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経営苦境の新聞輪転機メーカー大手に、なぜ投資ファンドが買収仕掛けた?攻防激化

文=編集部
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「東京機械製作所 HP」より

買収防衛でポイズンピル

 最古の輪転機の名門メーカーが買い占めのターゲットになった。新聞輪転機大手の東京機械製作所(東証1部上場)である。

 7月20日、アジアインベストメントファンド(東京・中央区)が東京機械株の8.08%を新規保有し、筆頭株主に躍り出た。買い増しが続き、7月末には保有割合があっという間に32.72%に達した。9月中旬時点では39.94%を買い占められた。別名義での保有分を含めれば「50%を取得済み」(関係者)という未確認情報もあるが、正式に公表された数字ではない。アジアインベストメントは東証2部上場のアジア開発キャピタル(旧・日本橋倉庫)の子会社だ。アジア開発は香港を拠点とする企業グループ、サンフンカイグループの傘下にある。

 東京機械製作所は1874(明治7)年創業。1906年に国産初の輪転機を開発した名門。顧客には国内主要新聞社がずらりと並ぶ。だが、新聞の発行部数が減少し、新聞各社の経営環境が厳しさを増すにつれて業績は低迷。2021年3月期の連結決算は売上高が前期比7.6%減の108億9700万円に落ち込んだ。最終損益は3億円の黒字(20年3月期は9億9800万円の赤字)に転換した。採算の良いメンテナンス事業を伸ばす方針で状況を打開しようとしている。

 アジアインベストメントは保有目的を当初「純投資」としていたが、その後「支配権の取得」に変更した。大量保有報告書によると8月16日時点で保有割合は38.64%と3分の1を超え、株主総会で合併など重要議案の特別議案を単独で拒否できる。東京機械は8月初めに有事対応型買収防衛策の導入と独立委員会の設置を決め、応戦の構えだ。

 8月30日、「既存の株主に対し新株の予約権を無償で割り当てる買収防衛策の発動方針を10月下旬に開催する臨時株主総会に諮る」と発表した。アジアインベストメントが東京機械の株式の約4割を取得しており、それ以外の株主の持ち株を増やして、ファンドの影響力を薄める狙いがある。

 アジア開発キャピタルは9月17日、東京機械製作所が導入した買収防衛策の発動の差し止めを求める仮処分を東京地裁に申請した、と発表した。今回の買収防衛策はポイズンピルと呼ばれる手法。買収を仕掛けてきた相手の持ち株比率を下げるため、既存の株主に新しい株式を買い取る権利(新株予約権)を与える。今回は、新株の予約権は株式1つに対し1つ割り当てる。東京機械はアジアインベストメントの株式取得は「手続きを順守することなく行われた」とし、「株主が買い付けの是非を判断するため期間を確保する」と説明した。

 東京機械側は「一方的に株式を取得され、誠に遺憾」としており、「中長期的に株式を保有し、東京機械の企業価値を高めたい」とするアジアインベストメントの説明に納得していない。東京機械とファンドとの攻防戦は臨時株主総会にもつれ込みそうな雲行きだ。

東京ソワールは敵対的買収者を明示した買収防衛策

 家電販売から出発し、数々の上場企業の買収を仕掛けてきた佐々木ベジ氏は「秋葉原の風雲児」の異名をとる。フリージア・マクロス(東証2部上場)の会長。上場企業を含む30社以上のフリージアグループのオーナーである。

 不振企業や倒産企業の再生が得意技。コロナ禍で経営不振にあえぐ婦人フォーマルウェア最大手、東京ソワール(東証2部上場)を次の標的に定めた。フリージアは21年6月、東京ソワール株5.93%を新規に取得した。その後7度買い増し、6月末には保有割合を16.72%にまで高めた。東京ソワールは6月30日、同日を基準日として7月30日に臨時株主総会を開催すると公表した。

 議案は2つ。ひとつはフリージア・マクロス及びその関係者による大規模買付行為等の対応策(買収防衛策)の導入及び継続の件。関係者として会長の佐々木氏、佐々木氏の実弟で社長の奥山一寸法師氏をはじめ、フリージアグループの企業名が列記された。もうひとつは買収防衛策に基づく新株予約権の無償割当の件である。東京機械製作所でも登場するポイズンピルだ。

 物言う株主などによる敵対的TOB(株式公開買い付け)への対応で買収防衛策を導入する企業は少なくないが、わざわざ敵対的買収者の名前を盛り込むのはきわめて異例だ。東京ソワールは8月2日、関東財務局に臨時報告書を提出し、臨時株主総会での議決権行使の結果を明らかにした。第2号議案(新株予約権の無償割り当ての件)は総会直前に取り下げた。

 第1号議案は賛成数2万371個、反対数2646個、賛成の割合68.76%で可決した。棄権が6608個と圧倒的に多かったのが特徴だ。東京ソワールは、ひとまず臨時株主総会を乗り切った。しかし、フリージアとの攻防はこれからが本番とみられている。

 東京ソワールは児島絹子(本名・草野絹子)氏が1954年、オーダーメイドの高級婦人店、ソワール洋装店を東京・世田谷に開いたのが始まり。69年に東京ソワールに改称。児島氏は、喪服や礼服といえば黒の紋付が定番だったのを、洋服に変えさせた婦人フォーマルウェアの先駆者だ。

 86年、女性として初めて経済同友会に入会。88年、女性創業者として日本で最初の株式上場(東証2部)を果たした。絹子氏は2002年に最高顧問に退き、同時に子息の草野圭司氏が代表権のある副社長に就任した。以後、社長は3人交代したが、創業家の代表として圭司氏は代表権を持つ副社長であり続けた。だが、業績不振の責任をとり、圭司氏は16年12月期の定時株主総会をもって取締役を退任。20年4月23日、創業者の絹子さんが89歳で亡くなった。この間、創業家は持ち株の売却を続け、20年12月末時点で草野圭司氏の持ち株比率は2.99%(第10位の株主)に低下している。

 東京ソワールは百貨店やショッピングセンターなどを女性用の黒の礼服の主な販路としているが、コロナ禍で百貨店をはじめ小売店が営業中止に追い込まれたことが、業績を直撃した。20年12月期の売上高は前期比32%減の102億円、営業損益段階で22億5000万円の赤字、最終損益は19億8400万円の赤字だった。20年春に入学式が軒並み中止となり、結婚式も中止か延期となった。当然、黒の礼服の売れ行きも落ちた。こうした時期にフリージアが業績不振の東京ソワールの買収を仕掛けた。

婦人服のラピーヌと東京ソワールの合併をもくろむ?

 佐々木ベジ氏は東京都の離島、青ヶ島の出身。バブルの時代に低価格の家電販売で名を馳せ「秋葉原の風雲児」と呼ばれた。米国の化粧品大手エイボン・プロダクツの日本法人に買収を仕掛けたが失敗。1991年、東証2部上場の機械メーカー谷藤機械工業を買収した。現在のフリージア・マクロスである。

 97年通販会社のピーシーネットが倒産。個人として560億円の債務保証をしていた佐々木氏は破産を宣告された。以後、経済の表舞台から消えた。その佐々木氏が20年ぶりに兜町に戻ってきたのである。2017年、電子部品商社ソレキア(ジャスダック上場)に敵対的TOBを仕掛けた。ソレキアは富士通をホワイトナイトに招いた。佐々木氏のフリージアと富士通のTOB合戦に発展したが最終的にフリージアに軍配が上がった。

 4年後の21年1月、独立系の電子部品商社の日邦産業(名古屋第2部、ジャスダック上場)に対して最大で27%あまりの株式の取得を目指してTOBを実施した。日邦産業はTOBに反対を表明。敵対的TOBに発展した。買収防衛策をめぐり、買付期間は再三延長したが、フリージアは7月28日、TOBを撤回した。日邦産業の買収防衛策は無効として、地裁、高裁、最高裁で争ってきたが、申し立てが棄却される見通しとなったため裁判闘争を打ち止めにした。

 フリージアは日邦産業株を19.68%保有(6月10日現在)。この間、ソレキア株の保有比率はフリージアと佐々木ベジ氏の名義で合計50.43%に高めており、「ソレキアと日邦産業の合併を企図していたことは明らかだ」(関係者)。

 東京ソワールについても同じようなシナリオが描かれているとみる向きが多い。中堅アパレルのラピーヌ(東証2部上場、フリージアが32.5%を保有)と東京ソワールの経営統合である。ラピーヌは20年3月にフリージアが筆頭株主になり、佐々木ベジ氏が同年5月に取締役に就いた。代表取締役相談役を経て、同会長となり、21年3月1日付で社長の椅子に座った。青井康弘社長は代表権のない会長に退いた。

 東京ソワールはフリージアの持ち分法適用会社となったラピーヌから、「4月1日に業務提携の打診を受けた」という。フリージアは7月27日付でラピーヌの保有比率を34.35%に高めた。今後、「東京ソワール株の買い増しを続けるのは確実」(関係者)とされる。フリージアと東京ソワールの攻防戦はこれから本番を迎える。
(文=編集部)

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