独フォルクスワーゲン(VW)「ゴルフ」が、フルモデルチェンジして誕生。初代デビューから45年、新型で8代目となる。
ゴルフは、正統派のコンパクトモデルとして時代を牽引してきた。”世界の国民車”としてVWの経営を支えているだけでなく、コンパクトハッチのベンチマークとして自動車産業に君臨してきた。ゴルフが自動車の技術を数年分進ませたといっていいだろう。それほどの影響力を持つゴルフの新型には、世界の目が注がれている。
予想通り、キープコンセプトで開発された。ゴルフはゴルフだ。外観を眺めるだけで、それがゴルフであることは、聞かなくてもわかる。Cピラーの造形と、そこから前方に伸びる真っ直ぐなギャラクターラインは、まごうことなきゴルフのアイデンティティであり、古くから見慣れたような落ち着きを懐かせる。
とはいうものの、ドアを開け、ひとたび車内に乗り込めば、これまでとはまったく異なるテイストでまとめあげられたインテリア空間が広がる。造形的に奇をてらったものはない。だが、オーディオや空調のスイッチ類は、ほとんど見当たらない。すべては中央のタッチパネル内に格納されている。スマホを操るように、階層を巡りながらタップしたりスライドさせたりすることで、数多くの機能をコントロールするのである。
ゴルフもこうなったのか――。伝統を懐かしむ思いと、世界のベンチマークたる先進性が融合している。
もっとも、走り味は伝統そのものだ。ここで選んだ試乗車は、いわば標準的なモデルの「アクティブ」。これまではリーズナブルな仕様の順に「トレンドライン」「コンフォートライン」「ハイライン」と極めて明快だったグレード名が、改められて「アクティブベーシック」「アクティブ」「スタイル」、そして「Rライン」となった。そのなかで中間の仕様。直列3気筒1リッターターボと直列4気筒1.5リッターターボの2種類のエンジンバリエーションがある。試乗車には直列3気筒1リッター仕様が搭載されている。
今回のフルモデルチェンジで驚かされたのは、ゴルフとして初めてハイブリッドを展開したことだ。48Vジェネレーターが合体される。13psという控えめなモーターが組み込まれており、始動から発進時にささやかなパワーアシストをするタイプだ。”マイルドハイブリッド”と呼ばれるもので、積極的にEV走行を許容するようなストロングタイプとは異なる。
内燃機関は低回転域のトルクとレスポンスが乏しく、しかもターボチャージャーであることから発進直後が非力だ。そもそも、新型ゴルフは1.2リッターから1リッターにダウンサイジングしており、特に低回転域にウイークポイントがある。その内燃機関がもっとも苦手とする低回転ゾーンを、発電機を兼務するオルタネーターが補うのである。
だから発進から力強い。そして回転の上昇に比例してパワーが盛り上がる感覚は清々しい。直列3気筒にありがちなガサツな回転フィールはなく、力強く、そして気持ちよく吹け上がるのだ。
そして、特に感動的なのはハンドリングである。試乗車のアクティブは、Rラインのような不特定扁平のタイヤが組み込まれていない。205/55・R16インチの乗り心地と、燃費に貢献するタイプのタイヤなのだが、コーナーリングマシンではないかと錯覚するほど旋回性能が秀でているのだ。これには驚かされた。
外観から受ける印象は伝統的なゴルフなのだが、中身は確実に進化している。派手な素振りはないが、内に秘めた革新は相当にセンセーショナルである。これからも世界のベンチマークでい続けるに違いない。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)