アウディ「A3」がフルモデルチェンジされて日本に上陸する。全長4345mm、全幅1815mm、全高1450mmのスポーツバック(5ドアハッチバック)と、それよりわずかに前後に長い4ドアセダンという二車形での誕生となった。
スポーツバックでいえば、8代目となった新型「ゴルフ」よりわずかに長く、BMW「1」シリーズより短い。メルセデス・ベンツ「A」クラスよりは大幅に100mmもコンパクト。日本の道に馴染むサイズである。
パワーユニットも充実している。先代の1.2リッターからダウンサイジングされた直列3気筒1リッターターボは、3グレードに展開される。30TFSIと名付けられたモデルがそれだ。「ベース」に加え、装備を充実させた「アドバンス」と、走りのフットワークを磨き上げた「Sライン」に、そのエンジンが搭載される。
ベースは310万円と驚くほど低価格であり、装備や走りなど、好みに合わせてSラインの最高価格389万円まで展開されているのだ。
さらには、直列4気筒2リッターターボも準備されている。こちらは40TFSIであり、直列3気筒1リッターモデルの30TFSIがすべてFFであるのに対し、直列4気筒2リッターターボを積む。すべてクワトロ、つまり4WDである。
グレード構成は2タイプ。440万円の「アドバンス」と、483万円の走りのモデル「Sライン」との組み合わせ。ちなみに、190馬力を絞り出す40TFSIのエンジンと同形式ながら、コンピュータ等の細工により310psまで戦闘力を高めたモデルが存在する。それが「S3」だ。「A3」とは名が異なるが、A3の派生モデルとして考えていいだろう。
つまり、ローパワーモデルに3グレードがあり、ミドルパワーには2グレード。そして最上級に戦闘力を大幅に高めたモデルが存在するという構成なのだ。310万円から642万円までの開きのある価格帯から、好みのモデルを選択できるわけだ。さらに付け加えれば、この6グレードのスポーツバックと同じ数だけセダンでも選べる。スポーツバックに対して、すべてプラス19万円というわかりやすい価格設定だ。合計12パターンがラインナップするのである。
実は、直列4気筒1.5リッターターボモデルも控えている。パワーユニットと骨格を流用し合う二卵性双生児のゴルフには1.5リッターターボがラインナップされており、A3にも搭載される。本国にはディーゼルも存在している。日本入荷はまだ先だろうが、A3はさらにワイドな車種構成が可能なのだ。
これほどまでラインナップを充実させるのは、A3のコンパクト市場に販売が期待できるからだ。世界的厄災のコロナ禍や半導体不足によって、この2年間で販売が低迷した。だが、ワクチンの充実によって経済活性化が予測されており、その波に乗るにはA3は欠かせない。アウディにとって期待のモデル。豊富な車種構成によって、一気に巻き返しを狙う。
スポーツバックの想定カスタマーは30代で、輸入車に憧れを抱いているデジタルネイティブな層であり、セダンは40代のファミリー層に設定している。流行やトレンドに左右されず、知性やデザインにこだわる富裕層がターゲット。アウディはその層を取り込むことで、一気に販売逆転のシナリオを描いている。
ちなみに、40TFSIと30TFSIは、48Vマイルドハイブリッドである。世界的なカーボンニュートラルの潮流のなか、商品力も高い。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)