「新社長はあまりにも能天気だ」
関係者はため息交じりに、今年4月に就任した三越伊勢丹ホールディングス(HD)の細谷敏幸社長の経営手腕に疑問を投げかけている。今年発表した中長期計画(2021〜30年度)では、過去最高を大きく上回る営業利益500億円の確保をぶち上げているが、達成には疑問符が付く。25年にはボリュームゾーンである団塊の世代のすべての人が後期高齢者となり、買い物の機会が減り、経営基盤が揺らぐ。当面はコロナと対峙せざるを得ないが、withコロナの視点も経営戦略からは感じ取れない。
赤字86億円、大手で突出
三越伊勢丹HDの業績を振り返ろう。最新の決算によると、2021年4〜6月期は86億円の最終赤字を記録した。緊急事態宣言発令に伴う部分的な休業が響いた。
宣言下での対応は百貨店ごとに多少の濃淡があるとはいえ、競争条件はほぼ同じ。にもかかわらず、他のライバル社と比べて三越伊勢丹HDの赤字額は突出している。高島屋は13億円(3〜5月期決算)、松坂屋と大丸を運営するJ・フロントリテイリング(同)は30億円のそれぞれ赤字だった。流通関係者はこの理由について「高島屋やJ・フロントは不動産事業にも集中しているが、三越伊勢丹HDは百貨店一本足打法なのが響いた」と解説する。
コロナ収束後をにらみ、営業利益500億円を確保する目標や、10〜20年後を見据えた新宿・日本橋の再開発構想を掲げることは立派な話だ。ただ、足元をしっかり見つめず、必要な改革を怠ったままでは、絵に描いた餅に終わる。
人件費は同業他社と比べて依然として高い。特に気になるのは、コロナとの向き合い方が甘いことだ。
食品売り場休業に
コロナの感染爆発が起きた8月以降、大型商業施設や大手百貨店は休業を余儀なくされた。従業員の感染が発覚したためだ。JR新宿駅のルミネエスト新宿(東京都新宿区)は顧客と従業員の安全を守るため、一時的に一斉休業し、全館の消毒を徹底した。阪神梅田本店(大阪市)なども食品売り場でクラスターが発生し、部分的な休業に踏み切った。
一方、伊勢丹新宿本店(新宿区)でも2週間で食品売り場を中心に140人超の感染者を出したが、個別の店舗を閉じるにとどまった。臨時休業などの対応は見送った。ある従業員は「本当に安全を重視しているのか」と呆れた様子で語った。
今冬には第6波が日本列島を襲い、東京都では1日当たりの感染者が1万人を超えるとのシミュレーションも存在する。そうなると、ロックダウンが現実味を帯び、百貨店をはじめとした商業施設の経営基盤は痛めつけられる。仮に第6波を乗り越えたとしても、変異株との戦いは続き、今夏のように部分的な休業が迫られる可能性も高い。
4月に鳴り物入りで就任した細谷社長はそうしたリスクを考慮して戦略を立てているのだろうか。夢物語ばかり語っているが、同業他社と比べて赤字が大きいことや、コロナ対応で執行部に不信感を持つ従業員にしっかり向き合わなければ、前社長の杉江俊彦氏と同じく、何も実績を残せないまま去ることになる。
(文=編集部)