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松岡久蔵「空気を読んでる場合じゃない」

日本大学、必要な単位未取得の卒業生が続出、事実を公表せず…文科省は協議し“不問”に

文=松岡久蔵/ジャーナリスト

日本大学、必要な単位未取得の卒業生が続出、事実を公表せず…崩れるカリキュラムの信頼性の画像1

 2018年に社会を騒がせたアメリカンフットボール部のタックル事件が記憶に新しい日本大学で、再び問題が明らかになった。大学側のミスにより、商学部で不適切なかたちで単位を取得してしまった学生が続出し、そのまま「卒業生」となったケースもあることが大学関係者への取材でわかった。日大側が文部科学省に報告したところ、行政指導などはなされず不問となったという。日大で何が起きたのか、関係者への取材をもとに明らかにしていこう。

商学部の履修システムでミス、学生に必要な単位を取得させないで「卒業」させた

 問題となったのは、商学部の「税法」と「商法」。2018、19年度の学部要覧に誤って「選択必修科目」として記載され、履修システムもそれが反映されたものになってしまった。この結果、学生の履修登録も誤ったものになり、本来であれば卒業に必要な単位を取得できていない学生が続出し、卒業生も出てしまった。日大側がこの問題に気づいたのは21年4月で、商学部当局は在校生だけでなく卒業生の対応にも追われた。

 これ以外に、政治学でも履修をめぐるトラブルが発生した。2020年度のカリキュラム改正で1年生は「政治学」の科目について「政治学1」「政治学2」の順番で履修しなくてもよくなったのだが、それが許されない2年生以上でも適用されるように商学部当局が誤ってシステムを設定。年度途中でミスに気付いたが、履修登録のやり直しや補講などの措置を取らず卒業させてしまったという。大学側の対応は、今年度の授業が始まって以降であったため、当初、現在の3、4年生にも誤った履修をしてしまう学生が少なからず出てしまったという。

文科省は「法令上問題ない」

 話はこれに止まらない。日大が文科省と協議した結果、「法令上問題ない」との回答を得て、学生は追加履修の必要もなくなり、卒業生についても卒業資格は有効となったという。日大側に行政指導などはなされなかったのだが、本当に問題はないのだろうか。筆者が当サイト編集部を通じて日大と文科省に質問状を送付したところ、日大は「本学所管部署である本部学務部において把握しております」と事実と認め、税法・商法については以下の回答を寄せた。

<「学則」に示している履修方法と齟齬するものではありますが,文部科学省にも相談した上で,下記のとおり直ちに法令に違反するものではないことを確認しております>

<関係法令は大学設置基準第32条(124単位以上の修得)及び学校教育法第87条(4年の修業年限)です。本事案は,2019,2020年度卒業生のうち23名に該当しますが,この法令の定める124単位以上の修得及び4年の修業年限は満たしており,商学部の卒業認定・学位授与の方針及び経営学科教育課程の体系に照らして,「税法」及び「商法」を選択必修科目とし取り扱うことについては,適切性を欠くものではないと判断しており,卒業が無効になることはありません。

 在学生についても,同様の判断を行い,「税法」及び「商法」を特別措置として,経営学科専門科目の選択必修科目として取り扱うこととしています。なお,文部科学省は,上記の法令を前提とした上で,何をもって学位を授与するかは大学側の権利であるため,最終的には大学が判断すべき内容であるとの助言を受けております>

 つまり、学生は4年間在学して必要な単位数も取っており、学位の授与は大学が決めるルールなので対応に問題はなく、これは文科省も認めているというわけだ。

日大「法令上違反ない」の回答、関係者「学生や教員に混乱招いた」と疑義

 日大の回答に、ある日大の教員はこう疑問を呈する。

「確かに法令ではそこまで詳細に定められてはいませんが、大学側であらかじめ決めたルールを後から好きに変えていいということではありません。大学設置基準では『大学設置基準第二十条 教育課程は、各授業科目を必修科目、選択科目及び自由科目に分け、これを各年次に配当して編成するものとする。第二十一条 各授業科目の単位数は、大学において定めるものとする』と法律で定められており、実際に日大商学部の学則でも『卒業に必要な総単位数は,科目区分ごとに履修方法に定めた単位数を含め,総計124単位を修得しなければならない』とされています。

 今回の税法・商法については日大側が自分の勝手な都合で、本来自由科目の単位を選択必修科目にするということですから、この二十条に違反する可能性も考えられます。大学のカリキュラムは事前に文科省に届け出なければならず、それを大学の都合ですぐに変えることがまかり通ると、学生と教員に混乱を招きます。今回は結果的に卒業生も含めて追加履修の必要はなくなりましたが、そうなる可能性もあったことを考えれば、事態は重いといえます」

政治学は「政治学2だけ取得してればOK」と判断

 日大は「政治学1」「政治学2」の問題については以下のように回答した。

<(筆者注・日大側の)設定ミスにより履修した者の単位認定については,「政治学2」の学修到達目標(合格基準)を満たしていたので,無効になることはありません。なお,この履修条件はあくまでも履修の順番を条件としているため,「政治学2」の学修到達目標(合格基準)を満たしていれば,単位認定には問題はありません>

 つまり、「政治学2」について履修できていれば「政治学1」を履修していなくても良いというわけだ。ただ、商学部の旧カリキュラムの学部要覧には「1」「2」の付された科目については「『1』の科目の履修歴を前提として『2』の履修ができる」とされ、「『1』の科目を履修中止した場合は、『2』の履修ができなくなる」と明記されている。ということは、この判断によって、真面目に1、2の順で両方単位取得した学生との間で不公平さが生じたともいえる。先の教員は「これがまかり通るなら、続きものの授業は最後編のものだけ履修すれば卒業資格があることになって、まともな教育などできるはずがない。特に政治学1は履修希望者が多いため抽選制になっており、落選して政治学2の履修にまで進めない学生が多く、不公平で気の毒だ」と憤る。

文科省の「お咎めなし」判断、卒業単位の事前届け出制の信頼性が揺らぐ

 日大の履修システムをめぐる問題について、文科省は不問としたわけだが、以下はある私大関係者の解説。

「全国の大学のカリキュラムは事前に文科省に届け出て認可を受けなくてはいけない以上、一つの大学でもミスへの対処がナアナアになれば、馬鹿馬鹿しくてやってられないですよ。必要な単位数だけをとればいいなら、初めからそう制度設計すればいい。第一、ルールに則って授業を取った大多数の学生がかわいそうです。大体、文科省は近年盛んに学生の『入口から出口まで質保証の伴った大学教育の実現』をスローガンとして喧伝していますが、これでは保証なんてできるはずがない」

 文科省に今回の判断について問い合わせたところ、以下の返答が寄せられた。

<日大からは「124単位以上の修得」という法令上の要件を満たしていると説明を受けており、法令違反はないとの認識です。また、学位授与の判断については、大学側に判断の権限があると伝えております>

 単位数さえ揃えば卒業させられることになれば、先の私大関係者の指摘する通り、時間とエネルギーをかけてカリキュラム作成をするのもムダと批判が出るのも当然だろう。

アメフト事件に加え、医学部入試不正で大学評価「不適合」のガバナンス

 日大は18年のアメフト事件だけでなく、昨年2月に医学部入試で裏口入学が行われていることが発覚し、大学基準協会から「不適合」と評価されるなど、教育機関としての信頼が低下している。学生や保護者からの信頼回復に向け努力しなければならないはずだが、今回の商学部での履修制度の設計ミスをめぐる対応を見る限り、ガバナンスが改善されたとはいいがたい。今回の経緯についても教授会で「回収資料」による説明がなされ、学外への発表もなかった。これだけを見ても、情報公開に対する姿勢に疑問が残る。

 日大に再発防止についての見解を求めたところ、<商学部においては,教員によって構成される学務委員会及び教務課において、入念なチェックをする体制をすでに再整備いたしました>との回答だったが、これまでの日大の不祥事も踏まえるなら、文科省はより厳しく対処すべきではないか。

(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)

松岡久蔵/ジャーナリスト

松岡久蔵/ジャーナリスト

 記者クラブ問題や防衛、航空、自動車などを幅広くカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや⽂春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。
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Twitter:@kyuzo_matsuoka

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