信託報酬が業界最低の投資信託、三井トラスト「MY SMT」購入時手数料も無料
2022年度の投資信託への純資金流入額は9兆9000億円と過去最高となったようです。投資家は目立ってリスク回避に動いた形跡はなく、引き続き資金流入は継続しているようです。
純資金流入額の約8割は海外株式型で、個人投資家の保有コストに対する意識の高まりから米国のS&P500指数などに連動するインデックスファンドが中心です。運用管理費用(信託報酬)の低さとさまざまな資産クラスに連動するインデックスファンドで先鞭をつけたのは、三菱UFJ国際投信の「eMAXIS」(のちに「eMAXIS Slim」を設定してその座を譲る)シリーズと三井住友トラスト・アセットマネジメントの「SMTシリーズ」でした。SMTシリーズは低コスト競争に加わらず、その座はニッセイアセットマネジメントの「購入・換金手数料なし」シリーズに変わりました。三菱UFJ国際投信、ニッセイアセットマネジメントの2社は「わが社のインデックスファンドこそ業界最低水準手数料」という御旗を振って運用管理費用の引き下げ競争をリードしてきたのです。
この2社に大手ではアセットマネジメントOne「たわらシリーズ」、大和アセットマネジメントの「iFree」シリーズなどが、新興勢力ではSBIアセットマネジメント「SBI・V」シリーズ、PayPayアセットの「PayPay投信」シリーズなどが挑むかたちで運用管理費用の引き下げ競争はさらに激化、さながら戦国時代のような群雄割拠という状態となっています。ただ、純資産総額から判断するとシリーズ全体では「eMAXIS Slim」が勝利、採用指数によっては他の運用会社が散発的に勝利という状況で一応の決着をみたようでした。
低いものが出るたびに乗り換えるのは愚の骨頂
ところが2021年度も終盤の22年3月29日に、低コスト競争から一歩引いていた三井住友トラスト・アセットマネジメントが購入時手数料無料(ノーロード)、運用管理費用(信託報酬)が業界最低水準となる低コストのインデックスファンド「MY SMT」を新規に設定したのです。当初の報道によれば11ファンドが新規設定される予定でしたが、実際は図にあるように7ファンドでスタート。国内債券インデックスとダウ・ジョーンズ(NYダウ)に連動する2本の運用管理費用は業界最低水準を更新。グローバル債券(先進国債券)、新興国債券の2本は業界最低水準と肩を並べていることから、今後設定が予定されている日本株や海外株指数に連動する投信も業界最低水準の低コストが期待されています。
報道にあった11ファンドが揃った暁には、これまでの勝者である「eMAXIS Slim」シリーズに挑戦状を叩きつけることになりそうです。三井住友トラスト・アセットマネジメントは「SMTインデックス」というインデックスシリーズを三菱UFJ国際投信に対抗して約12年前に設定(2010年7月30日)したのですが、運用管理費用の引き下げ競争から距離を置くスタンスを取ってきました。その間、他の運用会社が運用管理費用の低いインデックスファンドを多数設定してきたため、SMTインデックスシリーズは人気の圏外に追いやられてしまったのです。
年を追うごとに個人投資家は運用管理費用に敏感になり、同費用の低いインデックスファンドが多額の資金を集めていることから、三井住友トラスト・アセットマネジメントも見て見ぬ振りができずに新規設定という仕切り直しの形でコスト競争に参入したと考えられます。ちなみに同社の既存インデックスファンドも「つみたてNISA」の対象ですがコスト競争力は低いです。
個人投資家としては運用管理費用が低下するのは朗報といえますが、低いものが出るたびに乗り換えるのは愚の骨頂です。運用管理費用は限界に近い水準まで低下してきたため、わずかな差であれば目くじらを立てることはありません。また、乗り換えの際に利益が出ていれば課税されてしまうため、投資効率も低下することになるのです。自分が投資しているインデックスファンドと大差がないのであれば泰然自若としているべきでしょう。
(文=深野康彦/ファイナンシャルリサーチ代表、ファイナンシャルプランナー)