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山口FG、会長解任クーデターの舞台裏…背後にアイフルと共同での“新銀行設立”構想

文=編集部
山口FG、会長解任クーデターの舞台裏…背後にアイフルと共同での“新銀行設立”構想の画像1
山口銀行本店(「Wikipedia」より)

 山口フィナンシャルグループ(FG、下関市)で、代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)だった吉村猛氏(61)を解任するクーデターが起きた。山口FGは山口銀行(山口県下関市)、北九州銀行(北九州市)、もみじ銀行(広島市)を傘下に置く地方銀行グループ。連結資産規模は約12兆円を誇り、全国有数の規模だ。

 6月25日午前、定時株主総会を山口銀行本店で開催した。関東財務局に提出した報告書によると、株主総会で吉村氏は99.23%と圧倒的な支持を集め、取締役に再任された。ところが午後6時15分、吉村氏をヒラ取締役に降格する「代表取締役の異動」を公表した。経営トップから引きずり下ろす電撃的なクーデターである。解任までの経緯を時系列で追う。

 株主総会後、山口FG本社で臨時取締役会を開き、オンラインを含めて全10人の取締役が出席した。議長は吉村氏。最初の議案として吉村氏自身の会長兼CEO選任と椋梨敬介氏(51)の社長兼最高執行責任者(COO)の選任を一括して提案した。株主総会後の臨時取締役会として通常の手続きである。すると、社外取締役の1人が「議案を2つに分けて審議しよう」と急遽、提案し、吉村氏の選任案が先に審議された。

 議長の吉村氏が「賛成の方は挙手を」と呼び掛けた。しかし、取締役10人のうち、手を挙げたのは吉村氏だけだった。自らの続投を疑わなかった吉村氏は「納得できない」として、「(否決の)理由を1人ずつ言ってほしい」と求めた。沈黙を破って1人の取締役が意見を述べると、他の取締役もそれぞれ反対の理由を話した。多くが事業推進に関して吉村氏の独断専行を批判した。決定は覆らず、吉村氏は会長兼CEOを解任され、ヒラ取締役に降格となった。

 続いて審議された椋梨氏の選任案は賛成多数で承認され、その後の決議で椋梨氏がCEOを務めることになった。総会で承認された取締役が、直後の取締役会で役職変更になるのは極めて異例なことだ。ことに金融機関では、ほとんど例がないとされる。

 6月25日夕刻、吉村氏の後継CEOとなった椋梨社長が会見し、「社内合意のないまま新規事案を進めるなか、妥当性について(吉村氏の考えと)異なる意見が出た」と述べた。そして、「クーデターではない」「取締役がそれぞれ独立して判断した」と強調した。だが、吉村氏が解任された本当の理由には触れなかった。

 吉村氏は東京大学経済学部を卒業、1983年4月、山口銀行に入行。経営中枢の企画畑を歩き、2009年6月、山口FG取締役兼山口銀行取締役に昇格。16年6月、山口FG社長兼山口銀行頭取に就任した。20年6月、山口FG代表取締役会長グループCEOに就いていた。

 吉村氏は「改革派の地銀トップ」として知られる。事業継承支援ファンドや山口県産品を売り込む地域商社を設立したりして、マイナス金利下でも稼ぐビジネスモデルを構築しようとしていた。椋梨氏は早稲田大学大学院を修了、1995年、山口銀行に入行。営業畑を歩き、支店長、関連会社の代表取締役を歴任。20年6月、吉村氏の後任として山口FG代表取締役社長グループCOOになった。

きっかけは内部告発

 山口FGの取締役会の構成は以下のとおり。

<社内>

・吉村猛     6月25日の臨時取締役会で会長兼CEO職を解任される

・椋梨敬介    代表取締役社長CEO

・福田進     取締役監査等委員

<社外>

・永沢裕美子   日本産業協会理事

・柳川範之    東京大学大学院教授

・末松弥奈子   ジャパンタイムズ会長兼社長

・山本謙(新任) 宇部興産会長

・三上智子(新任)日本マイクロソフト執行役員コーポレートソリューション事業本部長

・佃和夫     三菱重工業特別顧問

・国政道明    弁護士

 山口FGは15年6月、ガバナンス体制強化のため監査等委員会設置会社へ移行。20年6月から取締役10人のうち過半数を社外取締役が占める体制となった。取締役10人のうち社外取締役が7人。他の地銀グループより社外取締役の比率が高い。解任された吉村氏が地銀のモデル行となるために社外取締役を多く集めた。社外取締役の反乱は想定外のことだったろう。

 経営トップの解任というクーデターに発展した原因は何だったのか。きっかけは、内部告発だった。吉村氏は消費者金融大手アイフルと共同出資で個人向けのリテール専門銀行を設立する計画を立てていた。経営コンサルタントの男性を最高経営責任者(CEO)に迎え、その親族やコンサルタント会社の社員を雇用する予定だった。

 吉村氏は今春、取締役会に計画の概要を説明。「CEOの権限」で押し切ろうとした。山口FGは18年1月、個人・小口ローン事業を強化するため、アイフルと業務提携した。この後、共同出資で個人向けローンを主力とするインターネット銀行をつくるという構想が浮上した。オリバーワイマングループ(東京・千代田区)日本代表パートナーの富樫直記氏(60)がネット銀行設立の計画を立案した。富樫氏は1984年早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業し、日本銀行に入行。営業局、米国留学(フレッチャー法律外交大学院修士)、考査局、信用機構局、ロンドン駐在などを経て、99年、金融戦略コンサルティング会社フューチャーフィナンシャルストラテジー社長となる。2007年からは経済同友会幹事を務めている。

 10年5月、米国を本拠に置く経営コンサルティング会社オリバーワイマングループの日本代表パートナーとなった。日銀出身というキャリアを生かし、多くの金融機関を顧客に持っているという。内部告発では「特定のコンサルタントとの癒着」が指摘されていた。ここ数年、山口FGはコンサルタント会社と十数件の契約を結んでいたとされている。取締役会が吉村氏に聞き取り調査したところ、吉村氏は告発状に書かれた内容を否定したという。

 一部メディアが5月半ばに内部告発文を公開したのをきっかけに、監査等委員会が中心となって社内調査委員会を立ち上げ、調査に乗り出した。徐々に新銀行計画への反対派が増えていったという。だが、これだけの説明では説得力に欠ける。新任されたばかりの2人の取締役も含めて、「解任」が全員一致になったのはなぜなのか。根回しに動いた人物がいるとの見方が根強いが、それは誰なのか。株主総会当日に、わざわざ解任するという強行策を取った理由は謎のままだ。

第一生命、保険外交員による詐取事件

 山口FGには苦い過去がある。山口銀行で2004年、当時の頭取の再任が取締役会で突然否決されたことがある。実力者の田中耕三・元相談役の意向による「解任劇」といわれた。 元相談役と親しいことから銀行内で「女帝」と呼ばれていた第一生命保険の外交員への、顧客の紹介件数が突出して多かったため、頭取らが問題視していた矢先の出来事だった。「相談役が頭取を返り討ちした」と噂された。この時も、説明責任は果たされなかった。

 第一生命は20年10月、女性保険外交員による19億円の詐取事件を公表した。内部告発では吉村氏と「女帝」との関係が指摘され、別の女性の問題も記されていた、とされる。調査委が実態を調べているところであり、これが取締役会内部で吉村氏への不信感が高まった原因とみられている。

 コンサルタントとの「癒着」はあったのか、第一生命の巨額詐取事件との関連はどうなのか。調査結果が出次第、山口FGは記者会見を開き、吉村氏の解任にいたった経緯をきちんと説明する必要がある。

(文=編集部)

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