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街の銭湯が消滅の危機…ピーク時から9割減、10年後には全国で1000軒以下に?

構成=長井雄一朗/ライター
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2022年に1865軒となった銭湯(撮影:東京商工リサーチ)
2022年に1865軒となった銭湯(撮影:東京商工リサーチ)

 街の銭湯が次々と消えていく。全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会(全浴連)によると、2022年は1865軒で、1968年の1万7999軒から89.6%も減少している。日々の疲れを銭湯で癒やしていた時代から、風呂は自宅で入るものになり、常連客も経営者も高齢化が進む。そして、最近ではコロナ禍や燃料コスト高騰も痛手になっているという。銭湯業界の現状について、東京商工リサーチ情報本部情報部課長の後藤賢治氏に話を聞いた。

日本独自の文化を形成してきた銭湯の衰退

――街を歩くと、銭湯が続々と消えているのがわかります。

後藤賢治氏(以下、後藤) 全国の銭湯の9割以上が加入する全浴連によると、銭湯は高度成長期の1968年に1万7999軒を数えピークを迎えましたが、その後は年々減少が続き、1991年に1万軒、2006年には5000軒を割りました。2022年はわずか1865軒と、最盛期から89.6%減となっています。

 廃業や転業が大半で、2021年度の倒産は1件にとどまっていますが、ここにきて燃料価格や固定費が上昇しており、廃業がさらに加速することも懸念されています。

 日本独自の文化を形成してきた銭湯は衛生水準の向上に大きく貢献しましたが、各家庭に風呂が普及したことや銭湯設備の老朽化、燃料高騰、後継者不足など、経営環境は厳しさを増しています。

 残っている銭湯の中には、昔からのファンが通ってくれる間は続けよう、という強い意思を持つ経営者もいますが、そのファンが高齢化して通えなくなってしまえば、いずれは廃業の道を選ばざるを得ないでしょう。

――昨今の燃料代高騰も、銭湯の経営には悪影響ですね。

後藤 急激な円安やロシアのウクライナ侵攻の影響で、燃料となる重油やガスの料金が高騰しています。銭湯は、入浴客数に関係なく一定の固定費がかかりますが、燃料コストの高騰が経営を大きく圧迫する要因となっています。

 全浴連の担当者は「燃料高騰が続くと、廃業の増加につながると危惧している。利益の落ち込みで経営者の心が折れるかもしれない」と懸念していました。また、今年中に廃業を予定している銭湯業者は「常連さんやお年寄りが楽しみにしているから辞められなかったけれど、これ以上運営を続けることができなくなった」と苦しい胸の内を吐露していました。

――入浴客減少の理由は何でしょうか。

後藤 家にお風呂がなかった時代は、銭湯に通うことが日常でした。しかし、高度成長期に風呂が設置された団地や住宅が爆発的に増え、銭湯の客数は次第に減少していきます。さらに、常連客も経営者も高齢化が進む中、コロナ禍での3密回避で「入浴客が約2割落ち込んだ」との話もあり、廃業や転業が増えています。

――しかし、倒産は少ないですね。

後藤 廃業に歯止めがかからない一方で、2021年度の銭湯の倒産(負債1000万円以上)は1件でした。これは、新型コロナ関連の資金繰り支援策の効果もあるでしょう。ちなみに、過去20年間では2006年と2007年の9件が最多で、1桁にとどまっています。銭湯の多くは個人経営のため、体力のあるうちに廃業や転業を選択しているという事情もあります。

街の銭湯が消滅の危機…ピーク時から9割減、10年後には全国で1000軒以下に?の画像1
出典:東京商工リサーチ

2032年には全国で1000軒を下回る可能性も

――入浴料を上げることも難しいので、厳しいですね。

後藤 銭湯(一般公衆浴場)は「公衆浴場法」により管理されており、主な収入である入浴料金は「物価統制令」の対象で、銭湯業者が独自で決められず、各都道府県が上限額を決めています。全浴連によると、最高は大阪府と神奈川県の490円、最低は佐賀県の280円となっています(2022年4月22日現在)。「公衆浴場確保法」による水道料金や固定資産税などの優遇措置があるため、この入浴料でも経営できているわけです。

 銭湯の入浴料は審議会などの議論を経て決定されるため、時間がかかり、現在のように燃料高騰が急速に進むと、入浴料と燃料費のギャップが拡大し、経営悪化に拍車がかかります。また、値上げ幅が大きければ入浴客の減少につながりかねません。

 一方、スーパー銭湯や健康ランドは「その他の公衆浴場」に属し、法律上は銭湯ではないため、各事業者が自由に利用料金を決定できる半面、そうした優遇措置は受けられません。

――これからの銭湯業界について、どうみていますか。

後藤 今のペースで廃業が続くと、2032年には全国の銭湯は1000軒を下回る可能性があります。1982年に、銭湯を維持する目的で「公衆浴場の確保のための特別措置に関する法律」が施行されました。第三条では「国及び地方公共団体は、公衆浴場の経営の安定を図る等必要な措置を講ずることにより、住民の公衆浴場の利用の機会の確保に努めなければならない」と定めています。銭湯文化を絶やさないためにも、行政は見守るだけでなく、地域活性化につながる役割を担うことが期待されます。

 今後、さらに高齢化社会が進展し、銭湯は地域に根ざす「ふれあいの場」としての役割も期待されます。銭湯の廃業を防ぐには、きめ細やかな支援が必要であることは明らかです。都道府県に任せるだけでなく、国の後押しがもっと必要かもしれません。

(構成=長井雄一朗/ライター)

長井雄一朗/ライター

長井雄一朗/ライター

建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス関係で執筆中。

Twitter:@asianotabito

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