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たかぎこういち「“イケてる大先輩”が一刀両断」

GAP、やはり日本撤退?肝いりのリブランディングで露呈した「ファストリとの差」

文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師
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GAPの店舗(「Wikipedia」より/Kakidai)

 ファッション小売業の世界大手3社の直近四半期の業績が出揃った。インディテックス、H&M、ファーストリテイリングは共に前年同期比で大幅な増収、損益も黒字となった。コロナ禍の影響で大幅減収となった前年同期の反動ともいえる。しかし2019年度と同じ水準までの業績回復はほど遠い。

 さて、売上規模で世界4位の米ギャップはどうだろうか。同じく直近四半期の売上は大幅増収で、19年度比でも8%増収となった。既存店売上も増収となっている。不採算店舗閉鎖とEC(電子商取引)の成長効果が反映されている。厳しい業績不振が続いていたが、昨年10月に2023年までの経営プランを発表。今後3年間で北米店舗数の35%削減、店舗の8割をモール(日本のショッピングセンターに当たる)外店舗とすること、ECやオムニチャネルの強化などを発表した。

 新しいプランは好感を呼び、終値が前日比13.64%増の21.15ドルとなった。2021年度に入っても株価は上昇を続け、5月には昨年末比約1.8倍の36.33ドルを記録した。7月後半も30ドル前後で推移している。この好調のいくつかの要因を探りながら、ギャップジャパンの現状と将来を考えてみたい。

1.ギャップ株価好調の理由

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『アパレル業界のしくみとビジネスがしっかりわかる教科書』(
たかぎこういち/技術評論社)

 米サンフランシスコに拠点を置くギャップは、2020年度決算では営業損益が8億6200万ドル(930億9600万円)の赤字、税引前損益が11億200万ドル(1190億1600万円)の赤字、当期純損益が6億6500万円(718億2000万円)の赤字となっている。

 ここ数年、売上はファストリに抜かれ、米国を代表するファッションブランドの輝きをすっかり失い大苦戦が続く。日本においても現在では、アウトレットモールブランド、子供服ブランドとなっている。往年のモダンなアメリカンカジュアルスタイルの人気を知る著者としては、淋しい限りである。

 昨年発表された23年までの経営戦略では、「GAP」と「バナナ・リパブリック」の北米店舗の削減だけでなく、1987年に進出したイギリス、アイルランドの81店舗の全店閉鎖を決定。同じくヨーロッパのフランス、イタリアの店舗は21年7月までに外部企業へのFC(フランチャイズ)移行を検討するとしている。北米も含め撤退に約2億ドル(約216億円)を計上し、年間最大4,500万ドル(約48億円6000万円)の賃料削減を見込んでいる。

 その一方、日本市場から完全撤退した「オールドネイビー」は室内着などを中心に好調に推移し、売上増を計画。グループ内で最も成長しているアスレジャーブランド「アスレタ」の売上20億ドルへの倍増計画やカナダ進出も発表。さらにセレクトショップの「インターミックス」、子供服の「ジャニーアンドジャック」を売却。「アスレタ」のメンズ版「ヒルシティ」事業も中止した。

 アメリカ企業らしい思い切った構造改革を次々と進めることへの評価は高い。また2020年6月にパートナーシップを締結した米国のラッパー、カニエ・ウエストとのコラボレーションとなる「YEEZY GAP」にも注目が高まっている。

 世界最大の小売企業ウォルマートとの「GAP」ブランドのホームファッション商品独占販売店契約は、ブランド再成長のための戦略的パートナーシップの構築である。いまさら感はぬぐえないが、この発表にも大きな可能性が秘められている。

2.リブランディングに取組むギャップジャパンの泣きどころ

 ギャップジャパンは5月1日現在、日本国内において「GAP」140店舗、「バナナ・リパブリック」48店舗を展開する。本国の混乱のために日本では、旗艦店の相次ぐ閉鎖や広報販促活動の停滞などが見られた。昨年秋より国内でのリブランディング(ブランドの再構築)をスタートさせた。セールが常態化していた販売体制を、国内小売価格の値下げを皮切りにプロパー消化率を高める方向に舵が切られた。

 そして、新宿旗艦店が実験的な試みと共にリニューアルされた。世界初の「ギャップ カフェ」併設やギャップブランドのルーツであるデニムや音楽、そして1969年に誕生したギャップが大切にしてきた価値観を表現する「BLUE SHED(ブルーシェッド)」を設けた。世界唯一のギャップコンセプトストアである。簡単な刺繍、ワッペン、プリントのカスタマイズドもトライアルされている。

 21年春には、国内市場向けに俳優・アーティストの窪塚洋介さん家族をモデルに販売キャンペーンを展開した。そして7月13日からは米国に次いで話題の「YEEZY GAP」が予約先行発売された。しかしながら、コロナ禍でサプライチェーンの断絶が起こったとはいえ、予約はできるが発売日が「冬」としか表示がない。アイテム数も少なすぎるのは、期待した者にとっては非常に淋しい。

 ユニクロのコラボレーション企画が大きな話題と結果を残しているのと比較すると、やはり残念である。また、最大の成長ギアであるアスレジャーブランド「アスレタ」が日本国内では別会社の商標登録がすでにあり、ギャップジャパンは自社のブランド名でも使用できない。加えて、最大の稼ぎ頭のひとつでもある御殿場プレミアムアウトレットなどで展開している国内アウトレットでの大型店舗の賃貸契約条件のしばりもある。

 ギャップの大型売場面積の撤退後をすぐ引き継ぐことが可能なカジュアル企業は、ファストリしかない。大昔、ファストリがギャップのM&Aを探っていると業界内で噂されたこともあったが、今となればギャップにまったく魅力は残っていない。

3.まとめ

 ギャップジャパンの売上は、ギャップ全社売上のうち一桁台といわれている。その日本にリブランディングを仕掛けている。その将来のシナリオをワーストとベスト2つのケースで考えてみよう。

 まずワーストケースだが、2016年5月に「オールドネイビー」の国内53店舗の撤退を発表し、7カ月後にはそれを強行した過去がある。本国が発表した23年までの経営プランが結果に結びつかなければ、次はアジア地域での展開見直しが検討されるであろう。そうなれば、ギャップの日本撤退という選択肢も出てくるだろう。

 ベストケースは、昨年秋から始まったリブランディングによって業績が復活し、ブランドの再認知が成功することである。

 いずれにしろ大変革期にあるアパレル業界では、予想もしない動きがまだまだ続くことだけは間違いない。

(文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師)

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『アパレルは死んだのか』(たかぎこういち/総合法令出版)

たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表/東京モード学園講師

たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表/東京モード学園講師

カギ&アソシエイツ 代表/スタイルアドバイザー/コンサルタント(ファッション視点からの市場創造)/東京モード学園ファッションビジネス学科講師

1952年、大阪生まれ。奈良県立大学中退。大阪で服飾雑貨卸業を起業。22歳で単身渡欧後法人化代表取締役就任、1997年香港に渡り1998年、現フォリフォリジャパングループとの合併会社取締役に就任。オロビアンコ、マンハッタンポーテージ、リモワ、アニヤ・ハインドマーチなど海外ファッションブランドをプロデュースし、日本市場の成功に導く。また、第1回東京ガールズコレクションに参画。米国の有名ファッション展示会「d&a」の日本窓口なども務めた。時代に沿ったブランディング、MD手法には定評がある。2013年にファッションビジネスのコンサルティング会社「タカギ&アソシエイツ」を設立。著書に『オロビアンコの奇跡』『超入門 日・英・中 接客会話攻略ハンドブック(共著)』(共に繊研新聞社)、『一流に見える服装術』(日本実業出版社)、『アパレルは死んだのか』(総合法令出版)『アパレル業界のしくみとビジネスがしっかりわかる教科書』(技術評論社)などがある。
コンサルタントのタカギ&アソシエイツ

Instagram:@kohichi.takagi

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