大東建託は9月に2回目となる「新型コロナウイルスによる意識変化調査」を実施した。その結果、テレワークの実施者が大きく減少し、郊外や地方への引っ越し意向がやや優勢になったという。大東建託賃貸未来研究所所長・AI-DXラボの宗健氏が10月16日にオンライン記者発表会を行い、調査内容について解説した。
まず、今回の調査結果の主なポイントは次の4点だ。
・テレワーク実施者のうち「テレワークを止めた」が39.2%と、テレワーク実施者が大幅減少
・郊外への引っ越し検討は8.9%、都心への引っ越し検討は7.0%と郊外派がやや優勢に
・地方への引っ越し検討は8.9%、都会への引っ越し検討は6.7%と地方派がやや優勢に
・2拠点居住検討は8.4%
これらの結果を踏まえて行われた、一問一答の様子をお伝えする。
年収1000万円以上の人はテレワーク実施率が高い
――テレワーク実施者の減少についてどう考えるか。
宗健氏(以下、宗) まず、テレワークの実施を誰が決めるのかということを念頭に置く必要があります。会社の経営層の意思決定に基づき、テレワークを止めたケースが相当数あったことが、減少の一番大きな理由と推察されます。
それでは、なぜ会社の方針としてテレワークを止めたのかといえば、中小企業では「社長が嫌だから」という合理的ではない理由をよく聞きます。一方で、コールセンターや接客が発生する部署、あるいはチームで仕事を行うような場面では、やはりテレワークでは限界があります。そこで、テレワークをまったくやらないのではなく、テレワークと出社を組み合わせるやり方があると思います。
週に何回かは出社するというルールに変わった会社もあり、個々人の間でも「たまに会社に顔を出すと気分転換になる」「いろんな人と話せる」という意見もあると思います。
――テレワークの揺り戻しには、年収による差があるのか?
宗 明確な傾向や相関関係はないですが、年収1000万円以上の人は「テレワークを止めた」が21.4%と低く、実施率が71.2%と高い。年収1000万円を超える人とそうでない人との働き方には、違いがあるように思います。年収1000万円超えは地方ではそれほどいませんから、東京と地方での働き方や仕事内容の違いを十分考慮した上で、冷静に「東京か、地方か」「テレワークか、出社か」を判断する必要があります。
――来年の東京オリンピックでテレワークは定着しますか。
宗 もともと東京五輪の期間中にテレワークを予定していた企業が多かったので、実施率は確実に向上するでしょう。しかし、定着するかどうかは、まだよくわかりません。ホワイトカラーのテレワーク実施率は4割ほどまで上がりましたが、今回の調査で減少したことがわかりました。おそらく、この傾向は今も続いていると思われます。
やはり、テレワークにマネジメントや組織の運営が追いついていない点があり、個人的にテレワークはしたくないという人もいます。年収が高くクリエイティブ系の仕事の人はテレワークの意向が強いですが、事務職や旧来型の企業では、会社に行って上司の指示を仰がないと仕事が進まないという人もいます。テレワークが定着するかどうかは、企業風土や働き方そのものがどうなるのかによって決まります。
――6月に行った1回目の調査では、引っ越し検討は郊外と都心が均衡していましたが、今回は郊外が優勢になった理由について。
宗 私見ですが、メディアが「これからは地方・郊外だ」と一斉に報じたからではないでしょうか。「住みたい街ランキング」のような意識調査には、メディアの報道内容が影響します。たとえば「東京から軽井沢に引っ越してテレワークをしている」といったケースが多数報じられると、かなり影響はあると思います。
テレワークを実施している人の方が、引っ越しの意向は強いです。働き方の自由度が増した今、地方移住や郊外への引っ越しの報道を見て、「これなら私でもできるかもしれない」と考える人が増えていると考察しています。
――ウィズコロナ時代に、郊外や都心で人気が出た街はありますか。
宗 「この街の人口が増えた」と言うには、年間1~2%の増加が必要です。たとえば、東海4県(愛知、岐阜、三重、静岡)の自治体の「街の住みここちランキング」では、愛知県長久手市が1位になりました。同市は名古屋市のベッドタウンで人口が増えているのですが、それでも年間人口増加率は1~2%です。コロナを境に、極端に人口が増えるなど人気が集まった街は、今のところ見受けられません。
――「コロナをきっかけに今住んでいる街が良いと思うようになった」が70%を超えましたが。
宗 これは、自分が住んでいる街の再評価ととらえています。コロナの時代になって、今までは気づかなかった自分の住んでいる街の良さに気づいたのです。
(構成=長井雄一朗/ライター)