コロナ禍で地方の受験生が地元志向を強め、首都圏や関西圏での受験を敬遠する動きが加速し、有名私立大学を中心に志願者減の動きが顕著になった。受験シーズンが過ぎた5月からは、新型コロナウイルス対応の緊急事態宣言は東京、大阪、京都、兵庫、愛知、福岡、北海道、広島、広島、沖縄の計10都道府県に拡大した。主要私大が集まる地域も含まれているため、これが2月だったら大混乱に陥っていたであろう。
私大の定員厳格化で大学生の東京一極集中を是正するという狙いも、コロナの影響で意外と早く達成できるかもしれない。
図表のように、主要私大は軒並み志願者を減らしている。これはコロナの影響に加え、2021年からの大学入学共通テストのリスクを回避しようと2020年の受験生は現役で入学しようとしたため、2021年は一浪の受験生が減ったことが要因のようだ。
ただ、共通テストや民間英語検定の導入問題などを契機に、新しい入試方式に転換したり、入試日程の多様化を実施した私大も多く、21年の私大入試は志願者数の変動が起こりやすい状況であった。まさに、新時代入試の転換点となる時期と言える。
立教大が志願者増加率トップの理由
立教大学の志願者増は、ユニークな全学部日程の入試方式を導入したことが大きな要因であろう。私大ではどの大学も学部ごとの入試科目を設定した試験日受験であるが、立教大では学部別試験日でなく科目パターンごとの試験日を設定したのだ。文系と理系で違いがあるものの、その試験科目パターンで受験可能な学部なら、同じ試験日に複数の学部を受験できる。いわゆるコスパの良い併願ができるというわけだ。試験日は5日設定している。ただし、文学部は独自日程である。
その結果、一人当たりの受験(併願)回数は1.98回から2.25回に増加、共通テスト利用入試の志願者数は0.5%減であったが、この全学部日程の一般入試志願者数は10.8%の増加となった。図表でも、総志願者数はトップの6.8%増となっている。ただ、共通テスト利用入試の志願者数減については、やはり地方の国立大学と併願する層の減少の影響と推定される。
実は、過去にも、全学部統一日程入試の導入が志願者増を引き起こした事例は少なくない。たとえば明治大学だ。2010年頃から全私大志願者数でトップとなっていたが、その要因は、都心のキャンパスが女子受験生に人気を呼んだことと、全学部統一日程入試と地方会場の設定にある、と言われている。ただ、この全学部統一日程入試は立教大とは違い、各学部の独自入試も実施している。明治大の全学部統一入試の場合、受験科目がマッチすれば複数の学部を併願できる。これが総志願者数の増加に結びついていたと言える。
早稲田政経と青山学院大は入試改革で志願者減
図表を見るとわかるように、早稲田大学の総志願者数は9万1659人と10万人を割り込み、前年比87.6%で、その減少ぶりがマスコミの注目を浴びている。
早大の場合は、前年から志願者減の予想はついていた。政治経済学部の一般入試の試験科目が大きく変わり、共通テストの国語、英語のほかに、数学I・数学Aを必須科目に設定したからだ。数学を必須にしたことで、英国社の私大文系専願組が抜け落ちることは当然予想された。そのため、募集人員も3分の1にあたる175人を削減した。学部独自の出題も、日英両言語の長文を読んだ上で解く記述式問題とした。
募集人員が減った上に、共通テストの数学が必須で、個別問題も過去問対策がきかない新傾向の出題ということになれば、リスクを嫌い、受験生が減少するのは当然である。注目すべきは、募集人員が3分の2に減ったのに合格者数を増やしたことである。難関国立大併願者の比率が高くなるので合格者の入学手続き率は低くなると予想し、合格者を増やしたのであろう。
同じように入試改革が志願者の大幅減に結びついたケースとして、青山学院大学が挙げられる。経済学部、理工学部、文学部英文学科を除く学部で個別試験科目のみの入試はなくなり、全学部統一日程試験を除き、共通テストの結果と学部独自の試験結果で合否判定をする方式に変えたため、共通テストを受けない私大専願受験者が敬遠したのだろう。総志願者数は前年比70%弱に減少した。同じミッション系で、ともに「英語の○○」とうたわれる立教大とは対照的な結果となった。
日大と立命館大も前年比80%台
ほかにも、日本大学と立命館大学がともに総志願者数10万人を割り込み、前年比80%台となっている。日大は、2018年のアメリカンフットボール部の問題で2019年入試の志願者が大幅に減った反動で2020年に増加したため、2021年はその反作用で減った、という見方もできる。
立命館大の場合は、入試の複線化で同じ学部の一般選抜でも併願できるため、今まで学内併願率が高かったが、コロナ禍の影響で併願受験料負担を嫌って、受験生が学内併願を減らす動きに影響されたと思われる。
私大では、一人の受験生が同じ大学の複数学部を受けたり、同じ学部でも別日程で受験できる複線(アラカルト)入試では、その出願者を別々にカウントする。学内併願が多ければ、のべで計算する総志願者数は多くなる。そこで、最近は学内併願している受験生も一人として計算する実出願者数が注目されており、「週刊朝日」(朝日新聞出版)の調査でも、公表する主要私大が増えている。
大学サイドの意識も変わり、明大の学長は同大が実出願者数ではトップと報告しているほどだ。減少率が高い青山学院大の実志願者は、2020年の3万981人から2021年は2万3206人に減った。減少は前年比75%で、総志願者の減少より低い。根強い人気はあるのであろう。
のべの総志願者数を実志願者数で割れば、併願率が出てくる。立命館大は266%で東京の主要私大の平均より高い。ほかにも、図表の大学では、関西大学、千葉工業大学、京都産業大学、武蔵野大学などが学内併願率300%以上である。一人の受験生が、同じ大学の別学部か別日程の入試を3回以上受けている計算になる。
複線(アラカルト)入試を採用している関西圏の多くの私大は、実志願者の減少が総志願者の減少に大きくつながったようだ。併願しても、その分の受験料を大幅に安くしたり、入学者には併願受験料を返還する千葉工業大は、高校への積極的なPRもあり、 併願率も高いが、実志願者数も伸びており、人気上昇中だ。
この実志願者数の動向も、私大入試を分析する上で重要な要素となろう。最近は多くの大学で公表している。
私大受験生の立場に立つと、その大学の実志願者数が伸びるかどうかの予測がつく。たとえば、慶應義塾大学は医薬系の学部があって同じ系統の学部が少なく、試験科目も学部ごとの違いが大きいので、学内併願は少ない。そのため、実志願者数が多い傾向にあり、志願者の動きは少ない。早大はその逆だ。
このように、その大学の学部構成や入試の特色を理解することも大切だ。ただし、今後は、早稲田の政経や青山学院大のように、過去問対策がきかないなど大きな変化を嫌う受験生の習性を承知の上で、入試改革に取り組む私大が増えてきそうだ。
(文=木村誠/教育ジャーナリスト)