岸田文雄首相が掲げる資産所得倍増プランが動き出し、NISAの恒久化や非課税投資枠の拡充を金融庁が来年度の税制改正で要望します。NISAとつみたてNISAの一本化案が出てくるなど要望案の内容は流動的ですが、現時点では「恒久化」だけは変更がないといえそうです。
NISA制度の改正もさることながら、金融庁は20年近くも御旗を掲げながらも進展がなかった「貯蓄から投資へ」の道筋をしっかりとした形にするために、「金融教育」「販売・勧誘」にもメスを入れるようです。販売・勧誘に関しては金融機関への改善・整備の要求などが考えられますが、今回は金融教育にスポットを当ててみることにしましょう。
金融教育を誰が行うか
2022年4月から資産形成の視点を加えた金融教育が高校で始まっています。新たに必修となった「公共」では、銀行など金融機関の役割や直接金融の仕組みなどを教え、また預貯金や株式などさまざまな金融商品の特性や仕組みを学び、将来の資産形成に役立ててもらうというのがその主旨のようです。
金融庁は行政方針に「国全体として、金融経済教育の機会提供に向けた取り組みを推進するための体制を検討する」と明記して、金融教育を国家戦略に位置付けようと提言しています。日本の金融教育は世界に遅れをとっていることから、金融教育を国家戦略に位置付けることは間違いではないでしょう。過去数十年、欧米と日本の個人保有の金融資産に占める「株式・投資信託」の割合の差は、そのまま両国間の個人金融資産の増え方の差に表れています。
問題は金融教育を誰が行うかです。学校教育は文部科学省が主管するので学校の教員が教えるのが基本ですが、金融教育に苦手意識を持つ教員が多いため外部機関と提携して教えているケースも多々あると見聞きします。また、大企業に勤務する人が加入する企業年金は厚生労働省が所轄していますが、その企業年金の運用委託を受ける銀行や保険会社が大企業や中小零細企業の従業員などへの金融教育を担うかもしれません。
こうなると、国家戦略といいながらも既存の金融機関の発想から抜け出せない金融教育になる可能性が高いため、建前上は公平・中立・SDGsといった美辞麗句を並べながらも、実態としては個人を囲い込む、学生であれば将来の顧客を囲い込むことになりかねません。民間企業はボランティアではなく営利団体ということを忘れるべきではありません。
では、筆者のようなFP(ファイナンシャル・プランナー)が教えるのが適切かと問われれば、残念ながらFPは金融が得意な人が少ない(外部の人からもかなり筆者に指摘があります)ため心許ないといわざるを得ません。金融広報中央委員会、日本証券業協会なども金融教育に携わっているようですが、これらの金融教育が資産形成や家計管理などのお金周り全般に役立ったという声をほとんど聞いていません。
とすれば金融教育を国家戦略とする場合、マクロ・ミクロなどを包括的に捉えて、真の公平・中立を掲げて教えることができる「先生」がほとんどいないというのが現状と思えてならないのです。「先生」不在をどのようにカバーしていくのかが疑問です。
(文=深野康彦/ファイナンシャルリサーチ代表、ファイナンシャルプランナー)