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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

オーケストラの指揮者、登場ルートは2つある?観客が知らない奏者のプロの技

文=篠崎靖男/指揮者
オーケストラの指揮者、登場ルートは2つある?観客が知らない奏者のプロの技の画像1
「Getty Images」より

「マエストロ、素晴らしいベートーヴェンをなさってください」とステージマネージャーに言われた僕は、「オーケストラと一緒に、深みのある音楽をするつもりです」と、強い意志を持ってステージに向かいながら、満場の観客の拍手を受ける――。なんてことは、実はありません。

 もちろん、“強い意志を持って”という点は当たっていますが、これは心の中だけの話ですし、ステージマネージャーとこんな素敵なやりとりをすることなど、世界中のオーケストラを見渡してもないでしょう。日本でも欧米でも、今から舞台に上がる指揮者やソリストに対して、ステージマネージャーが言うことは決まっています。反対に、指揮者やソリストのほうから、「どこを通ったらいいのでしょうか?」と尋ねることもあります。

 みなさんは、僕が何の話をしているのか、よくわからないと思います。しかも、ステージに道などないにもかかわらず、「どこを通ったらいいのか?」という質問自体、変に思われるに違いありません。しかし、指揮者にとって、ステージには道があるのです。一人でピアノを弾くリサイタルや、4~5人でアンサンブルをする室内楽メンバーなら、大きく真っ平らな空間であるステージを好きに歩いて演奏する位置まで行けばいいのですが、オーケストラの場合は、大きなステージいっぱいに楽員がいます。そんななか、指揮をする指揮台に行く道は2つしかないのです。

 一番簡単なのは、オーケストラの前を通って指揮台に到達する方法です。これこそ、本道といえます。誰に迷惑かけるわけでもなく、楽員の椅子に足を引っかけて躓く危険性もなく、観客席に笑顔でも振りまきながら、悠然と歩くことができます。

 ところが、ステージが狭かったり、奏者をたくさん必要とする大規模な曲で、オーケストラがステージの前面までぎっちりと配置されている場合はオーケストラの前は通れないので、第一ヴァイオリン集団と第二ヴァイオリン集団が陣取っている間をすり抜ける“裏道”を通ることになります。

 オーケストラ奏者はお互いにできるだけ近寄って演奏するので、みんなびっしりとひしめき合っているのですが、指揮者やソリストが通る際には、少し左右に動いて道をつくることになっています。その際は、もちろんステージマネージャーから奏者には、「今日は中を通ってくるからね」と、あらかじめ伝達されています。そして指揮者が通った後は、すばやく所定の位置に戻り、演奏が終わったら、さっと指揮者の道をつくってくれます。ヴァイオリンの後ろの奏者は、なかなか大変なのです。

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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