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日大、授業を外部業者に丸投げ疑惑…講師を一斉雇い止め、違法訴え訴訟準備

文=編集部
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日大、授業を外部業者に丸投げ疑惑…講師を一斉雇い止め、違法訴え訴訟準備の画像1日大の田中英壽理事長 (写真:読売新聞/アフロ)

 1970年前後に吹き荒れた全共闘運動の真っただなかで、日本大学に「関東軍」と呼ばれる実力部隊が存在した。日大の運動部学生や、関東一円の系列高校に勤務する日大運動部OBの教職員などで構成され、バリケードを破壊したり、闘争学生を腕力で駆逐したりする任務を担っていた。日大関係者は言う。

「関東軍メンバーで活躍したのが、日大相撲部時代に学生横綱になった現日大理事長の田中英壽氏だ。当時の日大には第4代日大理事長の古田重二良氏というドンが君臨していて、カリスマ闘士で名を馳せた秋田明大議長が率いる日本大学全共闘会議のターゲットになっていた。古田はじめ大学当局を防衛した田中氏は、その功績から日大に職員として採用されて以降も、内部で厚遇され続けて出世していった」

 アメリカンフットボール部選手による反則タックル事件で、前監督の内田正人氏が指示を否定して世間から糾弾されている現状を、「内田問題でなく田中問題と見るべきだ」と同関係者は指摘する。内田氏は日大常務理事の職を一時停止中だが、内田氏が理事辞任に追い込まれると、田中支配体制が弱体化しかねないからだ。

「田中氏は任期を終えたら次期理事長に内田氏を起用して、おそらく自分は名誉理事長になって院政を敷くつもりなのではないだろうか。だから、内田氏を守らなければならない」(同)

非常勤講師の雇い止め問題

 田中・内田体制は昨年来、学内人事でもトラブルを抱えている。それが非常勤講師の雇い止め問題で、今年3月末に危機管理学部とスポーツ科学部の英語担当の非常勤講師15人全員が雇用契約を打ち切られた。うち6人の講師が労働契約法に基づく地位確認請求の提訴を準備中である。

 話は昨年11月にさかのぼる。日大三軒茶屋キャンパス教学サポート課から上記15人に、「雇用契約に関する説明会の実施について」と題する文書が送付された。15人は日大での勤続が2~3年から28年までの講師で、同学部だけで教鞭をとる人から日大の複数学部を掛け持ちする人までさまざまである。対象となったA氏は「15人が雇い止めにされた理由はわからない」と話す。

 A氏が説明会に出向くと、相手側には学務委員長、事務長、人事課長、人事課スタッフ2~3人、英語担当准教授4人の約10人が座っていた。説明を担当したのは学務委員長で、教育メソッドと教育システムの変更を理由に、2018年3月末で雇用を打ち切ると通告した。応諾した講師もいたが、15人のうち5人が首都圏大学非常勤講師組合(以下、首都圏組合)に加盟し、日大ユニオン準備会を結成。他の組合に加盟している2人は、その組合で大学との団体交渉に入ることになった。

 ユニオン準備会は同年11月から5回にわたって、雇用継続を求める団交に入る。大学側の出席者は法人本部の人事課長や学部事務職員らと代理人弁護士であり、人事担当常務理事で人事部長の内田氏を含め、経営側代表として理事が出席することは一度もなかった。首都圏組合副委員長でユニオン準備会代表の志田慎氏は、日大の無責任な姿勢を批判する。

「理事がまったく出席しない理由を質すと、弁護士が『自分が代理人として出席しているので、理事は出席しなくても問題ない』と回答してきた。しかし、弁護士に意見を求めるたびにあいまいな返答でかわしてきた」

 この雇い止めは、大学の学部新設に関する文科省令に抵触している可能性がある。規定によれば新設学部に対して開設後の4年間は合理的な理由のない教員の入れ替えは認められていないが、スポーツ科学部と危機管理学部はともに16年に開設された。20年までは入れ替えができない規定だから、18年3月での雇い止めは規定違反ではないのか。

 首都圏組合は文部科学省高等教育局高等教育企画課大学設置室に4回にわたって上申書を送付し、担当官と面会もしたが、回答は「問題があれば適切な指導を行う」だった。

授業を民間英語学校に業務委託

 問題はそれだけではない。雇い止めを受けた15人の穴埋め策として、民間英語学校(以下、英語学校)に業務委託し、同社所属の外国人講師が教壇に立つことが判明したのだ。同社のホームページには「大学プログラムは、正課授業・課外講座のいずれの形式でも提供可能です。正課授業は、主に大学法人様、学部様と提携しております」と書かれてある。大学の英語授業受託を事業のひとつに加えているのだが、A氏はこう指摘する。

「大学の基幹業務である授業を語学学校に丸投げして、もし大学での講義を行えるレベルに満たない教員が授業を担当すれば、最低限の教育水準が保証されない」

 しかし、文科省高等教育局に日大への指導を求めたら「調査する」という回答にとどまり、4月からは予定どおりに英語学校所属講師が授業を受け持っている。文科省と日大との間でどんな調整があったのかは定かでないが、この英語学校担当の授業で毎回、なんとも奇妙な光景が見られるようになった。

 委託先の講師には単位認定権まで付与されない。そこで、単位認定権者である日大の専任教員が教室に張り付いて“授業参観”しているのだ。A氏とともに雇い止めを受けたB氏は「文科省と日大との間で、専任教員が教室に張り付くことで授業の質を保証していると見なすという合意が結ばれたのではないか」と推察する。専任教員は授業中ただ座っているだけで、何も発言しないという。その理由は、偽装請負の回避とみられる。

「英語の授業を委託した事業主(日大)が、請負事業者(英語学校)によって雇用される労働者に対して、直接に指揮命令をすると偽装請負になり、厚労省の是正勧告や指導の対象になる。だから、専任教員はただ座っているだけだ」(志田氏)

 だが、2人1組になって英語で自己紹介しあう授業で、学生数に端数が出ると、専任教員が相手方を務めて補佐しているという。これは指揮命令に該当しないから合法であるという認識らしい。

「この方式で授業を運営してコスト削減効果などを検証して、来期から同じ方式を各学部に展開していくのではないのか」(B氏)

 目下、都内の各大学は、少子化や私学助成金の縮減、さらに去る5月25日に成立した地域大学振興法による都内23区内の定員増禁止措置を受けて、危機感を募らせている。この変化をにらんで、日大の打った手が授業丸投げ方式なのだろうか。

教員人事に異変

 A氏によると、日大の教員人事に異変が起きたのは3年前である。

「それまでは教員人事は各学の教授会が決定するという学部の自治が働いていた。それが15年から大学理事会によるトップダウンに変わった」

 15年11月には、日大人事部が各学部に「非常勤講師に係る対応について」という文書を配布した。文書には次のように書かれてある。

「専任教員の授業持ちコマ数の適正化など教員人事配置計画の見直しを図る過渡期において非常勤講師の無期転換権発生を認めるということは今後の大学運営に支障をきたす可能性が大きい」(原文ママ)

 そのうえで、16年4月以降採用の非常勤講師から、一律で任期を上限5年と明記されている。13年に施行された改正労働契約法で、有期労働契約が通算5年を超えた場合に労働者が申し込めば有期労働契約に転換することが定められたが、15年に日大はその対策を打ったようだ。この人事方針に対して、学内で異を唱える大きな動きは発生していないという。

「日大の教職員にはおとなしい性格の人が多くて、体育会系のコワモテ体質に弱い。教職員の間で田中理事長支配は嫌がられているが、今の体制にメスを入れようと行動を起こすまでにはならない。しかも日大教職員は給料に恵まれているので、多くの教職員は、あえてリスクを冒すようなことはしない」(B氏)

 そうしたなかでアメフト問題が起きて、日大のガバナンスや体質がクローズアップされている。首都圏組合は5月21日付で、田中理事長と大塚吉兵衛学長に宛てて「緊急要求申入書」を提出した。主な要求内容は以下の通りである。

・「非常勤講師規程」における「契約更新上限を4回とする」規定(非常勤講師5年雇止め)
を撤廃すること。
・三軒茶屋キャンパスにおける英語科目全体の語学学校への委託を中止し、 18年3月末に 雇止めされた非常勤講師のうち、希望者全員を復職させること 。
・上記の方針の決定と実施・施行の強行の権限を持ち、最も重い責任を有する内田常務理事兼人事部長を解任・解職とすること。
・内田常務理事兼人事部長の任命責任者として、田中理事長が理事および理事長職を辞職すること 。
・日本大学の理事会および経営陣はすべて退陣し刷新すること。

 現在、大学当局はアメフト問題の処理に忙殺されて、雇い止め問題まで視野に入らないのだろうか。

「三軒茶屋キャンパスは田中氏の肝いりでつくられ、田中氏はしばらく事務局長を兼務していたぐらいなので、雇い止め問題は報告されているはずだ。しかし今のところ、大学当局からはなんの反応もない」(B氏)

 首都圏組合は元非常勤講師たちの地位確認を求め、民事訴訟を起こす準備を始めている。
(文=編集部)

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