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金持ちのことを心配する貧乏人…実質的失業者は350万人超、消費税廃止で税収は劇的改善

文=林克明/ジャーナリスト
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「Getty Images」より

 金持ちのことを心配する貧乏人――。この恐ろしい思考と行動を捨て去り、私たち庶民が「税金は金持ちから取れ! 消費税をなくせ!」と叫ぶところから、コロナ禍における格差社会の是正が始まるのではないだろうか。

「金持ちのことを心配する貧乏人」現象は、社会のあらゆるところに見られる。たとえば、経営陣のために無理して働く平社員が慢性疲労で、うつ病になったりする。あるいは、会社の損失補填を一中間管理職が補填しようとして法に触れる行為をしてしまう、というようなことがある。

 経営者が苦労したり、エリートが難しい課題を解決して全体に貢献するならわかる。あるいは、将軍や上級将校が過酷な責務を負うことも理解できる。だが、一兵卒が「お国のために」と、軍上層部より危険な道を選択するのは悲劇だ。

 こうした現象に対して、さまざまな説明や解説はできるだろうが、ひとつには他者のためや全体のために「貢献したい」という思いが心の奥底に存在するからだろう。

 そのような人間の善良さにつけ込んだ“似非エリート”が、一部の人たちだけが得をする社会・経済・政治システムを強化してきた結果、今の日本がある。

コロナ失業150万人の惨状

 7月12日から東京では4回目の緊急事態宣言が発出され、息苦しい日々が続いている。

「外出するな」「外食するな」「職場に行くな」「テレワークしろ」などと強要し、メーカーや金融機関に圧力をかけようとしてまで酒類の提供を止めさせて「自宅に蟄居しろ」と言いながら、世界各国から膨大な人が集まる東京オリンピックは強行している。

 多くの人々が耐えがたきを耐え忍びがたきを忍ぶなか、迎賓館(旧赤坂離宮)においてトーマス・バッハIOC(国際オリンピック委員会)会長を招いて歓迎会を開いた。食事と酒の提供はなかったものの、迎賓館という宮殿でセレモニーを執り行ったのは、実に象徴的だ。

 華麗な宮殿内とは対照的に、悲惨な状況が街にあふれている。帝国データバンクの調査によると、今年6月末の累計コロナ関連倒産は1738件に上っている。

 注目すべきは東京都議選最中の6月に実施された、NHKによる1万人のアンケート調査だ。コロナによって収入が減少した人は34%、変わらない人は61%、増えた人は4%である(四捨五入のため、合計が100%にはならない)。

 これを見ると、34%の人々が経済的に追い詰められてはいるものの、残りの66%は生活を維持できている。この66%によって現体制が維持されているのだろう。

 そうしたなか、しわ寄せを受ける「34%」に関連した衝撃的な調査結果がある。今年2月、野村総研が行ったパート・アルバイト就業者6万4943人へのアンケート調査から、コロナによる実質的失業者は女性103.1万人、男性43.4万人(合計146.5万人)と推計できることがわかった。

 この報告書によれば、「シフトが5割以上減少」かつ「休業手当を受け取っていない」人を「実質的失業者」と定義し、今回の調査結果および総務省「労働力調査」を用いて推計したという。

 2月時点の失業率は2.9%で完全失業者は194万人だったので、これと合わせると実質的な失業者は340.5万人にも上ることになる。さらに、それから3カ月後の5月の完全失業者は211万人に増えている。

 補償がほとんどないなかでの自粛や休業強制は死活問題だ。窮地に陥った人々の生活を好転させるのは、個人の努力では限界があり、財政出動による各種給付金などが急がれるし、消費税廃止を含む不公平税制の抜本改革も急務だ。

消費税収入、史上最高の21兆円

 そんな状況で飛び込んできたのが、コロナ不況が続くにもかかわらず2020年度の税収が最高になり、消費税も最高の20兆9714億円だったというニュースである(7月5日財務省発表)。

 ここで本稿のテーマ「金持ちのことを心配する貧乏人」がかかわってくるのだが、その前に消費税が導入された翌年の1990年と比較して、2020年の法人税・所得税・消費税がどう変化したかを確認しておこう。

所得税26兆円→19.2兆円
法人税18.4兆円→11.2兆円
消費税4.6兆円→21兆円 

 法人税と(主として高額所得者の)所得税が激減し、その穴埋めに消費税が使われている。つまり、大企業や高額所得者、大資産家の税金を安くした分を、貧困者から大富豪までが同率で支払う消費税で賄っているのだ。消費税は、不公平税制の最たるものといえる。

1974年の所得税累進課税に戻すだけで、新たな財源13兆1752億円

 所得税も金持ち優遇になっている。申告納税者の所得税負担率は、所得1億円を超えるとどんどん下がる。給与のような所得とは別に、株式譲渡や配当金などの資産に課税される税率は、いくら高額でも約20%のまま。富裕層ほど資産の比率が高くなるため、金持ちになればなるほど税負担率が下がっていく仕組みだ。

 大企業に対しては、本来の支払いを猶予する租税特別措置が80以上もある。そのため大企業は税金を減免され、法定どおりに税金を支払っているのは黒字を出した中小企業がほとんど、という現実がある。

 こうした不公平税制の抜本改正が急務だが、新しいことをせずに昔の税制を一部復活させる方法もある。

 1977年に税理士らによって結成された「不公平な税制をただす会」は、さまざまな不公平をただすとどれだけ税収が増えるかを、毎年発行する報告集『福祉と税金』で公表している。その第32号(2020年)の一部を紹介しよう。

 所得が増えるにつれて税率を上げる仕組みを「累進課税」という。現在は、5%から45%までの7段階になっている。これを1974年(昭和49年)の超過累進課税率を適用するとどうなるか。その当時は、12%から75%の7段階。所得が8000万円以上の人は75%もの税率だった。

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1974年推進課税適用の表

 当時と同じ累進課税を適用すれば、2018年度の実際の所得税収3兆2950億円から16兆4072億円へと13兆1752億円も激増する。さらに、消費税導入前の源泉分離課税の税率35%を利子所得・配当所得・株式の譲渡所得に適用すると10兆3095億円で実際より4兆9999億円増収財源が発生。

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消費税導入前の源泉分離課税の税率を適用した場合

 たった2つを昔に戻すだけで、18兆1751億円の増収となり、現在の消費税に近いくらいの財源が生まれる。

法人税の5段階累進課税で22兆円、全体で43兆632億円税収増

 法人税はどうだろうか。現在は23.2%(所得800万円以下は15%の特例)と一律なのを、5%、15%、25%、35%、45%の5段階の超過累進税率を適用した場合、2018年実績12兆3868億円から34兆2631万円にもなる。実に21兆8763億円も財源が生まれるのだ。

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法人税に累進課税を適用した場合

 ここで例として挙げた改革を含めて不公平な税制を是正すると、「不公平な税制をただす会」の2018年実績データを基にした財源試算によれば、現行よりも43兆632億円の増収になるという。

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43兆632億円の財源が増加する計算になる

 消費税を完全に廃止しても21兆円超の税金が余るのだから、その分を低所得者の生活改善や福祉・教育などに十分使える。

 加えてコロナ禍は緊急事態だから、国債を発行して当面賄う方法も考えられるだろう。儲かっている人や企業から税金を徴収して富の再分配ができ、生活が向上するのだ。

金持ちやエリートの心配する貧乏人を止めよう

 ところが、「消費税廃止しろ」「超高額所得に資産課税や総合累進課税を課せ」「富裕税を創設しろ」「大企業から税金を徴収しろ」と言うべき貧乏人が、妙に金持ちやエリートのことを心配するのである。

「消費税がないと福祉が立ちゆかなくなる」
「財政破綻するのではないか」
「大企業の課税を強化すれば国際競争力が失われる」
「超高額所得者に総合累進課税を適用したり富裕税を創設すれば海外に逃げて行ってしまう」
 このような言説を根拠に、現在の税制が維持されている。

 大金持ちや大企業経営者、高級官僚がなどのエリートが言うなら、わからなくもない。しかし、一般人がエリートのことを心配するのは噴飯ものではないか。庶民よりは少し上の中産階級の小金持ちが、彼らよりはるか上の階層である億万長者を擁護するのも悲しい姿だ。

 これでは、一介の庶民が「お国のために」と身を捨て、エリートが生き残るようなものではないか。特に消費税が3%から5%へと増税された1997年以降、実質賃金も減り続け、デフレが続き、貧困は拡大し、世界の中で日本が“一人負け”している。

 これらの負の連鎖を断ち切るには、「金持ちのことを心配する貧乏人」から脱却することだ。「不公平な税制をただす会」が示しているように、大企業と金持ちの減税のために使われる消費税を廃止し、大企業優遇や富裕層の減税を止めよ、と堂々と主張することが私たちの暮らしは大幅に改善する一歩だろう。

「不公平な税制をただす会」」は今年8月末までに、不公平を是正した場合の最新の財源試算を発表する予定だ。
(文=林克明/ジャーナリスト)

不公平な税制をただす会ホームページ http://japan-taxpayers.org/
※8月末発行予定の「福祉と税金」第33号で最新財源試算が公表される。上記ホームページトップの右上「福祉と税金」をクリック

林克明/ジャーナリスト

林克明/ジャーナリスト

1960年長野市生まれ。業界誌記者を経て週刊現代記者。1995年1月からモスクワに移りチェチェン戦争を取材、96年12月帰国。第一作『カフカスの小さな国』で小学館ノンフィクション賞優秀賞受賞。『ジャーナリストの誕生』で週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。

 最新刊『ロシア・チェチェン戦争の628日~ウクライナ侵攻の原点を探る』(清談社Publico)、『増補版 プーチン政権の闇~チェチェンからウクライナへ』(高文研)
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Twitter:@@hayashimasaaki

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