ビジネスジャーナル > 企業ニュース > フジテレビ、不安だらけの危険な賭け
NEW
木村隆志「現代放送のミカタ」

なぜフジテレビは「爆買い」「コント」に賭けたのか?視聴者が理解できない謎戦略

文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト
【この記事のキーワード】,
フジテレビ(「Wikipedia」より)
フジテレビ(「Wikipedia」より)

 今秋、フジテレビは番組改編のテーマに「家族そろってフジテレビ~DEEPなテレビ体験を!~」を掲げた。

 これは「家族向けの番組を視聴者に届けていく」という戦略だが、ゴールデン帯の新番組は、なぜか『爆買い☆スター恩返し』(金曜20時~)のみ。つまり、自信を持って送り込む新番組であると同時に、「それ以外の既存番組は家族向けとして勝負できる」という判断が下されたことになる。

 ただ、新番組は『爆買い』の1つでも、曜日や時間の移動は活発で、中でも目玉は土曜夜。『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』を20時台から19時台に前倒ししたほか、『新しいカギ』を金曜20時台から土曜20時台に曜日移動し、21時台でお笑い特番の多い『土曜プレミアム』も含めて「笑いの土曜日!」と名付けた。

 とりわけその中核を担う『新しいカギ』は、『オレたちひょうきん族』『ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!』『めちゃ×2イケてるッ!』など、「フジ伝統の“土8”系譜を継ぐ」という点で大きな期待をかけられている。

 昨春の視聴率調査リニューアル以降、民放各局が主に10~40代の視聴者獲得に向けて大幅な番組の入れ替えを行っている中、「今秋のフジテレビは“爆買い”と“コント”の2つに賭けた」と言ってもいいだろう。

 しかし、なぜ今“爆買い”と“コント”で勝負するのか、視聴者にはピンとこないのではないか。実際のところ、いくつかの意味での危うさが潜んでいる。

他局が爆買いに手を出さないワケ

 まず『爆買い☆スター恩返し』は、6回にわたる特番放送を経てのレギュラー化だけに、「それなりの実績を積み上げた」とも、「6回もかかったのは爆発力がないから」とも言える。少なくとも、「絶対的な自信がある」「看板番組にしたい」と言える番組ではないはずだ。

「フジテレビが“爆買い”に賭けている」と言いたくなるのは、この番組だけでなく、同じ金曜の21時台に放送されている『ウワサのお客さま』も、コストコ、ホームセンター、コンビニなどでの爆買い企画を連発しているから。つまり、フジテレビの金曜夜は2つも爆買いバラエティがあるのだ。さらに日曜夜の『ジャンクSPORTS』もアスリートの爆買い企画を多用するなど、他局に比べて“爆買い”に賭けているのは間違いない。

 ただ、「爆買い」という言葉自体は2015年に流行語大賞に選ばれた6年前に流行ったフレーズであり、しかもメインの視聴者層は買い物である以上、主婦層になりやすく、高齢に偏るリスクがある。だから他局は爆買い企画をあまり採用していないのだ。

『爆買い☆スター恩返し』は、「芸能人が生まれ育った地元で爆買いして恩返しする」というハートフルな要素が、スポンサーに「素晴らしい」とウケるのか。それとも「ファミリー層や若年層の数字が物足りない」とみなされるのか。

 新番組であるにもかかわらずコンテンツとしての鮮度がない分、放送が進むにつれて後者の不安が増していきそうな気配がある。

豪華セットと出演芸人のかげり

 一方、『新しいカギ』で真っ先に目を引くのは、バブル期を彷彿させる大量のコントセット。よくあるネタ番組とは一線を画すものがあり、明らかに予算がかけられている。

 つまり、フジテレビにとって「多少結果が悪くても続けていく」と腹をくくった番組であり、だからこそフジ伝統の土8に抜擢されたのだろう。また、コント台本も多くの作家たちが持ち寄り、さらにブラッシュアップを重ねるなど、スタッフと出演者のモチベーションは高い。

 しかし、肝心の出演者に影が差し始めている。メインはチョコレートプラネット、霜降り明星、ハナコの3組だが、番組スタート後、お笑い第7世代の勢いが急降下し、中でも霜降り明星の人気低下が著しい。

 実際、コントの大半を芸達者なチョコレートプラネットに頼るものが占め、業界内からは「実質的にチョコプラの冠番組だろう」なんて声も聞こえてくる。さらにネット上には、サンドウィッチマン、バイきんぐ、かまいたちなどが出演する単発コント特番「『ただ今、コント中。』(フジテレビ系)のほうがいいのに」なんて声も少なくない。

 そしてもう1つ見逃せないのが、ネタ番組の苦戦。今秋、TBSが局を挙げてスタートした笑福亭鶴瓶と今田耕司MCのネタ番組『ザ・ベストワン』が、10月15日(3時間SP)個人2.6%・世帯4.4%、10月29日(3時間SP)個人3.5%・世帯5.6%、11月12日(2時間SP)個人2.7%・世帯4.4%、11月26日(2時間SP)個人3.0%・世帯4.9%という主要局最下位レベルの超低視聴率に留まっている。

 この苦戦は、YouTubeやSNSなどでネタ動画を気軽に見られるようになり、ネタ番組へのハードルが上がってしまったことが大きい。視聴者は、「オリジナリティとクオリティが高くなければ、わざわざ決められた時間に合わせてテレビのコント番組を見ない」のだろう。

 その点、『新しいカギ』はオリジナルコントを制作しているため、必要なのはクオリティとキャッチーな人気キャラの2つ。「これをどう生み出し、継続していくか」が成否のカギを握っているが、かなりハードルの高いミッションと言えそうだ。

どこまで我慢して続けられるか

 ちなみにここまでの視聴率に触れておくと、『爆買い☆スター恩返し』が10月29日(3時間SP)個人4.6%・世帯8.1%、11月19日(3時間SP)個人5.2%・世帯9.2%。

『新しいカギ』が10月16日(2時間SP)個人2.8%・世帯4.3%、10月30日(2時間SP)個人3.5%・世帯5.2%、11月13日(通常放送)個人3.8%・世帯5.5%、12月11日(2時間SP)個人2.6%・世帯3.5%。

 ある局員から聞いた話では、フジテレビがスポンサー対策で重視するキー特性(13~49歳の男女)も「合格ラインは取れていない」という。そもそも『爆買い☆スター恩返し』は、他局のテレビマンたちから「番組コンセプトからしてキー特性の数字を獲るのは難しく、発展性や上がり目も薄い」と見られている。そんな自信のなさは月1程度に留めている放送頻度の少なさを見てもわかるだろう。

 一方、『新しいカギ』は一部ファミリー層の支持を得始めているが、期待値や費用対効果の意味では、かなり厳しい。「かつて土8のド真ん中にいたビートたけしと明石家さんま、ウッチャンナンチャン、ナインティナインのような強烈な輝きをテレビから発信できるか」という点で見れば、いかに無理難題を求められているかがわかるだろう。

 フジテレビの「爆買い」という謎の新戦略と、「コント」という栄光回帰の旧戦略。現時点では、どちらも不安に満ちたものであることは間違いなく、まずは「どこまで我慢して続けられるか」が試されている。

(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)

木村隆志/テレビ・ドラマ解説者/コラムニスト

木村隆志/テレビ・ドラマ解説者/コラムニスト

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

Twitter:@takashi_kimura

『話しかけなくていい! 会話術』 「話がうまい人」になる必要はない。無言でも、ひと言でも、人に好かれるための画期的コミュニケーション術! amazon_associate_logo.jpg
『嵐の愛され力~幸せな人生をつかむ36のポイント~』 嵐に学ぶ人から好かれる、人を好きになれる人間力の磨き方。明日から使える36個の“○○力”。年齢・性別を問わずマスターできる。 amazon_associate_logo.jpg

なぜフジテレビは「爆買い」「コント」に賭けたのか?視聴者が理解できない謎戦略のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!

関連記事