負担金問題
経済面での問題は、さらに深刻だ。
これまでの建て替えが実現した例を見ていると、ほとんどが区分所有者の負担金がゼロの場合である。逆にいえば、各区分所有者の持ち出しがゼロだからこそ5分の4という高い賛成が得られるのだ。なかには、転居の費用や仮住まいの家賃までゼロになるケースがある。
マンションを新たに建設する場合、建築費の目安は1戸あたり2000万円だ。仮に、これが全額自己負担だったとしよう。100戸のマンションを自己負担100%で建て替えるためには、80戸が「2000万円+転居・仮住まい」の費用を負担できる経済力があって、かつ賛成票を投じる必要がある。
老朽化したマンションの区分所有者は大半が高齢者である。この費用を負担できる区分所有者はそれなりにいるだろうが、全体の8割と想定するのは現実的ではない。
また、これが半分の1000万円になったところで、都心の超高級マンションでもない限り8割というハードルは高すぎる。やはり、建て替えが実現するには「負担金がゼロ」の条件を整えなければならない。
「建て替え」実現は幸運なレアケース
では、区分所有者の負担がゼロになるにはどのような要件が必要なのか。それは、主に次の2つである。
(1)敷地の容積がふんだんに余っている
(2)その場所が新築マンションの立地にふさわしい
「容積」とは、行政から規制されているその敷地に建てられる建物の最大の床面積。「容積率」という数値で、敷地の面積の何パーセントかを定められている。
たとえば、500平方メートルの敷地の容積率が400%なら、床面積2000平方メートルまでの建物を建築できる。ところが、建て替えようとしている現状のマンションの床面積が1000平方メートルなら、新たに1000平方メートル分の床面積を増やせるのである。
しかし、実際のところ「容積が余っている」マンションは少ない。余っているどころか、規制が厳しくなって現状のマンションの容積が規制を超えて「既存不適格」になっている老朽化マンションも多い。そういうマンションを無理に建て替える場合、全区分所有者が再入居する場合は1戸当たりの面積が小さくなってしまう。
建て替え事業を行うデベロッパーは、この1000平方メートル分の住戸を販売した利益で建築・設計費や自社の利益を賄うわけである。つまり、新たに販売する1000平方メートル分の住戸の売却で、建築・設計費+利益が見込める敷地でないと、建て替え事業に乗ってこない。