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セブン・ローソン・ファミマ、“エキナカ”コンビニ争奪戦激化…難攻不落のJR東

文=松崎隆司/経済ジャーナリスト
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ファミリーマート、東武アーバンパークラインの岩槻駅の店舗

 無人レジの1000店舗出店を明らかにしたファミリーマートが10月12日、東武アーバンパークラインの岩槻駅のコンビニを無人レジ付き店舗にリニュアルオープンした。エキナカでの無人レジ付きコンビニの展開は、西武鉄道と合弁で展開している「トモニー」の西武新宿線中井駅店に続き2店舗目となる。

「これまで提携関係にある複数の鉄道会社から人手不足などの相談があり、その対策の一つとして打ち出したのが無人レジの導入です。東武鉄道もまたそうした取引先の一つです」(ファミマ広報担当者)

「トモニー中井駅店」(乗降客は一日1万8915人)は50平方メートルの広さに750アイテムの商品が並び、それを57台のAIカメラでフォローするというものだったが、岩槻駅店は30平方メートルに600アイテム(リニューアル前は1000アイテム)の商品が並び、それを20台のカメラでフォローする一回り小さな店舗になるという。営業時間は午前6時から午後10時まで。バックヤードに店員が待機するが、店内には店員はいない。

「岩槻店の日販はファミマの平均よりも少し下回る程度だったが、しっかり利益は上がっていました」(ファミマ関係者)

 しかし岩槻駅は19年の一日平均の乗降客数は3万6935人だったのが、20年には2万7765人と9170人減少した。これがエキナカコンビニの店舗にまったく影響なかったとは考えにくい。無人レジでどこまでできるかは「これから成果を見ていく」(東武鉄道関係者)と語る。

 中井駅店では取り扱われていなかった、たばこの販売が本格的にスタート、約140銘柄のたばこが所狭しと並んでいる。通常店では約200銘柄のたばこが並んでいるが、5分の1のアイテム数の狭小コンビニにこれだけの品数を並べたのは、この店舗でたばこのニーズが高いからだ。

 一方で電子レンジは設置せず、加熱して食べるような商品は極力抑えたという。コンビニ業界ではエキナカ店舗をはじめとしたマイクロマーケットへの関心が高まっている。

コンビニでいち早くエキナカに進出したファミマ

 エキナカ店舗の出店にいち早く動き出したのは、ファミマが買収したエーエム・ピーエム・ジャパン(ampm)だった。1995年8月には近鉄グループ、98年3月には東武鉄道子会社、東武商事、99年2月にはJR九州リテールと提携。これが一大店舗網構築の基盤となった。JR九州リテールは現在、210店舗(エキナカ以外も含む)のコンビニを展開している。このほか相模鉄道(現在担当は相鉄ステーションリテール)、京成電鉄、首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス)などとの提携もampm時代からの遺産だ。

 ファミマが自ら本格的に鉄道会社との提携に動き出したのは2007年6月。今年8月に初のエキナカ無人レジ店舗をリニュアルオープンさせた西武鉄道との提携からだ。このとき両社は店舗の共同運営を開始し、練馬、西所沢、練馬高野台を皮切りに、西武鉄道の全92ある駅のうち70の既存店舗を順次、新店舗に切り替えていく方針を打ち出した。

 11年には名古屋鉄道と提携、3月には中部国際空港アクセスプラザ内で「ファミリーマートエスタシオ」を開業、神宮前駅、豊田駅など4店舗を5月までに駅構内に順次オープンし、16年には50店舗の出店を目指した。  

 現在わかっているだけで7つの鉄道のグループ会社と提携、これに神戸、横浜、名古屋、仙台、東京、京都、札幌など自治体運営の地下鉄駅構内に出店している。自治体の運営する地下鉄などに出店する場合は入札方式で一定期間賃貸するというかたちが多いが、こうした店舗も含めるとエキナカ店舗は全体で480店舗(21年9月末現在)あるという。ただ、エキナカ店舗の出店は15年の仙台市営地下鉄への出店を最後に鳴りを潜めている。それ以降も陣取り合戦を進めているセブン-イレブンやローソンとは対照的だ。 

エキナカ店舗の運営は難しい

 大手コンビニのエキナカ出店は提携をしたからといって安穏としているわけにはいかない。好条件を提示すれば、提携先でなくても出店する余地もあるからだ。事実、東武鉄道でもっとも乗降客数の多い東武池袋駅はセブンが手中に収めた。

 しかもエキナカ店舗の運営は難しく、撤退を余儀なくされるところも少なくない。ファミマは12年2月から多摩都市モノレールと提携、フランチャイズ契約を結んでいた相鉄ステーションリテールがフランチャイジーとなって出店していた全7店舗(運営は相鉄ステーションリテール)を21年3月に撤退した。

「ファミマと多摩都市モノレールの出店契約は当初5年契約で、それ以降は1年ごとに更新していたが、業績が思わしくなく撤退した」(相鉄グループ関係者)

 ところが、ここにセブンが進出してきた。陣取り合戦で勝利しても経営がうまくいかなくなれば、一瞬にしてオセロのように入れ替わってしまうということだ。

ファミマを追い越した後発セブン

 業界トップのセブンが鉄道会社と提携を始めたのは09年9月。京浜急行電鉄と提携、品川、横浜駅を皮切りに2年間でエキナカ店舗80店舗をセブンに転換することを発表した。さらに10年10月にはJR北海道の子会社、北海道キヨスクとフランチャイズ契約を交わし、札幌エリア内の主要駅に展開している6店舗をセブンに転換した。

 13年10月には新京成電鉄、14年3月にはJR西日本、JR西日本デイリーサービスネットと提携。JR西日本のエリア内(1222駅)にある500店舗をリニューアルすると表明した。さらに同7月にはJR四国、四国キヨスクと提携、15年4月には阪急阪神ホールディングス傘下の神戸電鉄、神戸観光と手を結び、「セブン-イレブン神鉄西鈴蘭台店」を皮切りに6店舗の出店を進めていることを明らかにした。

 15年10月には大阪高速鉄道と提携、大阪モノレール駅構内のコンビニ「モノウェル」を順次セブンに転換していくことで合意、18年3月には小田急電鉄、小田急商事と提携しエキナカ店舗を2年間で100店舗、セブンに転換することを明らかにした。そして21年8月には京王ストアと提携、京王調布駅を皮切りに2年間で40店舗を展開する計画になっている。

 セブンは鉄道のグループ会社10社と提携、札幌、京都、名古屋、福岡などの自治体が運営する地下鉄などへの出店を含め502店舗(2021年3月末時点)を展開。エキナカ店舗の出店でトップを走っていたファミマを後発のセブンは追い越した。これはファミマにとっては大きな脅威であり、「無人レジ」でこれまでコンビニが出店できなかったような拠点に出店を進めようとするのは理解できる。

店舗数より重点拠点確保に力を入れるローソン

 ローソンが鉄道会社と提携を始めたのは04年12月。西日本鉄道傘下の西鉄ステーションサービスと提携し、05年11月には東急電鉄、14年11月には山陽電気鉄道の子会社、山陽フレンズ、15年4月には東京メトロとの提携に成功した。さらに関西方面でも17年3月から大阪市営地下鉄(大阪メトロ)の運営事業者に選ばれ、12年から契約満了で撤退したセブンとポプラが運営していた44店舗を担当。21年5月には阪急阪神HD傘下のエイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)との提携を実現、H2Oの子会社アズナスが運営するエキナカコンビニ「アズナス」の98店全店をローソンに転換する。

 一説にはH2Oとの提携はセブンが虎視眈々と狙ってたという。セブンは前述のように阪急阪神HD系列の神戸電鉄との提携、さらに16年10月にはH2Oとの提携まで実現したが、関西の交通の要、阪急・阪神電鉄構内のコンビニ出店はもう一歩というところでトンビに油揚げをさらわれたかたちとなっている。

 ローソンは現在5社との提携と札幌、名古屋、大阪など3つの自治体が運営する地下鉄駅構内への進出で194店舗(21年8月末時点)展開している。店舗数では2社に遠く及ばないローソンだが、東京メトロや東急電鉄など乗降客数でトップ5に入る鉄道会社と取り組んでいる。そのため東急渋谷駅、東急横浜駅、東京メトロ大手町駅など乗降客の多い拠点をおさえている。

「H2Oの提携によって今後は阪急・阪神電鉄内のエキナカ店舗『アズナス』98店舗を順次ローソンに転換していくほか、東急電鉄のエキナカでもさらに店舗展開を加速していく」(ローソン関係者)という。

 現在大手コンビニと提携せずに独立系のエキナカコンビニを展開しているのは、JR東日本(コンビニのNewDaysと売店のキオスク)、JR西日本(ベルマートキヨスク)、南海電鉄(コンビニのアンスリーと売店のnasco)、京阪電鉄(アンスリー、nasco)など。このなかで特に注目されているのがJR東日本だ。

 JR東日本は鉄道業界に君臨するガリバーだ。沿線の駅の総数は1676駅(営業キロ数は7401キロメートル)。営業キロ数、駅数ともに私鉄最大の近鉄ですら286駅(501キロ㍍)しかない。いかにJR東日本が巨大な鉄道網であるかわかるだろう。さらに1日の乗降客数は3537万人と2位の東京メトロ(1300万人)に3倍近く差をつけている。JR東日本と組むことができれば、エキナカ店舗では大手3社のなかで圧倒的な地位を確立することができる。

 しかし、JR東日本を取り込むというのはそうたやすいことではない。

「一言でいえば難攻不落。よほどのことがないかぎり提携は難しい」(大手コンビニ幹部)

 NewDaysの平均日販はローソンやファミマよりも10万円近く高いという話もある。セブンでさえ、JR四国、JR西日本とJRグループの外堀を埋めながら、JR東日本との提携を実現していないことがそれをよく表している。

 しかし一方で、JR東日本は人手不足でキオスクの閉店などを進めているという。ここに大手コンビニにとっては大きなチャンスがある。ファミマもまた、無人レジというツールでこうした店舗のてこ入れに手を挙げたいところだろう。

 それだけではない。ファミマが無人レジで手を結んでいる「TOUCH TO GO」はJR東日本グループとベンチャー企業、サインポストの合弁会社。無人レジの事業を手掛けることで、JR東日本との関係を深めているのである。もちろんJR東日本は「TOUCH TO GO」と組んで高輪ゲートウェイ駅で実証実験を進めているが、ファミマが複数のエキナカ店舗で無人レジの実績を積んでこれを手みやげに提携を申し入れれば、自主独立路線を堅持するJR東日本といえども胸襟を開いて話をする余地が生まれる可能性はある。

 大手コンビニのエキナカ戦争は最終決戦へと向かっている。

松崎隆司/経済ジャーナリスト

松崎隆司/経済ジャーナリスト

1962年生まれ。中央大学法学部を卒業。経済出版社を退社後、パブリックリレーションのコンサルティング会社を経て、2000年1月、経済ジャーナリストとして独立。企業経営やM&A、雇用問題、事業継承、ビジネスモデルの研究、経済事件などを取材。エコノミスト、プレジデントなどの経済誌や総合雑誌、サンケイビジネスアイ、日刊ゲンダイなどで執筆している。主な著書には「ロッテを創った男 重光武雄論」(ダイヤモンド社)、「堤清二と昭和の大物」(光文社)、「東芝崩壊19万人の巨艦企業を沈めた真犯人」(宝島社)など多数。日本ペンクラブ会員。

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