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相原孝夫「仕事と会社の鉄則」

テレワーク・在宅勤務でも“まったくストレスを感じない”人は、何が違うのか?

文=相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント
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「Getty Images」より

続々と報告されるストレスへの誤解

 リモート環境での働き方も1年を経過し、ストレスが蓄積してきている人も多いに違いない。特にこれからの時期は、自律神経に変調を来しやすく、「五月病」といわれるような症状も出やすい時期なので、注意が必要だ。今回および次回は、ストレスとの付き合い方について述べていきたい。

 リモートであっても、リアルであっても、職場におけるネガティブな感情のもとになっている最たるものは、「ストレス」であることは間違いない。仕事上、ストレスはつきものである。仕事の責任、納期、品質、人間関係、さらにはトラブル。増えることこそあれ、減るようにはとうてい思えない。

 それらから受ける日々のストレスは、健康を害し、精神状態を圧迫し、寿命を縮めていると大半の人は考えている。また、仕事上、生産性を低下させ、創造性の発揮を妨げているともいわれる。それゆえ、なんとかストレスを減らしたいと皆思っている。米ハーバード公衆衛生大学院が2014年に行った調査でも、およそ85%の米国人が「ストレスは、健康や家庭生活、仕事に悪影響を与える」と考えていることがわかった。

 しかし、一方では、厳しく困難な仕事を続けながらも、落ち込むこともなければ、心身を害することもなく、日々活き活きと働いている人もいる。同じ状況の中で、同じ仕事をしていても、ストレスを感じる人と、ストレスを感じない人とがいるのであろうか。ストレスは平等に降りかかるとすれば、災いしているのは、ストレスそのものではないのだろうか。

 米エール大学の研究によると、「ストレスを害だと思っている人」は、「ストレスがポジティブな力になり得ると思っている人」よりも、気分が落ち込む傾向があることが明らかになっている。「ストレスを害だと思っている人」は同時に、腰痛や頭痛のようなストレスからくる健康問題を、他の人より多く抱えているという。

 また別の研究では、「ストレスは健康に害を与える」と信じている場合に、「ストレスを多く感じること」が、心臓病にかかったり、死亡したりするリスクにつながっていることがわかっている。つまり、「ストレスを多く感じること」と「ストレスは体に害だと考えること」、この2つの組み合わせによって、心身の問題を引き起こしているといえるのだ。

 これとは対照的に、「ストレスを多く感じながらも、ストレスにはなんらかのメリットがあると思っている人」、例えば、ストレスが集中力を高めるのに役立つとか、ストレスの多い状況を経験することで自分を強くすることができると思っている人は、より健康的で、幸せで、仕事でもいい結果を収めているという。 

 ストレスがありながらも、それを苦とはせず、活き活きと働いている人は、ストレスを害だと思ってはおらず、むしろストレスには多くのメリットがあると思っているということになる。結局、ストレスそのものが問題なのではなく、その捉え方こそが問題なのだ。ストレスは100%悪いものであって、減らすべきものという思い込みこそが、ストレスの悪影響を引き出している。脳神経科学の分野でも、「やりたいと思っていることから受けるストレス」は人の生産性を高めるということがわかっている。

 ストレスについての研究を長年行ってきている健康心理学者のケリー・マクゴニカル氏は、書籍のなかで同様の点について述べている。マクゴニカル氏自身、当初は大半の意見と同様に、ストレスは害であると考えていたが、ある研究結果をきっかけにストレスに対する考え方を変えたのだという。

 その研究結果というのは、1998年に米国で、3万人の成人を対象に行われた調査だった。「この1年間でどれくらいのストレスを感じましたか?」「ストレスは健康に悪いと思いますか?」。この2つの質問をして、8年後に3万人のうち誰が亡くなったかを調査したのだ。その結果、強度のストレスがある場合には、死亡リスクが43%も高まっていたことがわかった。ただし、死亡リスクが高まったのは、強度のストレスを受けていた人のなかでも、「ストレスは健康に悪い」と考えていた人たちだけだったのだ。

 強度のストレスを受けていた人のなかでも、「ストレスは健康に悪い」と思っていなかった人たちには、死亡リスクの上昇は見られなかった。それどころか、そう考えるグループは、調査をした人たちのなかで最も死亡リスクが低かったのだ。ストレスがほとんどない人たちよりも死亡リスクが低かったという。

 この結果によって、マクゴニカル氏は、「ストレスがあったとしても、それを穏やかな心で受けとめることができれば、心身の健康は阻害されないばかりか、むしろ改善される。困難に直面したらストレスを感じるのが自然だと考えて受け入れる人は、ストレスと戦おうとする人よりも、再起力があって長生きする」と考え方を改めたのだという。

ストレスの良い面

 実際に、ストレスには悪い面ばかりでなく、良い面もあることがわかっている。複数の研究によれば、ストレスは気⼒を⾼め、明晰さを増し、状況をより正確に把握できるようにする。障害を克服する過程で⾃信を強める効果もある。

 これは最も⻑く持続する、最も望ましい種類の⾃信だという。つまり、ストレスは悪者であると同時に、どうやら善いものでもあるようなのだ。命の危険にさらされた時など、極度の緊張と共に、大きなストレスが掛かる。しかし、これは命を守るための準備として必要なものに違いない。

 ⼈間は、他の動物と同様、ストレス要因に対して本能的な⾝体反応を⽰すと、ニューロリーダーシップ・インスティテュートのシニアサイエンティストのハイディ・グラント氏は説明する。交感神経(闘争・逃避反応)が活発になり、副交感神経(安静と消化)が抑制され、アドレナリンとコルチゾールが分泌される。こうしたことが起きるのは何のためかといえば、⾝体に「活」を⼊れるためだ。覚醒レベルと集中⼒を⾼め、⾏く⼿を阻む障害に対処するために、⾁体的・⼼理的な準備を整えるのである。

 これらの作用により、仕事上も集中力が増し、問題に的確に対処したり、生産性を高めたりといった優れた効果を発揮することにつながるのだ。ストレスの影響を判断するための最も重要な要素は、「ストレスに対する意識の持ち⽅」であるようだ。ストレスの「量」は驚くほど役に⽴たない情報だという。

 心理学者のクラムらの研究では、ある国際⾦融機関の400名近い従業員を対象として、ストレスに対する意識を調べた。研究者たちは、ストレスに対して異なる捉え方をする2つのグループに分けた。「ストレスはマイナスの影響をもたらすので回避すべきだ」などの⾔葉に賛同した「ストレスは衰弱要因」と考えるグループ。「ストレスを経験することは学びと成⻑につながる」などの⾔葉に賛同した⼈々は、「ストレスは向上要因」と考えるグループ。

 その結果、「ストレスは向上要因」と考える⼈々は、「ストレスは衰弱要因」のグループと⽐べて、より健康で、⼈⽣への満⾜度が⾼く、仕事のパフォーマンスでも優れていたのである。このタイプは、コルチゾールの分泌レベルが「最適」になりやすいことも明らかになった。ストレス要因に対するコルチゾールの分泌は、多すぎても少なすぎても⽣理的に悪影響となりうる。これらの結果から、研究者らは、「ストレスがあなたを打ちのめすのは、あなたがそうと思い込んでいるからに他ならない」と結論づけている。

 以上のように、通常私たちは、ストレスは完全に悪者であると決めつけているが、実際にはさまざまなメリットも存在し、必要なものでもあるのだ。ストレスは害であるという思い込みこそが、心身を害しているようだ。ストレスは必要なものだと逆の捉え方をすればメリットが享受できる。であるならば、ストレスを感じがちな時こそ、その良い面に目を向けるべきではないだろうか。

(文=相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント)

相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント

相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント

早稲田大学大学院社会科学研究科博士前期課程修了。マーサージャパン副社長を経て現職。人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わる企業支援を専門とする。著書に『コンピテンシー活用の実際』『会社人生は「評判」で決まる』『ハイパフォーマー 彼らの法則』『仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか』など多数。

株式会社HRアドバンテージ

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