ビジネスジャーナル > 企業ニュース > 新生銀行、TOB飲めなかった条件
NEW

SBIによるTOB、新生銀行が飲めなかった少数株主排除と銀行持株会社規制の潜脱

文=松崎隆司/経済ジャーナリスト
【この記事のキーワード】, ,
新生銀行
新生銀行(「Wikipedia」より)

 金融業界に激震が走っている。北尾吉孝氏率いるSBIグループが9月9日、新生銀行に敵対的TOB(株式公開買い付け)をかけることを宣言したからだ。行政による監督の厳しい規制業種の代表格である銀行業界で敵対的TOBが行われるのは前代未聞。いったい何が起こっているのか。

 SBIが新生銀行と関わりを持つようになったのは2019年4月2日。8月28日までの間に新生銀行の株を1128万1100株(4.66%)買い付けた。「当初は純投資目的だった」(SBI広報関係者)という。ところが8月上旬ごろから新生銀行との資本業務提携の可能性について検討開始したという。その背後には「地銀連合構想(第4のメガバンク構想)」がある。

 SBIは19年9月の島根銀行(松江市)への資本参加を皮切りに、福島銀行(福島市)、清水銀行(静岡市)、大東銀行(郡山市)、東和銀行(前橋市)、じもとホールディングス(仙台市)と次々に地方銀行にマイノリティー出資を行い、一大グループの形成にむけて動き出していた。

 19年9月上旬にはSBI経営陣が新生銀行社長に対して33.4~48%の株式取得と資本業務提携を提案し、下旬にはSBI経営陣と新生銀行社長が面談した。実はこのときSBIは新生銀行に対してとんでもない提案をしていた。一般株主をスクイーズアウト(少数株主排除)することで公的資金を返済しようと言い出したというのだ。

 方法はこうだ。TOBの実施によって、SBIと国(預金保険機構と整理回収機構)が合計で新生銀行の議決権の3分の2を握り、新生銀行が自己株取得によって一般株主の割合を低下させ、SBIと国の合計が90%の議決権になったところで一般株主をスクイーズアウトし、国が保有する株を買い戻すことにより公的資金を返済するというものだ。

 新生銀行は前身の日本長期信用銀行が経営破たんし、その経営の立て直しのために5000億円の公的資金を優先株式(6億株)で投入、2000年には政府は国会答弁で、確保目標額として5000億円を示した。これは今でも変わっていないという。

 約1506億円はすでに実質的に返済されているために残りは約3494億円。政府は6億株の優先株式のすべてを普通株式に転換して保有しているため、一株7448円で回収するには、その株価で売却するか、新生銀行に自己株取得してもらわなければならない。しかし新生銀行の直近の株価は1800円台、とても7448円には及ばない。そこで一般株主は廉価でスクイーズアウトして、国に対してのみ7448円で株を買い取るというのだが、これではTOBに応じた株主やスクイーズアウトされた株主には不平等となる。

 そのため、新生銀行はSBIの提案に乗り切れなかったようだ。SBI側が提案するかたちでの連結子会社化については拒否した。ただ地方創生推進の企画の共同出資会社の設立などを検討することとなった。SBIは20年1月7日には新生銀行の株を1300万4000株(5.51%)、同年12月21日には2926万500株(13.91%)まで買い進んでいた。

 そして20年4月にはSBIホールディングスの子会社をSBI地銀ホールディングスに名称変更し、地方銀行の受け皿とし、8月31日にはSBI、新生銀行、日本政策投資銀行、山口フィナンシャルグループの金融機関4社で「地方創生パートナーズ」を設立した。

マネックス証券との提携話

 そのようなかで急浮上したのはマネックス証券との提携話だ。同社会長の松本大氏は08年から11年まで新生銀行の社外取締役を務めてきたこともあり、新生銀行の経営陣とも懇意にしていた。

「マネックス証券との包括業務提携の公表によって当該SBI証券の提案は受け入れられなかったことを認識いたしました」(「公開買い付け開始のお知らせ」より)

 これを目の当たりにしたSBIが態度を硬化させ、さらに株式を買い増し、21年1月28日から3月下旬にかけ4273万7800株(19.85%)を買い増していった。

 一方の新生銀行は株主還元のため自社株買いを行い、4374万3170株の自己株式を取得した。そのためSBIの議決権行使可能な保有株式は20.32%まで上昇、SBIは「金融庁長官に対して、本公開買い付けによる株式取得に関して、2021年8月13日付で、銀行法に基づき必要となる認可の申請を行い、それぞれ2021年9月9日付きで各認可を取得しております」(「公開買い付けに関するお知らせ」より)と発表した。

 SBIは金融庁からTOBのお墨付きをもらったかのような説明となっているが、金融庁から認可が下りたのは20%を超える銀行株の件。TOBは金融商品取引法上の問題で、これも手続きさえすれば問題はない。

 SBIはTOBの目的を(1)提携関係の強化、(2)対象会社の役員の全部又は一部を変更し、最適な役員体制を実現する、(3)上記2つの目的を達成できない場合でも将来的に目的達成に向けて所有割合を機動的に高めておくこと――だとし、SBIは9月9日、一株2000円、TOBの上限を48%にしてTOBを行うことを決定した。

 これに対して新生銀行の取締役会は(1)公開買い付け予定数の上限のない公開買い付けをすること、(2)公開買い付け価格の見直しを行うことといった条件を付け、条件が満たされない限りTOBに反対することを表明。TOBへの対抗措置として、買収防衛策の発動を11月25日に開催される臨時株主総会に付議することを表明した。

買収防衛策導入の理由

 なぜ新生銀行は買収防衛策を導入しようとしているのか。

「今回のTOBにはいくつかの問題がありますが、なかでも大きな問題は部分買い付けによりTOBを望まない株主が受ける『強圧性』と『銀行持株会社規制の潜脱』です」(新生銀行関係者)

 強圧性とは、株主が自身の意思や考えに反してTOBに応じざるを得ないと考える圧力のことだ。株式が48%までしか買われないために、残された株主は、少数株主として取り残され損をするのを恐れてTOBに応募せざるを得なくなってしまう点だ。TOBが成立しSBI側に連結子会社化されれば、新生銀行は上場子会社としてガバナンス上の問題が生じる。新生銀行の少数株主の利益を犠牲にして親会社の利益が図られるという利益相反の問題が生じることが懸念される。

 そのため新生銀行は、自社の株主がこうした不利益を被ることのないよう、全株主に売却機会を設けられるよう買い付け予定数の上限を撤廃するよう求めているわけだ。

 そして2つ目は「銀行持株会社規制」を潜り抜けるスキームだ。SBIはTOBの上限を48%に設定しているが、議決権が50%を超えると銀行持株会社として金融庁に認可を求めなければならない。一方で過去5年間の議決権行使比率をみると平均で86.2%なので、48%の株式を保有すればSBIの実質的な影響力は55.6%になり、事実上単独で新生銀行の取締役選任・解任が実施可能となる。

 では、なぜ銀行持株会社の設置をためらうのか。銀行持株会社傘下で金融以外の事業を運営することは当局による承認が必要。なかでも不動産やバイオ関連事業はハードルが高いといわれている。SBIの傘下には医療品・健康食品・化粧品の開発・販売・医療システム事業や不動産事業・e-スポーツ事業・中古車輸出事業・再生可能エネルギーを用いた発電事業など金融以外の事業を抱えている。こうしたリスクの高い事業を持つ親会社が出現すると、親会社の都合で銀行預金が使われ、預金者保護が図られないという点がこの規制の趣旨の一つだ。

 新生銀行がSBIの傘下に入り、こうしたグループの事業会社や取引先などへの安易な融資を行うようなことになれば、新生銀行はかつて日本長期信用銀行が不動産投資会社のイー・アイ・イー・インターナショナルや東京・安全信用組合などへの過剰融資で経営破たんした悪夢を再び見ることにもなりかねない。しかも48%では、銀行持株会社として金融庁の規制も受けることない。

 金融庁関係者も一個人の話として「手続き上はなんら問題ないんですが、銀行法の立て付けの上では大きな問題があると思います」と語っている。

議決権行使助言機関、異例の判断

 新生銀行の買収防衛策導入をめぐる臨時株主総会は11月25日に行われる。当初、SBI側は自社が圧倒的に有利な票読みを進めているとも報じられていたが、ここに来て状況に変化が表れてきた。特に機関投資家の議決権行使に影響力を持つとされる議決権行使助言機関大手のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)とグラスルイスからは、新生銀行の買収防衛策について「賛成」を推奨するレポートが示された。こうした議決権行使助言機関は、一般的に買収防衛策に対して反対推奨する方針だが、新生銀行の買収防衛策が経営陣の保身ではなく株主の利益にかなうものと判断された。

 さらに、SBIについてISSは、子会社のソーシャルレンディングが金融庁から処分を受けたことを示し、子会社管理能力に懸念があるとし、さらにグラスルイスは、SBIは新生銀行が公的資金を返済できていないことを厳しく批判するが、SBI自身が経営権を握ったあとにも公的資金をどのように返済するのか示されていないとも指摘している。海外機関投資家を含め、機関投資家の保有割合が高いとされる新生銀行には追い風になり、SBIには冷や水が浴びせられた格好だ。

 さらに、11月5日には新生銀行の大株主の預金保険機構は、新生銀行とSBIそれぞれに対して企業価値向上策を問う質問状を送付。当初、議決権行使を行わないのではないかと見られていた預金保険機構が動きを見せたことで、臨時株主総会でどのような議決権行使を行うのか関心が高まっている。

 形勢が変化しつつある中で、11月25日には臨時株主総会を迎える。銀行業界初の敵対的買収がどのような結論を迎えるのか注目される。

(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)

松崎隆司/経済ジャーナリスト

松崎隆司/経済ジャーナリスト

1962年生まれ。中央大学法学部を卒業。経済出版社を退社後、パブリックリレーションのコンサルティング会社を経て、2000年1月、経済ジャーナリストとして独立。企業経営やM&A、雇用問題、事業継承、ビジネスモデルの研究、経済事件などを取材。エコノミスト、プレジデントなどの経済誌や総合雑誌、サンケイビジネスアイ、日刊ゲンダイなどで執筆している。主な著書には「ロッテを創った男 重光武雄論」(ダイヤモンド社)、「堤清二と昭和の大物」(光文社)、「東芝崩壊19万人の巨艦企業を沈めた真犯人」(宝島社)など多数。日本ペンクラブ会員。

SBIによるTOB、新生銀行が飲めなかった少数株主排除と銀行持株会社規制の潜脱のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!