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「山口組組員」だった異色の司法書士・甲村柳市氏に聞く「人生のリセット」

元山口組系ヤクザが46歳で司法書士に転身した理由とは?獄中で決意、独居房で民法を丸暗記

文=編集部
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東亜国際合同法務事務所代表の甲村柳市氏

 現在、岡山市内で東亜国際合同法務事務所の代表として司法書士や行政書士の業務に携わる甲村柳市氏は、1972年生まれの49歳。現在のやわらかな物腰からは想像がつかないが、なんとかつては山口組傘下組織の構成員で、服役の経験もあるという。司法書士試験という難関に挑戦しようと考えたのも、獄中だった。

「街の法律家」とも呼ばれる司法書士は、弁護士よりも相談しやすい専門家として不動産や商業登記、供託や少額訴訟、最近では成年後見などもサポートしている。

 46歳で合格率3%の壁を突破し、プロとして活躍する「元不良」の甲村氏に、日本の不動産や経済の問題、司法書士の仕事と受験勉強などについて聞く1回目。

懲役4回の元ヤクザが38歳で一念発起

――司法書士試験の受験は、服役中に決意されたそうですね。

甲村柳市氏(以下、甲村) そうです。広島刑務所に服役していた38歳のときに突然思いついたんです。その前から、漠然と「40歳になるまでは好きなことをやって、それで成功すればそのまま突っ走れ! ダメなら40歳で一からやり直せ!」と考えてはいたんですが、じゃあ実際にはどうすればいいのか。これはもう誰かが教えてくれるわけもなく、自分自身で見つけなければなりません。

 私の最終学歴は中学校で、懲役4回の元ヤクザ。サラリーマンは性に合わないし、そもそもどこも雇ってくれないじゃないですか。それで、難しい資格を取ろうと思って司法試験の受験を考えました。もともと若い頃から労働者派遣事業やキャバクラ経営などに経営者として携わっていて、法律とは無縁ではなかったんです。

 でも、服役経験があるので、司法試験に合格しても開業できない可能性がありました。弁護士法第7条では、欠格事由として「禁錮以上の刑に処せられた者」を挙げています。前科のある弁護士さんもいるようなんですが、せっかく合格しても開業できなければ意味ないですからね。

 これに対して、司法書士の欠格事由は「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなってから3年を経過しない者」(司法書士法第5条)なので、出所して3年経てば開業できるんですよ。学歴も性別も不問。それで、受験勉強を始めました。

――獄中で、ですか?

甲村 そうです。最初は友人に頼んで参考書や問題集を差し入れてもらって読んでみると、これはおもしろそうだと思いました。試験は、憲法、民法、商法、会社法、刑法、不動産登記法、商業登記法、供託法、民事訴訟法、民事執行法、民事保全法、司法書士法の12科目です。口述試験(面接みたいなもの)もありますが、まずは一次試験を突破することです。そこで、民法の丸暗記から始めました。

――民法って、条文が1000以上ありますよね?

甲村 そうですね。条文には「枝番号」もありますしね。たとえば第三条と第四条の間に新たに条文を入れる場合は、ずれないように「第三条の二」のように入れていきます。これを枝番号というんですが、これも入れると、ものすごく多い(笑)。それをひたすら暗記しました。実は試験において暗記は重要ではないのですが、まったく無意味というものでもありません。

――刑務所で勉強できるのですか?

甲村 雑居房では周囲に人がいて集中できないし、刑務作業もあるので、わざと問題を起こして懲罰を受けて、独居房に入れられて勉強していました。懲罰を受けると、刑務作業もなく、ずっと独りで安座(あぐら)の状態を保ちつつ、壁に向かって丸一日を過ごすことになります。

 ただし、懲罰は仮釈放の審査に影響があるし、面会や手紙も認められません。所内の運動会などのイベントにも参加できません。イベントで配られる菓子を楽しみにしている懲役(=受刑者)も多いのですが、私は仮釈放にも菓子にもまったく興味がなかったですね。もちろん、早く出所できればそれはそれでうれしいのですが、それより勉強を最優先にしていました。

 刑務官に見つからないように、小声でぶつぶつ言いながらひたすら覚えていきました。「けっこう覚えられるもんなんやなぁ」と自分でも驚くくらい正確に丸暗記できて、ますます勉強がおもしろくなっていきました。

 ちなみに、独居房に持ち込めるのは洗面道具と箸、トイレットペーパーくらいなので、事前に便箋に民法全文を書き写しておいて、コッソリ持ち込んでいました。詳しいことは今度出版する本に書くので、お楽しみに(笑)。

「できない」のは自分のせい

――たくさんの条文を暗記するって、考えるだけで挫折しそうです。

甲村 この私ができたんだから、可能性は誰にでもありますよ。一番悪いのは、最初から「ムリ」と決めつけたり、失敗を恐れたりして何もしないこと。まずは一歩を踏み出してみることが大事じゃないかな。できないのは周囲のせいではなく、自分のせいですよ。何か理由をつけて誰かのせいにしているけど、「本当の敵」は自分です。精神を集中して、信念と執念を味方にできたら強いですね。

 あきらめない、妥協しないこと。あとは、やっぱり「辛抱」と「忍耐」です。それと、周囲の言葉は気にしないこと。私もインターネットで「元ヤクザのくせに……」とか書かれているようですが、「とらえ方・考え方は人それぞれにあるんだな」と、苦笑いしながら見てますよ(笑)。

――悔しかったら受かってみなさい、ということですね(笑)。

甲村 まぁ、そうも言わんけどね(笑)。もちろん、努力して辛抱して耐え忍んでも結果を出せないことはあります。でも、努力しなければ何も始まりません。努力なくして勝利なし、ということです。それに、「合格」とか目指したものが手に入らなくても、その努力は無駄になりません。きっと何かを手に入れられます。若くなくても、司法書士試験ではなくても、好きなことに勇気と希望を持って挑戦してみてはどうですか?

宅建と行政書士に一発合格

――合格までの8年間は、長かったと思います。

甲村 ちゃんと休憩もしていましたし、それほど苦痛ではなかったですね。勉強は楽しくて、すればするほど手ごたえを感じていました。どんどん自信がついてくるので、「次はいけるんちゃうかな?」と毎回思っていました。

 2011年に出所して岡山県に戻って、多い日は1日12時間くらい勉強していました。司法書士試験の前に宅建(宅地建物取引士)と行政書士は一発合格したので、これも自信につながりました。

 司法書士の合格率が3%と知ったのは、出所してからですね。100人受けて3人しか合格できないなら、「その3人に入ったろう」と。誰でも受かる試験なら受ける必要もないですしね。勉強は好きですが、息抜きも必要ですよ。週末や祝日は友達と釣りに行ったりしていましたし、平日も勉強が終われば飲みに行っていました。

――息抜きの効果もあって難関を突破、開業に至ることができたんですね。現在の事務所に近い倉敷市内では、山口組の分裂にからむ発砲事件が続いています。この件についてもお聞きしたいのですが?

甲村 いや、もう縁を切った世界なんで全然わからないですね。まったく興味もないし。記者さんのほうが詳しいでしょ? これからは世の中の役に立つことをしていきますよ。司法書士として、不動産がらみの事件などの分析などもしてみたいですね。

(※続く)

(構成=編集部)

【プロフィール】甲村柳市(こうむら・りゅういち)
1972年岡山・美星町生まれ。ごく普通の子どもだったが、中学校に入った頃から不良に憧れて町でケンカも繰り返すように。少年院収容も経験。20代前半にスナックで“スカウト”されて五代目山口組の三次団体の組員に。恐喝未遂や公務執行妨害罪などでの服役を経て2018年11月、7回目の受験で合格。現在は、生まれ育った岡山市内で東亜国際合同法務事務所の代表をつとめ、不動産や商業登記のほか、遺言・相続、成年後見、入国・国際業務、債権整理、風俗業や建設業の許認可申請など司法書士・行政書士の業務をすべてこなしている。https://touakokusai.com/

BusinessJournal編集部

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