パソコン用ゲームコンテンツの製作を手掛ける「アリスソフト」(運営事業者:チャンピョンソフト、大阪府北区)に所属していた主要クリエイターの退職報告が重なったことで16日、Twitter上で「アリスソフト」が急遽トレンド入りした。一部のファンや同業者の間で、動揺の声が上がっている。
メーンクリエイターの突然の退職報告
同社のゲームソフトのメインイラストレーターの魚介氏は16日、以下のように自身のTwitterアカウント上で退職を報告した。
【お知らせ】14年間所属しておりましたアリスソフトを退職しフリーランスの絵描きになりました。
— おののいもこ?魚介 (@_himehajime) June 16, 2021
どうぞよろしくお願いいたします ぺこり pic.twitter.com/hupmd2Hw5p
「【お知らせ】14年間所属しておりましたアリスソフトを退職しフリーランスの絵描きになりました。どうぞよろしくお願いいたします ぺこり」(原文ママ、以下同)
それと前後するように、ディレクターでゲームデザイナーのオーリン/いってんちろく氏も以下のように退職報告をした。
【ご報告】アリスソフト退職について pic.twitter.com/371RrHhox7
— オーリン?いってんちろく (@ohlinz) June 16, 2021
そんな同社の先行きを不安視する一連の報告に、一部ファンからは以下のような動揺の声が上がった。
「いってんちろくさんと魚介さんが揃ってアリスソフトを退職。特に魚介さんはイラストレーターとして近年人気が高まっていて、会社に所属するメリットが薄そうだったので驚きは少ない。新天地でコンビ作品がまた生まれると良いなあ」
「まだ捨てられない、アリスソフトのグッズ達。絵師さんとメインプログラマーの方が退職だそうですね。私はもう22年付き合いだけど、前のむつみまさと達が退職した時も『アカンかな』と思っていたけど生き残れたけど、今回は大丈夫なのかな」
業界専門誌『TECH GIAN』は休刊を発表
ゲームソフト業界では、専門月刊誌『TECH GIAN』(KADOKAWA)が6月12日、以下のように休刊を表明して物議を醸したばかりだった。
「来月9月号を持ちまして休刊させていただくこととなりました。1996年のムック時代、そして1997年9月に刊行した創刊号以来、24年間10ヶ月の長い間、まことにありがとうございました。 次号はお祭り号です。ぜひ最後の応援、よろしくお願いします!」
同誌の休刊に関してKADOKAWAの関係者は語る。
「実売部数は1万部を切り、かなり落ち込んでいましたからね。昨年くらいから原稿料を極限までカットするなどして糊口をしのいでいたようですが限界が来たのではないでしょうか」
アリスソフトはパソコンゲーム業界の“老舗”のひとつだ。育成RPGや戦略シミュレーションゲームなどを多く開発していることが特色だ。
同業界内では近年、厳しいニュースが相次いでいる。2018年1月にLassが破産。19年2月にアニメ映画監督の新海誠氏がOP映像を手がけた作品を発売していたminoriがソフト制作からの撤退を表明している。
業界全体の先行きを危惧する声も聞かれる一方、大手メーカーに寄らない同人ゲームの製作・販売は好調との意見もある。大手ゲームメーカー社員は一連の動向に関して次のように語る。
「成人向けゲームコンテンツの市場規模が縮小しているかどうかは正直わかりません。アリスソフトさんの経営状況も推測では語れません。ただ業界全体の一般論として、ファン層の世代交代はうまくいっていないという部分はあるのかもしれません。スマホ、タブレット世代の現在の20代にもファンはそれなりにいるとは思いますが、アリスソフトさんに多い20年来、30年来のファンは40代です。
そうしたゲームを新規に始めようと思う若い層に、うまくリーチできているのかということです。その背景には、作品のPRが年々しにくくなっていることがあるのではないでしょうか。
昔は新作ゲームソフトのPRはテレビCMやマンガ雑誌、ゲーム雑誌などがメーンでした。しかし、今のゲームソフトのPRはウェブが主戦場です。最近のSEO (検索エンジン最適化)の潮流的に、アリスソフトさんが手掛けるようなソフトのPRは厳しさを増しています。
各社ともに自社サイトやSNSなどを駆使してできるだけ露骨な表現をせず、年齢認証なども徹底してPRを行おうとしてはいます。ただ、いくら自社媒体でPRしようにも限界はあります。SEOの観点からそうした作品を取り上げるウェブメディアは極めて限られるというのが今の実情ではないでしょうか。
紙媒体はかねてからの出版不況もあって、たくさんあったゲームソフト雑誌の休刊がここ数年相次ぎました。そして、今回、今までかろうじて生き残っていた『TECH GIAN』さんが休刊することになりました。PRや新規ユーザー獲得の手段は確実に少なくなっているとは思います。
一部の有名メーカーでは、性的な表現を抑えた『非成人向け』の恋愛アドベンチャーゲームの開発にシフトしたケースもあります。ソフトメーカーはもちろん、各社に所属しているクリエイターもまた生き残りに必死な時代です。アリスソフトさんに限らず、クリエイターの退職や移籍、独立は今後も続くと思います。業界全体が変貌していることは間違いないと思います」
(文=編集部)