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巨大な米国オガララ帯水層、枯渇の危機、穀物生産が困難に…日本の畜産に深刻な打撃

文=小倉正行/フリーライター
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「Getty Images」より

 国連食糧農業機関(FAO)は、昨年11月に「世界食料農業白書:2020年版」を発表した。FAO駐日連絡事務所はHP上で、次のようにその内容を説明している(以下、引用)。

<30億人を超える人々が、高レベルから非常に高レベルの水不足の農業地域に住んでおり、そのほぼ半数が厳しい制約に直面しています。さらに、1人あたりの利用可能な淡水は過去20年間に世界全体で20%以上減少しており、特に世界最大の水利用源である農業部門では、より少ない水量でより多く生産することの重要性を浮き彫りにしています>

<約12億人(そのうち44%は農村部、残りは地方の小都市部)は、深刻な水不足が農業の課題になっている場所に住んでいます。 それらの約40%は東アジアと東南アジアに住んでおり、これよりわずかに高い割合を南アジアが占めています。 中央アジア、北アフリカ、西アジアも深刻な影響を受けており、5人に1人が水不足の非常に厳しい農業地域に住んでいます。 対して、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、カリブ海、北アメリカ、オセアニアではそのような人口率は4%未満です。

 サハラ以南アフリカに住む人々の約5%が同様の条件下で生活しています。つまり、深刻な干ばつが3年に1回、農地や牧草地に壊滅的な影響を与える地域に、約5000万人が住んでいます。世界の天水耕作地の約11%(1億2800万ヘクタール)と牧草地の約14%(6億5600万ヘクタール)は、頻発する干ばつに直面しています>

 同白書が警告するように、今、世界的に水不足と干ばつが広がり、飢餓や食糧危機を招いており、日本にもその影響が広がっている。記憶に新しいのは2019年のオーストラリアの大干ばつである。19年1〜9月の豪州全体の降水量は1965年以来の低水準となり、肉牛に必要な牧草の生育が進まず、小麦生産にも打撃を与えた。さらに、乾燥と高温で深刻な森林火災が大規模に広がり、コアラなどの野生動物の多くが死滅した。

 この大干ばつによる牧草の生育障害で、オーストラリアでの牛の生産量が減少し、日本のオーストラリア産牛肉の輸入量は2割ほど減少。輸入牛肉価格は高騰した。

 マダガスカルは3年連続の干ばつで南部地域の150万人が飢餓に直面している。マダガスカルは、洋菓子などの甘さと香りを演出するバニラ豆生産が世界の8割を占めており、干ばつで生産量は2〜3割減少。日本のバニラ豆の輸入価格は、10年前の1キロ3900円に対して、2020年は3万8000円と約10倍となった。

オガララ帯水層

 さらに、米国のオガララ帯水層の枯渇問題が世界的に問題になっており、日本の食糧安全保障を直撃しようとしている。オガララ帯水層は、北アメリカの大穀倉地帯(ロッキー山脈の東側と中央平原の間を南北に広がる台地上の大平原に位置)の地下に分布する浅層地下水帯で、日本の国土面積を超える広さを持っている。

 この帯水層に依拠している米国のカンザス州では、650万頭の肉牛が飼育され、270万トンの牛肉が生産され、日本にも米国産牛肉として輸入されている。牛肉1キロ当たり6〜20キロのトウモロコシなどの穀物が生育のため必要である。2億5000トンのトウモロコシなどの穀物生産のうち、3分の1が肉牛生産に使われている。

 穀物生産には膨大な量の水が必要で、カンザスの穀倉地帯はオガララ帯水層の地下水に頼って生産されているが、このオガララ帯水層の地下水が枯渇しつつあることが明らかになっている。現在、この帯水層は地表から100メートルの地点にあるが、この50年間で水位は60メートルも下がり、あと30メートルしかないとされている。そして、早ければあと10年でオガララ帯水層の地下水はなくなるともいわれ、遅くとも50〜70年には枯渇すると推定されている。

 東京大学大学院農学生命科学研究科教授の熊谷朝臣氏の研究発表「地下水資源から占う穀物生産の未来」でも「何の改善もされることなく現在のオガララ帯水層からの取水ペースにより灌漑農業を続ければ、ハイプレーンズ南部域の穀物生産は崩壊し、それは世界の食糧安全保障にまで影響します」としている。

 カンザス州、オクラホマ州、テキサス州、ニューメキシコ州をカバーしているオガララ帯水層が枯渇すれば、米国穀倉地帯でのトウモロコシなどの年間5000万トンの穀物生産が困難になり、日本の家畜の飼料とされている米国産トウモロコシの輸入が困難になることになる。それは、米国産輸入飼料に依存している日本の家畜生産や酪農生産が厳しくなることを意味している。また、米国産牛肉や米国産豚肉の輸入も途絶することになるであろう。

小倉正行/フリーライター

小倉正行/フリーライター

1976 年、京都大学法学部卒、日本農業市場学会、日本科学者会議、各会員。国会議員秘書を経て現在フリーライター。食べ物通信編集顧問。農政ジャーナリストの会会員。
主な著書に、「よくわかる食品衛生法・WTO 協定・コーデックス食品規格一問一答」「輸入大国日本 変貌する食品検疫」「イラスト版これでわかる輸入食品の話」「これでわかる TPP 問題一問一答」(以上、合同出版)、「多角分析 食料輸入大国ニッポンの落とし穴」「放射能汚染から TPP までー食の安全はこう守る」(以上、新日本出版)、「輸入食品の真実 別冊宝島」「TPP は国を滅ぼす」(以上、宝島社)他、論文多数

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