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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

なぜスタバには“特別感”がある?アメリカ式サービスが若者に支持される理由

文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授
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スターバックスの店舗

 学生に自由テーマの課題を与えると、東京ディズニーランド、アップル、スターバックスコーヒー(スタバ)、とりわけ近年では、ネットフリックスウーバーイーツといった企業が必ずといってよいほど取り上げられる。つまり、日本の若者の心をしっかり掴んでいるということである。

 こうした企業の共通点は、アメリカ発の企業であること、さらにアップルを除けば、サービス業である。もっとも、アップルにおいても、主力商品こそiPhoneながら、その次はクラウドサービス(iCloud)、アプリストア(App Store)、有料サポート(Apple Care)などで構成されるサービスのカテゴリーとなっている。

 つまり、アメリカ式のコンテンツや提供プロセスを含めた広義のサービスが、現代の日本の若者の心をしっかりと掴んでいるといえるだろう。

根強い人気を誇るスタバ

 ネットフリックスやウーバーイーツと比べれば、もはや古株的存在ともいえるスタバは、現在でも高い支持を得ている。スタバは1971年にアメリカ・シアトルに1号店を出店、日本では1996年に東京・銀座に1号店を出店している。全店舗数は3万店を優に超え、日本だけでも1600店となっている。日本における2位はドトール(1000店)、3位はコメダ珈琲(900店)となっており、ぶっちぎりで首位の座を確保している。

 こうした勢いは明確に業績にも表れており、コロナ禍で多くの飲食店が苦しむなか、2020年度もしっかり黒字を確保している。

 筆者は基本的にはドトールコーヒー派であるが、それでもたまにスタバに立ち寄ると、コーヒー、軽食、デザートなど、良い素材が使われていると感じる。もちろん、多くの人がスタバの強みとして挙げるサードプレイス(自宅でも会社でもない第3の場所)としての居心地の良さを演出する内装、イスやテーブルなどの調度品も素晴らしい。筆者はシアトル滞在時に、スタバ本社のスタッフへインタビューする機会に恵まれたが、そのスタッフの「当社はインテリアの会社です」との断言に大変驚いたことがある。

 しかし、生き馬の目を抜くビジネスの世界において、独走を続けることは容易ではない。うまくいっていると知れば、当然、模倣する者が現れるわけである。カフェの模倣に関して、確かに味を忠実に再現することは難しいかもしれない。しかし、内装や調度品などは比較的簡単に模倣できそうだが、実際、そうした店を訪れてもスタバのあの得も言われぬ感覚は味わえない。

 マーケティングにおいて、Authenticity(=真正性、いわゆる“本物感”)が強いブランドにおいて重要であると指摘されるが、まさにスタバには確固たる本物感があるのだろう。もちろん、ドトールコーヒーやコメダ珈琲にもしっかりとした本物感があり、だからこそ消費者から高い支持を得ているはずだ。

スタバの接客サービス

「あ、京都に行ってらっしゃったんですね」と、スタバでスタッフに声をかけられ、大変驚いたことがある。その日は出張が重なり、午前中は京都、夕方から名古屋へ移動した。京都でスタバ―バックスに立ち寄り、その後、名古屋でも店に入り、財布にあったレシートを見せた際にかけられた言葉であった。ご存じの方も多いだろうが、スタバには、ドリップコーヒー購入時のレシートを当日の営業終了までに持参すると割引してもらえる“ワンモアコーヒー”というサービスがある。

 こうしたスタッフの声掛けに、やや困惑したものの、決して悪い気はしなかった。恐らく、何かやましい事情がない限り、多くの人は筆者同様、好意的な印象を抱くのではないか。しかし、日本のチェーン店のカフェではなかなか考えられない接客であり、恐らくほとんどの店のマニュアルには「不要なことは口にしない」などと書かれているだろう。ちなみに、スタバにおいては接客マニュアルすら存在しないとのこと。

 こうした裁量権は、もちろん時にリスクを孕むものの、筆者は素晴らしいことだと感じる。恐らく、裁量権の大きさはスタッフのモチベーションの向上につながり、そうして提供されるサービスによって顧客満足度は高まり、結果、従業員満足度にも良い影響を与えるという好循環が生じていることだろう。

 その他、スターバックでは「いらっしゃいませ」の代わりに「こんにちは」といった声も耳にする。単なる挨拶といえばそれまでだが、「いらっしゃいませ」は客が上で店員が下という上下関係、「こんにちは」は対等の関係に感じる。

 こうしたことがスタバで自然に行える理由は、やはりアメリカ発の企業だからだろう。そうした文化が根付いているアメリカ本社のスタッフが、日本法人のスタッフにしっかりと伝え、それをさらに店舗のアルバイトのスタッフに伝達することによって実現していると考えられるからである。アルバイトであっても配属前には40時間にも及ぶトレーニングがあるようで、たっぷりと時間をかけてスタバが大事にする価値観のようなものがしっかり共有されているのだろう。

 ちなみに、スタバのミッションは「人々の心を豊かで活力あるものにするために:ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」となっている。さらに、スタバのバリュー(大切にすべき価値)は以下の通りである。

<お互いに心から認め合い、誰もが自分の居場所と感じられるような文化をつくります>
<勇気をもって行動し、現状に満足せず、新しい方法を追い求めます。スタバと私たちの成長のために>
<誠実に向き合い、威厳と尊敬をもって心を通わせる、その瞬間を大切にします>
<一人ひとりが全力を尽くし、最後まで結果に責任を持ちます>
<私たちは、人間らしさを大切にしながら、成長し続けます>

 こうしたことは筆者でも頭では理解できる。しかし、心の底から共感できるかといわれれば、表面的なことしか理解できていないような気がする。恐らく、少なくとも筆者と同世代の管理職の方などは同じような気持ちではないだろうか。

 これらのフレーズは日本の伝統的な考えと若干のずれがあり、昭和世代の人間には正直、ストンと腑に落ちるとは言いがたい部分がどうしても残ってしまう。一言で言うならば“文化の違い”であろう。つまり、アメリカ発のスタバではうまく実践できても、歴史ある日本の企業では単に絵に描いた餅に終わってしまうケースが少なくはないはずだ。

求められる新たな“おもてなし”スタイルとは

 日本のサービスにおける強みとして、しばしば注目される“おもてなし”は曲がり角に来ているのかもしれない。“おもてなし”の代表的な事例として、老舗旅館の接客や旅客サービスなどがしばしば例に挙げられるが、たとえば老舗旅館などにおいてすら、消費者のニーズを踏まえ、接客サービスなどを簡素化させているようだ。

 また、筆者もたとえば日系航空会社のきっちりとした接客に対して、もちろん敬意を表するが、セブパシフィックのようなLCC(Low Cost Carrier:格安航空会社)の「何かあれば呼んでください、ではエンジョイ!」といった気楽な感じのサービスにも大変好感が持てる。しかも、価格は格段に安いわけである。

 筆者ですら、このように感じるということは、より若い世代においては、明確な上下関係のもと、格式張ってはいるが、提供される便益にはあまり差がなく、しかも往々にして高価格といった、日本古来の“おもてなし”スタイルに対して、「緊張する、煩わしい、コスパが悪い」など、より大きな抵抗感を抱いているかもしれない。

 スタバやセブパシフィックにおける、嫌みのない対等な関係、シンプルながら心地よいサービス、リーズナブルな価格は、新たな“おもてなし”スタイルの構築に対して、大きなヒントになるのではないだろうか。さらに、こうしたサービスは消費者のみならず、サービス従事者においても、納得性およびモチベーションを高めるといった利点を生じさせる可能性が十分にあるだろう。

 もちろん、時には耐え忍ぶことも重要ではあるが、少なくとも理不尽な忍耐を強要するような労働を現代の若者が受け入れるとは考え難く、そもそもそうした慣習が間違っていることは明白だ。
(文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』 プレミアム商品やサービスを誰よりも知り尽くす気鋭のマーケティング研究者が、「マーケティング=高く売ること」という持論に基づき、高く売るための原理原則としてのマーケティングの基礎理論、その応用法、さらにはその裏を行く方法論を明快に整理して、かつ豊富な事例を交えて解説します。 amazon_associate_logo.jpg

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