東京・品川-名古屋間の総工費が想定より1.5兆円増え7兆円になると発表したことについて、静岡県の川勝平太知事は4月28日の記者会見で、「計画した5.5兆円の3割弱も余計にお金がかかるのは重大なことだ」と述べた。その上で「既存の新幹線(の収入)で賄うモデルになっているが、一回立ち止まって考える時に来ている」とした。「余計な経費もかかる。これで本当に開業までの資金を賄えるのかどうか」とも指摘した。

 60万人が利用する大井川の水量が減る恐れがあるとして、川勝知事が県内の工事許可を出していない。20年6月、JR東海の金子社長と川勝知事のトップ会談が行われたが、決着がつかず、27年開業の延期が事実上決まった。37年の大阪延伸もアウトである。

 任期満了に伴う静岡県知事選(6月3日告示、20日投開票)は、4選を目指す現職の川勝氏と自民党県連が全面支援する党所属の参議院議員で国土交通副大臣の岩井茂樹氏(静岡選挙区)の一騎打ちとなる。川勝陣営には立憲民主、国民民主の両党県連と連合静岡が支援態勢を構築。与野党が全面対決する構図だ。

 大井川の流量減少問題が知事選の最大の争点になる。川勝氏が再選すれば工事許可を出すことはないだろう。岩井氏が当選しても、おいそれとはOKは出せないだろう。大井川流域の市と町は、「住民の理解なしに工事に着手しないよう」要望している。これに対してJR東海は「住民の理解と協力が前提」と回答しているからだ。

「ルートを変更するしかないのではないのか。JR東海はルートを変更するとスピードが落ち、時間が余計かかると反対しているが、それはJRの都合。流域市町の住民にとっては死活問題だ」(地元の経済記者)

 20年6月の株主総会でリニア中央新幹線の強力な推進役であった葛西敬之名誉会長が取締役を外れた。葛西氏の在任中の“最大の功績”は、リニア中央新幹線を国家事業に格上げしたことだ。安倍晋三首相(当時)との太いパイプが物をいった。葛西名誉会長と安倍首相の共同プロジェクトと陰口を叩かれたリニア中央新幹線は、大きな転機を迎えることになった。

「早く着くことはいいことだ」という価値観が根底から見直されるかもしれない。リニアの優先順位はかなり下がるかもしれない。「令和の『戦艦大和』になる」(霞が関の高級官僚)といった冷めた見立てまである。

 リニア車両が発する強力な電磁波の影響について指摘もなされているが、自然環境を破壊してまでやらなければならない国家的な事業なのかという議論は尽きない。

(文=編集部)

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