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「教育移住」が30〜40代に急拡大…日本の学力は世界1位なのに、なぜ海外を求める?

2026.03.22 05:55 2026.03.22 05:35 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=山田恵理/教育コンサルタント

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●この記事のポイント
30〜40代の現役世代による「教育移住」相談が急増。PISA2022で日本は学力世界トップ級の一方、自律学習の自信はOECD34位と低迷。リモートワーク普及を背景に、マレーシア・オランダ等への自力移住が現実的選択肢となりつつある実態と課題を解説。

「富裕層の選択肢」から「現役世代の戦略」へ。かつて海外移住といえば、事業売却後のリタイア層や超富裕層が税制優遇を求めて渡航するイメージが支配的だった。しかし、その構図が大きく変わりつつある。

 海外移住コンサルティング業界の複数社によると、「教育移住」に関する相談件数はここ数年で大幅に増加しており、特に2024〜2025年にかけて問い合わせの急増を報告する事業者が相次いでいる。相談者の主役も変わった。かつてのリタイア層に代わり、今や相談の中心は30〜40代の子育て現役世代だという。

●目次

リモートワークが開いた「自力移住」という扉

 この動きを後押しする最大の要因は、コロナ禍を経て定着したリモートワークの普及だ。以前の海外生活は、企業の「駐在員」として住居費や学費の補助を受けるかたちが一般的だった。しかし現在目立つのは、ITエンジニアやフリーランサー、フルリモート勤務が可能な会社員が、自力でビザを取得し生活費を工面して移住する、いわゆる「DIY移住」のスタイルだ。

 国内の移住相談の場でも同様の傾向が確認されている。公益社団法人ふるさと回帰・移住交流推進機構によると、2025年の国内移住相談件数は73,003件と前年比18.3%増加し、5年連続で過去最高を更新した。相談者の中心が40代以下の子育て世代へシフトしていることは、国内外を問わず共通する動きだ。

 教育コンサルタントの山田恵理氏は、この変化をこう分析する。「以前は『子供に国際感覚を持たせたい』という漠然とした理想論が多かったのですが、最近は違います。コスト試算も移住先のビザ要件もしっかり調べた上で来られる方がほとんど。教育移住が一部の人の夢物語ではなく、現実的な選択肢として認識されるようになってきています」

 なぜ日本の教育環境に対する見直しが起きているのか。その背景を読み解くうえで欠かせないのが、OECDが2022年に実施したPISA(生徒の学習到達度調査)の結果だ。

 日本の生徒は、数学的リテラシーと科学的リテラシーでOECD加盟国中1位、読解力で2位という世界トップクラスの学力を示した。しかしその一方で、自律的に学ぶ態度や自己効力感(「自分はできる」という自信)を測る指標では、OECD加盟37か国中34位と低迷している。「自力で学習を進める自信がない」と回答した生徒の割合は約6割に上るという。

 この数字は、日本の教育が「正解を正確に導き出す力」の育成には優れている一方、「自ら問いを立て、主体的に学ぶ力」の育成に課題を抱えていることを示している。もっとも、PISA参加の東大シンポジウム(2023年12月)で、京都大学・内田由紀子教授は「自己肯定感や自信を重視する欧米式の指標では、文化的背景の異なる日本の実態を正確に評価できない部分もある」と指摘しており、数値の解釈には慎重さも求められる。

 山田氏はこう語る。

「日本の教育は均質な『底上げ』には極めて優秀なシステムです。問題は、突出した才能や多様な学び方を受け入れる柔軟性が乏しい点です。海外の教育現場では、12歳の子どもでも『あなたはどう考えるか』と問われ続けます。正解のない問いに向き合う経験こそが、予測不能な時代における競争力の源泉になります。ただし、海外に行けば万事うまくいくという話でもありません。現地カリキュラムへの適応に苦しんだり、親のキャリアが断絶するリスクも現実としてあります」

選ばれる国——それぞれの「教育移住」の目的地

 教育移住の候補地は、目的や家族の状況によって明確に分かれている。

 マレーシアは、英語・中国語・マレー語が日常的に飛び交う多民族国家として根強い人気を誇る。英国式インターナショナルスクールの学費が他国と比べて割安であること、生活費全体のコストパフォーマンスが良いことから、中堅ビジネス層やフリーランサーの間で選ばれやすい選択肢だ。

 シンガポールはPISA数学リテラシーで世界トップクラスの教育水準を誇り、税制面のメリットも大きい。アジアのビジネス拠点としての機能も高く、経営者層や高所得専門職に多く選ばれている。ただし生活費と私立校の学費はいずれも高水準で、移住の敷居は高い。

 オランダは子どもの主体性を重んじる教育哲学が評価され、クリエイティブ職や起業家層からの関心が高まっている。個人事業主向けのビザ制度が比較的整備されており、自力移住のハードルが相対的に低い点も魅力とされる。

 カナダ・オーストラリアは、質の高い公立教育と多文化社会を背景に、卒業後の就労ビザや永住権取得を見据えた長期的なキャリア設計を行う看護師やITエンジニアなどの専門職層に人気がある。

「海外に行けばいい」ではない——現実のリスクと構造的な問いかけ

 こうした動向を単純に「日本離れ」と捉えるのは短絡的だ。移住を実行した家族のなかにも、現地の学校文化や言語の壁に子どもが適応できず、帰国を余儀なくされるケースは少なくない。親のキャリアの断絶、日本の親族や地域コミュニティとのつながりの希薄化、帰国後の再統合の難しさなど、現実的なリスクも複数存在する。

 また、日本国内においても、教育移住の受け皿として変化が起きている。長野県や広島県など、独自の探究学習を取り入れた特色ある学校が地方に開設され、国内教育移住という選択肢も生まれている。広島県で2022年度に開校したある小学校では、入学者の半数が市外からの応募だったと報告されている。

 海外移住の相談に長年携わった経験から山田氏はこう述べる。

「教育移住を検討する親御さんの多くは、日本の教育を否定しているわけではありません。子どもに『日本以外の選択肢も持たせたい』というのが本音です。重要なのは、移住後のビジョンをどれだけ明確に持てているか。目的が曖昧なまま移住しても、現地で苦労するだけです」

 急激な人口減少と経済の停滞が続く日本において、「どこでも生き抜けるスキルを子どもに持たせること」を、親ができる最大の長期投資と捉える世代が確実に増えている。

 PISA2022の結果は、日本の教育が持つ強みと課題の両面を鮮明に照らし出した。学力の高さは本物だ。しかしその一方で、子どもたちが「自分で考え、自分で動く」という自律的な姿勢を養う余地がまだあることも事実だ。

 教育移住の急増は、日本社会への批判というよりも、「この子に合う学びの場を探している」という親たちの切実な問いかけと理解すべきだろう。その問いに日本の教育がどう応答していくかが、今後の人材流出の動向を左右する一つの鍵になる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=山田恵理/教育コンサルタント)

公開:2026.03.22 05:55