経営不振に陥り上場廃止となる見込みのオーディオメーカー、オンキヨーホームエンターテイメント(JQ上場)は、祖業の家庭向けAV事業をシャープと米音響機器大手のヴォックスに33億円で売却する。家庭向けのアンプやスピーカーの製造から撤退し、車載向けスピーカーなどのOEM(相手先ブランドによる生産)で再建を図る。
オンキヨーは4月30日、両社と売却に向けた交渉を始めると公表した。シャープとヴォックスは合弁で家庭向けAV事業の企画・開発会社を設立。オンキヨーは6月25日の定時株主総会で承認を得た上で新会社に事業を売却する。関連する従業員らも新会社に移る予定だ。
音響機器は、スマートフォンで音楽を楽しむ生活スタイルの浸透により市場が大幅に縮小した。2021年3月期に売上高の4割を占めるOEMに活路を見いだそうとしている。オンキヨーは17年、インドの自動車部品大手と合弁会社を設立し、現地の自動車工場向けにスピーカーシステムを供給している。協業先とは新たな工場を設立する計画を進めている。
車載向けスピーカーでは、スピーカーを使わずに振動を与えることで音を鳴らす「加振器」の分野で先端技術を持つ。この技術を使えば車のガラスや天井を震わせて音楽を再生できるという。イヤホンやヘッドホンといった製品の販売は今後も続ける。OEMで車載用サウンドシステムに生産を集中して存続を目指すが、先行きは厳しい。OEMの主力のインド工場が新型コロナの感染拡大で稼働率が大きく落ち込んでいるからだ。
2期連続の債務超過でジャスダック市場を上場廃止に
オンキヨーは長年にわたって経営不振が続いてきた。19年5月、家庭向けAV事業を米同業のサウンド・ユナイテッドに約80億円で売却することで合意したと発表したが、一転して破談になった。
新型コロナウイルスの感染拡大により大きなダメージを受けたことで、20年3月期の連結決算の売上高は19年3月期比50%減の218億円に激減、最終損益は98億円の赤字に転落し33億円の債務超過に陥った。東京証券取引所は20年9月、オンキヨーが上場廃止の猶予期間に入ったと発表。債務超過を解消する道筋もつかないままだと上場廃止になってしまう。
21年1月、臨時株主総会を開き英領ケイマン諸島籍の投資ファンド、エボファンドへの新株予約権の割り当てを決議。最大で62億円(株式の現物出資を含む)を調達できるとしたが、同ファンドからの資金調達は12億円にとどまった。株価低迷が理由である。
3月30日、取引先など12社を割当先としてC種種類株式を発行して21億円の資本を増強したと発表。取引先などが債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ)に応じたほか、一部から株式の現物出資を受けた。だが、焼石に水だった。
3月31日、21年3月期末時点で債務超過の状態を解消できなかったと公表。2期連続で債務超過となり、上場廃止基準に抵触する見込みとなったため、東証は同社株を監理銘柄に指定。このままだと7月末に上場廃止となる。
21年3月期の連結決算の売上高は88億円と20年3月期比59%減と一段と落ち込み、最終損益は58億円の赤字。資本増強策も実らず、23億円の債務超過のままだ。株価は17年6月、1620円の最高値をつけた後、右肩下がりの状態。18年には500円を割り、20年になって100円台も維持できなくなった。さらに21年4月、株価は4円となった。ピーク時と比べて400分の1の水準である。6月8日の終値は7円である。
オーディオ御三家はそろって消滅
オンキヨーは1946年、旧松下電器産業(現パナソニック)のスピーカー部門の工場長だった五代武氏が大阪電気音響社として創業。レコード全盛の60~70年代は高級スピーカーの代名詞として名を馳せた。80年代にはパイオニア、ケンウッドとともにプレーヤーやチューナー、アンプ、スピーカーをコンパクトに組み合わせた「ミニコンポ」の流行を演出した。
ところが、2001年、米アップルの携帯音楽プレーヤー「iPod」が登場し、パソコンを使ってインターネットから音楽を入手し、持ち運ぶ時代が到来した。スマートフォンが普及し、データ通信量の定額料金制が始まると、音楽データを入力して聴くという流れがスマホで完結するようになった。多くの人にとって音質の違いはさほど気にならず、オーディオ関連市場は、この20年間で大幅に縮小した。
その結果、「オーディオ御三家」はすべて消滅した。御三家の1社、ケンウッド(旧トリオ)は2008年に日本ビクターと経営統合を余儀なくされた。11年、持ち株会社のJVCケンウッドとケンウッドを含む事業会社が合併。ケンウッドは65年の歴史に幕を閉じた。
もう1つの御三家の1社、山水電気は14年に破産に追い込まれた。14年には御三家の筆頭格のパイオニアがオンキヨーにホームエンターテイメントを含め分割譲渡した。これで、パイオニア、トリオ、山水電気の「オーディオ御三家」はすべて消滅した。オンキヨーはパイオニアのAV事業を買収し、規模の拡大をテコに生き残りを図ったが、市場の縮小に抗えず、祖業のAV事業を売却するところまで追い込まれた。
(文=編集部)
【続報】
東京証券取引所は6月30日、オンキョーホームエンターテイメントを8月1日付で上場廃止にすると発表した。2021年3月期連結決算が2年連続で債務超過になったためだ。7月31日末で整理銘柄に指定する。監理銘柄のオンキョーの6月30日の終値は5円。前日比変わらずだった。