秋が深まり紅葉狩りの季節となるとともに、全国旅行割と呼ばれる全国旅行支援も始まり、各地の観光地では酷い渋滞が起きている。
そんななかSNSで話題となったのが、栃木県日光にあるいろは坂において、数台のホンダ「ヴェゼル」のハイブリッド車が上り坂の渋滞で動けなくなったことだ。同じ車種で同じパワートレインを搭載したモデルばかりが動けなくなるというのは、さすがに個体の問題とは思えない。そこで、今回のトラブルについて検証してみた。
ホンダのハイブリッドシステムは、これまでに4つのタイプが展開されている。最も古いのが、エンジンにIMA(インテリジェント・モーター・アシスト)というモーターを組み合わせたタイプ。これは主動力のエンジンにアシスト機能として軽量・コンパクト・高効率なモーターを組み合わせたというシンプルなシステム。このハイブリッドシステムは、あくまでもエンジンがメイン、モーターはアシストのみなので、燃費性能には限界があった。
続いて登場したのが、スポーツハイブリッドi-DCDと呼ばれるハイブリッドシステム。1.5Lガソリンエンジンと薄型高出力モーター内蔵7速DCTなどを組み合わせた1モーターハイブリッドシステム。エンジンとモーターを効率良く接続・切断する制御を搭載し、国内最高レベルの燃費性能と全域におけるレスポンスを実現した。
そして、現在主力となっているのがe:HEV(イーエイチイーブイ)、かつてはスポーツハイブリッドi-MMDと呼ばれていたハイブリッドシステムだ。このシステムは1.5L、もしくは2Lガソリンエンジンに、発電・駆動を行う2つのモーターを組み合わせたシリーズハイブリッドシステム。通常走行では、ガソリンエンジンは発電に徹し、主にモーターで走行。高速走行時ではガソリンエンジンのみで走行するという高い効率を誇る。
そして、「レジェンド」や「NSX」などに搭載されていたエンジンと3つのモーターを採用し、左右の駆動力を自在に制御するスポーツハイブリッドSH-AWDだ。現在、国内で販売されているホンダのハイブリッド車はスポーツハイブリッドi-DCDもしくはe:HEVとなっている。
ヴェゼルと同じシステムを採用している車種は?
今回SNSに投稿されたヴェゼルは、2013~2021年に販売された旧型モデルで、搭載されているハイブリッドシステムはスポーツハイブリッドi-DCD。ちなみに、現行型のヴェゼルはe:HEVに替わっている。スポーツハイブリッドi-DCDは、旧型の「フィット」をはじめ、今夏に生産終了したステーションワゴンの「シャトル」、現在でも新車が販売されている「フリード/フリード+」に搭載されているシステムだ。
今回のトラブルに直接関係はないと思いたいが、このスポーツハイブリッドi-DCDというハイブリッドシステムは、登場直後に5回のリコールが発生していたのだ。このリコール内容はホンダのホームページで確認できる。
スポーツハイブリッドi-DCDは2013年9月に登場した旧型(3代目)フィットに初搭載されたのだが、登場直後の2013年10月、2013年12月、2014年2月、2014年7月、2014年10月にリコールが届け出されている。
1、2回目は動力伝達装置(自動変速制御コンピューター)の不具合。3回目は動力伝達装置(エンジン制御ユニット)の不具合。4回目がエンジン制御コンピューターの不具合。そして5回目はエンジンの点火系、電気系の不具合だった。
今回、SNSでトラブルが多く発生したといわれているのが、渋滞したいろは坂の上りというシーン。超低速のクリープ状態で上り坂を上っていた状態でトラブルが発生したと考えられる。
スポーツハイブリッドi-DCDは、マニュアルトランスミッションの構造を2つのクラッチによって自動変速化したDCTとモーターを組み合わせ、モーターをトランスミッション末端に配置。DCTクラッチがエンジンとモーターの接続・切断を兼ねる構造となっている。
また、奇数段用と偶数段用の2系統のギヤセットとクラッチを持ち、クラッチを交互に接続することで変速を行い、走行中に次のギヤをスタンバイさせておくことで瞬時に変速することが可能。また、ギヤ同士をシンプルにかみ合わせる構造なため伝達効率が高く、燃費に有利なうえ、鋭いレスポンスやダイレクト感ある加速が特徴なのだ。
このクラッチシステムは乾式と呼ばれるタイプが使われており、今回のいろは坂のトラブルの件は、超低速のストップ&ゴーが繰り返され、半クラッチのような状態の走行が続いたため、保護機能が作動したと考えられる。
2014年7月のリコール内容では、次のような説明がなされている。
「ECUが検知し学習しているクラッチ推定摩擦特性と実クラッチ摩擦特性がずれた状態で、EV走行モードでの走行中にモーター駆動でエンジンが始動した際、モーターから過大な駆動力が発生することがあります。そのため、運転者が意図せず車速が一瞬増加するおそれがあります。
また、エンジン走行モードでの停車中にシフトレバーをDまたはRに操作して発進する際のギヤの噛み合い動作の間や、EV走行で急勾配の坂道にゆっくり進入し、一時停止してエンジンが始動した時、アクセルペダルを強く踏み込んでいると、モーターから過大な駆動力が発生することがあります。そのため、車両が急発進するおそれがあります。」
これを制御するために、コンピューターのプログラムを書き換えているのだが、この急発進を抑えるために、クラッチに負荷が掛かってしまうのかもしれない。ホンダに限らず乾式のDCTを搭載したクルマはトラブルが出やすいといわれている。
先ほども書いたが、今回トラブルが多く発生したというスポーツハイブリッドi-DCDは、旧型「フィット」「ヴェゼル」をはじめ「シャトル」、そして現在も新車が販売されている「フリード」にも搭載されている。中古車を購入する際などには、しっかりとリコール対策されているかどうかなども確認しておいたほうがいいだろう。
(文=萩原文博/自動車ライター)