農林水産省は8月に2019年の食料自給率を発表し、カロリーベースの食料自給率が38%になったことを明らかにしたが、同時に発表された品目別自給率に関係者の関心が集まっている。品目別自給率と共に、飼料自給率を加味した品目別カロリーベース自給率も大幅に下落している。
19年の品目別自給率において、牛肉の自給率は35%と前年よりも1ポイント下がり、1985年の81%と比べると2分の1以下になっている。今や国産牛肉は食卓に乗ることが稀になり、外食や中食で扱われる牛肉は、ほとんどが輸入牛肉となっている。
豚肉の自給率は49%と1985年の2分の1弱に低下。外食、中食では輸入豚肉が幅を利かせている。
品目別自給率は、需要量(国内消費仕向け量)に対する国産生産量の比率を示しているが、関係者を不安にさせたのが、飼料自給率を加味して計算したカロリーベースの食料自給率である。国内で飼育されている牛・豚・鳥は、その飼料のほとんどを輸入飼料に依存している。仮に100%輸入飼料で肥育された家畜は、その自給率はカロリーベースでは0%となる。
2019年のカロリーベースの品目別自給率は、牛肉は9%、豚肉は6%、鶏肉は8%、鶏卵は12%、牛乳・乳製品は25%。輸入飼料の輸入が途絶した場合、牛肉、豚肉、鶏肉の国内生産は現在の1割以下になり、鶏卵、牛乳・乳製品も生産量は1割ないし4分の1に落ち込むことを意味する。要するに、全国民に必要なタンパク質が満たされないことになる。
輸入飼料の途絶はあり得ないとする見解もあるが、輸入飼料のほとんどが米国産トウモロコシであり、その生産は地球温暖化の影響を受けている。大型ハリケーンによる水害や高温化による被害などで、生産が不安定化している。さらに、米国農業は移民労働者に依存しており、新型コロナウイルス蔓延による移動制限で労働者の確保も難しくなっている。それだけに、米国産トウモロコシへの依存度が極端に高い状態は危険である。
国内での飼料生産を高める努力は、食料安全保障上、極めて重要である。現在、耕作放棄地面積は42万3000ヘクタールで、埼玉県の総面積をはるかに超えている。その耕作放棄地での飼料生産も真剣に検討すべきである。また、飼育形態も変えるべきである。肉牛生産や酪農では、放牧主体の経営への転換で飼料自給率は上がる。このほか、アフラトキシン汚染の輸入トウモロコシを使わないことで安全な牛乳生産にも結びつく。
これまで畜産業は、大手商社による輸入飼料基地建設、輸入飼料配送網の確立、さらに、大規模経営養鶏、養豚の生産基地など、輸入飼料を基に形成されてきた。そこに投じられた資本は巨大なものであった。今、このような輸入飼料に依存する形態は転換されるべきである。
(文=小倉正行/フリーライター)