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10月、食品が一斉値上げラッシュ…地球温暖化の異常気象、食卓を直撃し始めた

文=小倉正行/フリーライター
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「Getty Images」より

 10月からの食品の値上げラッシュが国民生活を直撃している。輸入小麦は、10月から売り渡し価格が過去2番目の上げ幅の19%の値上げとなった。これにより、食パン、パスタ、うどん、ラーメン、即席麺、小麦粉の値上げは必至となる。食用油は11月から4回目の値上げとなる。食用油の値上げの結果、マヨネーズも値上げとなる。また、マーガリンも10月から値上げ、コーヒー価格も10月から2割ほど値上げとなる。ミートショックと呼ばれる輸入牛肉高騰は小売りや外食に深刻な打撃となっている。また、夏の長雨の影響でレタス、白菜などの野菜価格も高騰している。

 これらの食品の値上げラッシュの背景として中国の需要急増などの影響も指摘されているが、見逃せないことは地球温暖化による異常気象だ。

 まず、小麦である。小麦は主産地がカナダ、米国、オーストラリアになっているが、このうち、カナダ、米国が熱波に見舞われ、小麦生産に打撃を与えた。熱波は6月下旬にカナダ西部、米国太平洋岸北西部を襲い、カナダ・ブリティッシュコロンビア州リットンでは、6月29日に最高気温49.6℃を記録し、数百人の犠牲者を出した。また、米国太平洋岸北西部のワシントン、オレゴン、アイダホ州でも高温を記録した。

 この熱波について欧米の大学など27人の科学者による国際研究チームは、「今回の熱波は人為的な気候変動がなければほぼ起こり得なかった」と指摘した。9月8日付農業協同組合新聞は、米国、カナダの小麦生産への影響について次のように解説している。

「米国の北西部では日本が製菓用として使用するソフト・ホワイトを栽培しているが、6月から高温乾燥で作柄が悪化している。パンや中華麺用となるハード・レッド・スプリングが栽培されている中西部北部も同様だという。パン用に使用されるカナダ産のウェスタン・レッド・スプリングも作柄悪化が懸念されている。サスカチュアン州の小麦の生育状況を示す指標のひとつ、エクセレントの割合は今年は0%との評価だという。昨年の同時期には20%だった」

 この結果、国際的な小麦価格は高騰し、日本の小麦価格の値上げとなった。

  食用油やマーガリンの値上げの要因になった大豆および菜種生産をみてみると、大豆生産第1位のブラジルは、100年ぶりともいわれる船の航行が困難になるほどの河川の水不足と干ばつに見舞われ、第2位の米国は熱波と干ばつによって打撃を受け、投機的資金の流入もあって価格が高騰した。菜種についても世界的な主産地であるカナダが熱波の影響で生産が減少し、8年半ぶりの高値となった。ここでも地球温暖化による異常気象が影響している。

 ブラジルの水不足と干ばつは、コーヒー豆生産にも打撃を与えた。さらに大規模に発生した降霜被害が追い討ちをかけ、15万〜20万ヘクタールのコーヒー農地が被害を受けた。これによりコーヒー豆先物価格が高騰し、日本のコーヒー価格も20%ほどの値上げとなったのである。

輸入牛肉価格が高騰

 輸入牛肉の価格高騰も深刻である。米国産冷凍バラ肉で前年比8割高、8月は豪州産冷蔵肩ロースが前年同月比13%高となっている。これにも異常気象が影響を与えている。19年のオーストラリアの大干ばつで、同年1〜9月の豪州全体の降水量は1965年以来の低水準となり、肉牛に必要な牧草の生育が進まず、小麦生産にも打撃を与えた。

 さらに、乾燥と高温で深刻な森林火災が大規模に広がり、コアラなどの野生動物の多くが死滅した。牧草の生育障害で牛の生産量が減少し、日本のオーストラリア産牛肉の輸入量は2割ほど減少し、輸入牛肉価格は高騰を始め、私たちの食卓を直撃している。

 野菜価格の高騰も深刻である。農林水産省の9月29日の10月の価格見通しでも、北海道の7月の記録的猛暑と小雨の影響で、ジャガイモと玉ねぎは10月を通して平年より2割以上高くなり、白菜やレタス、ナスも9月前半の長雨の影響で生育が遅れ、10月前半は高値で推移するとしている。

 筑波大学生命環境系気象学の植田宏昭教授による「2021年8月の記録的降水について」は、「西日本や関東甲信地域では、同月の総降水量が1946年の統計開始以降、最多となりました」「今年の8月の状況は、令和2年7月豪雨に近い状況で生じているとの結論に達しました」としている。

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次報告書は、「人為起源の気候変動は、世界中の全ての地域で、多くの気象及び気候の極端現象に既に影響を及ぼしている」として、それは、「何世紀も何千年もの間、前例のなかったものである」と人類が歴史的な気候変動に直面していることを指摘している。

 今、私たちは食品価格の値上げラッシュのなかで、その事実に直面しているのである。

小倉正行/フリーライター

小倉正行/フリーライター

1976 年、京都大学法学部卒、日本農業市場学会、日本科学者会議、各会員。国会議員秘書を経て現在フリーライター。食べ物通信編集顧問。農政ジャーナリストの会会員。
主な著書に、「よくわかる食品衛生法・WTO 協定・コーデックス食品規格一問一答」「輸入大国日本 変貌する食品検疫」「イラスト版これでわかる輸入食品の話」「これでわかる TPP 問題一問一答」(以上、合同出版)、「多角分析 食料輸入大国ニッポンの落とし穴」「放射能汚染から TPP までー食の安全はこう守る」(以上、新日本出版)、「輸入食品の真実 別冊宝島」「TPP は国を滅ぼす」(以上、宝島社)他、論文多数

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