2014年の国土交通省の資料によると、全国でこれまで建て替えが決まったマンションは、準備中も含めて230物件しかない。ところが、18年には築50年超のマンションが全国で5万戸に達するという。また、震度7の大地震にも耐えると考えられている現在の耐震基準が定められる前に建築された、いわゆる「旧耐震」のマンションは全国に106万戸存在する。
これらのマンションがスムーズに建て替えられるとは到底思えない。その理由は大きく2つ、法制度と経済面だ。
区分所有法の壁
まず、法制度では区分所有法に定められた建て替えのハードルが高すぎる。区分所有法62条1には以下の規定がある。
「区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議をすることができる」
つまり、100戸のマンションなら80戸が賛成すると建て替えを決議できる。逆に考えると、21戸が反対もしくは賛成しないと建て替えられないということだが、現実にはこれはかなり難しい。
分譲マンションの管理組合が総会を開くと、その決議を有効にできる定足数は半数である。100戸のマンションならあわせて50戸が出席もしくは委任状などを提出しなければ、総会自体が成立しない。大多数の管理組合が、この定足数を満たすために四苦八苦しているのが現状のなかで、「5分の4」の「賛成」を得ることは途方もないほど困難である。
筆者は、建て替え決議を議案とする総会の開催にこぎつけながら否決されてしまった例をいくつか知っている。老朽化したマンションには高齢者が多い。高齢者は引っ越しを厭う。また、今までの環境を変えたがらない。「今のままでも十分に暮らせるではないか」という理由で賛成しないのだ。だから、この「5分の4」というのは、かなり高いハードルだと考えていい。
ただ、これまでに230以上の管理組合がそれを成し遂げているのも事実であり、まったく不可能というわけではない。しかし、5分の4の賛成を得て建て替え議案が可決されたとしても、反対者がずっとそのマンションに居座る場合もある。その場合は、いくつかの裁判によって強制立ち退きの判決を取らなければならない。日本国民は私有財産権が強力に守られているゆえに、その権利をはく奪するには煩雑な手続きが要求されるのだ。