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トヨタ、お粗末すぎるディスク容量不足で工場停止…杜撰なセキュリティが露呈

取材・文=A4studio/協力=萩原文博/モータージャーナリスト
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トヨタ自動車(「Getty Images」より)

 8月末、トヨタ自動車で国内14工場の稼働停止がアナウンスされた。原因はサーバーの定期保守作業中に「作業用のディスク容量が不足していたため」と、トヨタは説明。データベース上にあるデータの削除と整理を行っていたところ、作業用ディスクの容量が不足しており、エラーが発生。メインサーバーとバックアップ用サーバーは同一のシステムで作動していたため、バックアップ機でも同様の障害が起こり、工場の稼働停止に至ったというのだ。

 突然の発表に「サイバー攻撃を受けたのではないか」といった憶測も流れたが、トヨタは「サイバー攻撃によるシステムの不具合ではない」と否定している。

 国産自動車メーカーの雄であるトヨタが引き起こしたこのトラブルに対し、ネット上では困惑の声が広がっており、同社のセキュリティシステムの脆弱さを訴えるユーザーも少なくなかった。

 不安を残した今回のトラブルだが、業界関係者はどう捉えるのか。今回は自動車業界に詳しいモータージャーナリストの萩原文博氏に、同社の抱えるセキュリティ問題について話を聞いた。

過去にはサイバー攻撃の被害にも遭っていた

「今回のようなシステムトラブルは、これまで聞いたことがなかったので前代未聞の事態と言えるでしょう。一般的に作業者は作業前に、ディスクの容量がどれだけ残っているか確認してから点検するはずです。今回の件についてはマニュアルが作成されていたかは判明していませんが、作業フローを考えれば、絶対抜けていてはいけない工程のはずだと思います。

 そのため、トヨタの発表を素直に受け取ると、今回の騒動の原因は作業者によるかなり初歩的なヒューマンエラーとしか考えられず、トヨタほどの大企業とは思えないほどのミスだと言わざるを得ません。ほかの国内自動車メーカーでも似たような事例は聞いたことはなく、トヨタのセキュリティに対する甘さが透けてみえた、と捉えることもできてしまいます」(萩原氏)

 昨年2月にもトヨタは、仕入れ先である「小島プレス」が不正アクセスによるサイバー攻撃を受けた影響で、国内の14工場を停止するという事態に見舞われた。今回のトラブルはサイバー攻撃によるものではないものの、同程度の規模の障害が過去にも発生していたのである。

 さらに萩原氏は、「トヨタにはセキュリティ面に関する甘さがあるのでは」と語る。

「業界関係者から、トヨタはDX化が遅れているとよく聞きます。グループ企業17社、下請け企業4万社以上を携えるトヨタは、企業規模が桁違いに大きいため、末端の企業まで最先端のネットワーク技術を行き渡らせることが非常に困難だと考えられるためです。

 10月13日、受注から生産計画、生産、配車、納車までを可視化する新システム『J-SLIM(ジェイスリム)』の説明会が開催されました。説明会によれば、従来は販売現場からの受注台数と工場での生産台数を予想ベースに生産を行っていたと語られていました。つまり、コロナ禍や半導体不足という要因もあるものの、人気の高い車ほど、ユーザーの元に早く届けることができない、いつ納車できるかわからない生産・販売体制となっていたのです」(同)

 トヨタの「かんばん方式」は、必要以上の部品在庫を持たず、効率よく生産する製造ラインを構築できる一方、アクシデントが発生して部品を確保できないような状況になると、ラインを停止しなくてはならないというデメリットもはらんでいる。10月16日、愛知県豊田市の中央発条にある、スプリングを製造する藤岡工場にて発生した爆発事故は、ライン停止の要因となる典型例だ。加えてDX化、セキュリティ対策が順調に進んでいないとなると、一部の下請け企業がシステムエラーを起こすだけで工場停止も断行せざるを得ないのだろう。

「トヨタでは、念には念を入れて必要以上にシステムエラーを対処している印象があります。下請け企業のなかには、DX化がほとんど進んでおらず、ハッキングを受けやすいところもあるかもしれないので、対策が追いついていないのでしょう。

 ただ、ディスクの容量不足が原因で工場全体を停止するのは、やや大げさにも思えます。今回のように現状のシステムでエラーが検知されると、丸一日以上も工場の稼働を停止してしまう可能性があるのです。より強固なシステム開発したほうが、製造に遅れを生じさせることはないかと思うのですが……」(同)

DX化のみならず、部品調達の面でも課題

 そのほかの自動車メーカーのDX化、セキュリティ対策はどうなっているのか。

「日産自動車、三菱自動車の2社は、フランスの自動車メーカー・ルノーとアライアンスを結び、欧州企業と取引を行っていることから、高い精度でデータベースの構築を続けているかと思います。スズキもインドに多くの子会社を設立しており、海外との連携を兼ねて情報管理には細心の注意を払っている印象です。ただ、三菱自動車は2000年、2004年のリコール隠しや2016年の燃費データ不正問題などの不祥事が大きな問題になっていましたから、現在は日産の力を借りつつ、情報の透明化のために邁進するフェーズへと移行しているでしょう。心配なのは、トヨタの子会社であるダイハツでしょうか。ダイハツはトヨタのOEM車(他社製造の自社ブランドの車)を製造している企業でもあり、データベースやシステムなどトヨタと連携している部分もあるはずなので少々不安を感じます」(同)

 やはり、トヨタ系列の企業には不安が残る。今後の課題が山積みだろう。

「ほかにもトヨタは、現在では回復傾向にあるものの、コロナ禍で半導体不足が目立ちました。海外メーカーとのセッションが円滑に進まず、購買でかなり苦戦していたようで部品調達の面で課題が残っています。

 部品調達が遅れると、それだけ納車日も遅れてしまいます。加えて、今回のディスク容量不足での工場停止、さらに中央発条の爆発事故ですから、納期への影響は大きいでしょう。トヨタは、かんばん方式など新しい車の生産方式を世に広めた先駆的なメーカーですが、生産の土台となるデータや部品供給面の改善が先送りになっている印象があります。9月よりソフトウェア開発を推進する組織『デジタルソフト開発センター』を新設しましたが、今さら感を感じます。

 トヨタは古ながらのメーカー気質な社風を重視するが故に、それがDX化の弊害になっているのかもしれません。“よいクルマをつくる”といった気概は素晴らしいことですが、クルマを購入するユーザーに不安を与えないような経営体制や、DX化を推し進めることで国内最大のメーカーとして示してもらいたいです」

 日本のモノづくりのトップをひた走ってきたトヨタ。DX化が課題となっている今が正念場なのかもしれない。
(取材・文=A4studio/協力=萩原文博/モータージャーナリスト)

萩原文博/モータージャーナリスト

萩原文博/モータージャーナリスト

モータージャーナリスト。1970年生まれ。10代後半で走り屋デビューを果たし、大学在学中に中古車雑誌編集部のアルバイトに加入し、中古車業界デビュー。1995年より編集部員として本格的に携わり、2006年からフリーで活動。中古車の流通、販売の造詣が深く、新車でも多くの広報車両に乗車するなど精力的に取材を行っている。

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