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中西宏明氏は“戦死”なのか…巨艦・日立を経営危機からV字復活、経団連の改革に尽力

文=有森隆/ジャーナリスト
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経団連のサイトより

 日立製作所社長・会長や経団連会長を務めた中西宏明氏が6月27日に亡くなった。75歳だった。リンパ腫の再発で経団連会長を途中で辞任し、闘病中だった。

 2018年に経団連会長に就任。就任1年目に就職活動の時期を縛る“就活ルール”の廃止を決め、通年採用を拡大するために大学側との協議会を設置するなど改革を進めた。19年5月に体調不良で入院。リンパ腫の治療を経て一度は復帰したが、昨年7月に再発がわかった。検査・治療の名目で入院したまま、6月1日の定時総会で、任期途中で経団連会長を辞任。中西氏が指名した十倉雅和住友化学会長(70)にバトンタッチした。

 中西氏は1970年東東京大学工学部を卒業後、日立に入社。鉄道の運行管理システムなど巨大プジェクトで頭角を現した。98年の日立ヨーロッパ社長を皮切りに国際事業部門長や北米総代表を歴任。米ハードディスク駆動装置(HDD)子会社で経営合理化を進め再建に辣腕を振るったことで知られる。

 09年3月期に日立が7873億円の最終赤字を計上した際に日立本社に復帰。10年に社長に就き、14年から会長になる。ITとインフラ事業を軸に据え、日立の業績のV字回復の立て役者となった。

“戦死”せずにすんだのでは

「もう1年早く(20年春に)退任していれば十倉氏以外にも経団連会長の適任者がいたのではないのか」(現役の経団連副会長)といった辛口の指摘もある。中西氏は日立でも相談役に退いた。経団連会長が病気で任期途中で退任するのは初。十倉新会長は中西氏の残りの任期1年をやるのではなく、新たに2期4年の任期である。

 中西氏は入院して抗がん剤治療を続けながら、テレビ会議システムなどを使って職務を続けてきたが、容体が悪化。4月、久保田政一事務総長に退任の意向を伝えた。「デジタル化と環境問題に造詣が深い」という理由で中西氏が十倉氏を推薦したと伝わる。名誉会長(歴代の会長経験者)の了承を取り付け、十倉氏の次期会長が決まった。

 十倉氏の会長就任はサプライズだったが、伏線はあった。「日本製鉄の進藤孝生会長(71)は4年前にも会長候補で中西さんと競い合った。だから、中西さんに進藤さんを選ぶという選択肢はなかったのだろう。製造業の現役の副会長から選ぶとなると、コマツ(大橋徹二会長・67)しかいない。しかし、大橋さんは(経団連会長としては)若い。かつドライな理論派で政府の委員等には適任だが、他の企業のうるさ方のトップに頭を下げてまで意見をまとめるタイプではない」(経団連の元副会長)

「製造業以外に候補を広げようとしたが、銀行、総合商社とも業界内の競争が激しく、誰にしても座り具合が悪かった」(現役の副会長)

「消去法で十倉さんがなったのだろう。真面目で敵は少ない」(関西の別の副会長経験者)

 日立幹部は別の見方をする。

「(中西氏と十倉氏は)価値観が一致している。かつて同時期に経団連の副会長を務めたし、16年に政府の総合科学技術・イノベーション会議の議員を中西さんは十倉さんにバトンタッチしている。十倉さんなら何も言わなくても中西路線は踏襲される」

 十倉氏は「闘病しながらいろいろ発信した中西会長の不屈の精神に敬意を表したい」と前任者を称えた。2人はウマが合うのである。

 中西氏が22年春の任期を全うしていれば、「十倉氏の出番はなかった」(有力会員企業のトップ)。6月1日付でパナソニックの津賀一宏社長(64)、日本製鉄の橋本英二社長(65)など複数の有力な製造業のトップが副会長になったからである。

 十倉氏は「榊原定征前会長、中西会長が築いてきた政権との良好な関係を維持していきたい」と抱負を述べた。世界的に脱炭素社会への取り組みが加速するなか、産業界をまとめて政府に提言できるのか。十倉氏のリーダーシップが試される。経団連のアイデンティティは低下の一途で「軽団連」などと揶揄されている。情報発言力の強化は待ったなしの緊急の課題である。

 中西氏は経団連会長を病気で辞任する初めての人になった。「ギリギリ間に合った、ということだ。6月1日付で辞任していなければ経団連会長のまま死亡するというケースになったかもしれない」(経団連の現役副会長)

十倉・新会長には課題山積

 中西氏という“うしろ立て”を失った十倉・新会長には課題が山積している。「本当に十倉氏で良かったのか?」といった声が出ないようにするためには先手先手の政策提言が必要不可欠になる。

 三菱電機が鉄道車両向けの空調設備の性能検査で不正が35年にも及んでいたことに関して、経済同友会の櫻田謙悟代表幹事は6月30日の定例会見で「あってはならないことだ。(不正が)会社の文化であれば、経営の責任ということになる」と述べた。

 三菱電機は6月29日の株主総会でこの事実を株主に説明しなかった。6月30日付の朝刊で朝日、毎日の両紙が1面トップで不正を報道、30日夜になって会社側がコメントを出したことについても「株主には残念だったのではないか。他山の石としたい」と櫻田代表幹事は指摘した。

 一方、経団連会長の反応はわからない。なぜ、このことを書くかというと、三菱電機から長年、経団連の副会長が出ているからである。今年6月、副会長の枠は2人増え、20人体制という“インフレ人事”となった。住友化学の岩田圭一社長は十倉会長が経団連会長に急遽、就任したため副会長への就任を辞退したが、それでも19人の大所帯になった。三菱電機は山西健一郎特別顧問の後釜に柵山正樹会長(69)が6月1日付で就任し、三菱電機の「企業枠」を死守した。

 こういう時だからこそ、経団連会長として誰にでもわかる方針を出してもらいたいのだ。十倉氏にそれができるのだろうか。
(文=有森隆/ジャーナリスト)

有森隆/ジャーナリスト

有森隆/ジャーナリスト

早稲田大学文学部卒。30年間全国紙で経済記者を務めた。経済・産業界での豊富な人脈を生かし、経済事件などをテーマに精力的な取材・執筆活動を続けている。著書は「企業舎弟闇の抗争」(講談社+α文庫)、「ネットバブル」「日本企業モラルハザード史」(以上、文春新書)、「住友銀行暗黒史」「日産独裁経営と権力抗争の末路」(以上、さくら舎)、「プロ経営者の時代」(千倉書房)など多数。

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