世の企業の99%以上は、業種によって基準こそ異なれ「中小企業」に数えられる。
小さくても従業員満足度が高く業績もいい会社もあればその逆もあるわけだが、多くの業界で人材不足が叫ばれる昨今は、一般論として中小企業ほど「採れない」「辞める」「育たない」という状況に陥りやすい。この傾向は今後も続くだろう。
中小企業で人材の問題が起きる原因はリソース不足だけでなく、経営者や組織の取り組みが間違った方向に向かっている点にもある。こう指摘するのが『もう、転職はさせない!一生働きたい職場のつくり方』(前川孝雄、田岡英明著、実業之日本社刊)だ。
たとえば、こんなポイントに心当たりはないだろうか。これらは全て「採れない」「辞める」「育たない」企業の特徴だという。
経営者の思いが、社員に届いていない
経営者のビジョンが社員と共有されていないと、社員に働きがいは生まれず、モチベーションも上がらない。自分が何のために働いているかわからなくなってしまうのだ。
ありがちなのは、経営者が「5年後には10億円を売り上げる企業にしたい」「県内のシェアナンバーワンを目指す」といったものをビジョンだと思っていること。ビジョンとは事業を通して成し遂げたい目的であって、数字目標ではない。
社長のダメワード:「今期のウチのビジョンは売上15億円」
経営者の視点が、結果に偏りすぎている
経営者の頭の中が短期的な売上や利益で一杯になっている。この状態では社員のモチベーションは確実に下がっていく。経営サイドは「社員を食わせるためには稼がねばならない」と考えるが、結果をタテに従業員の尻を叩き続けると肝心の結果が出なくなってしまう
社長のダメワード:「売上や利益こそ重要なんだ」
フラット組織という名のワンマン組織
「ウチはフラットな組織にしてるから」というセリフで風通しのよさをアピールする経営者は多いが、実態は「社長がトップで、後は横並び」なことも。これではすべて経営者直轄の、単なる「ワンマン組織」である。
社長のダメワード:「ウチはフラットな組織にしてるから」
本音が言えない組織風土
経営者は口では「何でも言いなさい」と言うが、実際は自分の意に沿った意見しか耳を傾けないというパターン。必然的に従業員は「この人に話しても無駄だ」となってしまう。
社長のダメワード:「そのアイデアは私の考えとは違う。わかってないな」
社員それぞれの役割が不明確
自分が会社から何を期待され、どんな仕事が求められているかが明確になっていないと、従業員は安心して働くことができない。また、「目の前の仕事以外は担当外」という意識が働き、積極性が失われてしまう。
社長のダメワード:「ウチは手を挙げれば何でもできる会社なんだけど、自分から動こうとする社員がいない」
不発するモチベーション向上の施策
社員のモチベーションが低いことに問題意識を持った経営者がやりがちなのが「表彰制度」「社員の誕生日祝い」「ありがとうカード」など。
しかし、表彰制度は評価基準が公平でないと特定の人ばかり表象されることになり、その他の人は「自分には関係ない」となりやすい。しかも唐突に表彰されても、経営者の意図が伝わっていないと、表彰された社員は戸惑うだけだ。誕生日祝いも形骸化しがちだ。結果、経営者は「やった気」になって大満足だが、肝心の社員は白けっぱなし、ということになる。
社長のダメワード:「表彰制度を作れば、やる気になるだろう」
社員を育成する風土がない
慢性的に人が足りない中小企業では、新人が最低限のことを教わったら実戦に放り込まれることが珍しくない。「OJT」といえば聞こえはいいが、単なる「放置」のことも。
社長のダメワード「仕事は上司や先輩の背中を見ながら覚えていくもの」
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「人が集まらず、育たず、離職率が高い原因は給料が安いからだ」という考えもあるだろう。しかし、給料は大事だが「すべて」ではない。本書では問題はそこではなく、現場で働く一人ひとりの「働きがい」を創出できていないからだとする。
最大の改善ポイントは「経営者」であることは言うまでもないが、そこで働く従業員にもやれることはある。もし自分が勤める会社が上で挙げたポイントに当てはまるなら、本書は組織改善の格好の教科書になるはずだ。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。