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木下隆之「クルマ激辛定食」

トヨタ、一人勝ちのシナリオ完成か…EVに巨額投資、一方で内燃機関の開発も継続

文=木下隆之/レーシングドライバー
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EV戦略について説明するトヨタ自動車・豊田章男社長
トヨタ自動車・豊田章男社長(写真:ロイター/アフロ)

 トヨタ自動車が電気自動車(BEV:バッテリー・エレクトリック・ヴィークル)の世界販売台数を、2030年に350万台に引き上げると宣言した。

 BEV増産の大きな課題であるエネルギー源確保に関しても、バッテリーの増産に4兆円の投資を明らかにした。トヨタ傘下の豊田通商とも連携し、すでに280ギガワットを確保。バッテリー製造会社を立ち揚げ、増産を急ぐ。米テスラが2030年までに3000ギガワットという一桁上のエネルギー確保を急ぐのは例外としても、独フォルクス・ワーゲン(VW)の240ギガワットと比べても見劣りしない規模だ。

 これまでトヨタは、BEVとFCV(フューエル・セル・ヴィークル)を合わせた目標販売台数を200万台としていた。それが、BEVだけで350万台という大幅な上方修正を行った。世界の主要自動車メーカーの販売台数(2019年)との比較では、プジョーやシトロエンを販売する仏グループPSAが347万台、メルセデスを販売する独ダイムラーが334万台、日本のスズキが300万台、BEVに特化するテスラはわずか36万台である。ひとつの巨大自動車メーカーを8年後の2030年に創設するに等しい数字なのだから、そう考えればこの投資がどれだけ大規模であるかが想像できよう。

「とんでもない数字」――発表会の席で、豊田章男社長はこう言って、今回の投資が巨大トヨタにとっても小さくない規模であることを表した。さらに、「これでも“EVに前向きでない”と言われるのなら、どうすればご評価いただけれるのか教えていただきたい」とも述べた。

 環境団体は、トヨタがEVに消極的であることを短絡的に“環境負荷が高い企業”と認定し、評価を下げてきた。それに対してチクリと釘をさしたかたちだ。実際に、トヨタは環境に対してとても積極的である。それが証拠に、世界で初めてハイブリッドを量産したのはトヨタである。

 今回の発表の席では、16台もの発売予定のBEVモデルを披露した。豊田社長自らステアリングを握り、性能が十分なレベルに達している様子を披露している。環境団体の洞察が稚拙であることを自ら語ってしまったことを意味する。

 一方で、国に対する施策を期待しているのも事実。政府がBEV普及に対して行う投資は1115億円である。国家の投資額と比較すれば、トヨタの投資が“とんでもない数字”であることがわかる。たとえば、ノルウェーはBEV普及率約60%である。だが、補助金や税制優遇など、さまざまな施策でBEVのさらなる普及を後押ししている。

 国への施策を期待している節も覗かせたとはいうものの、トヨタがBEVメーカーに舵を切ったわけではまったくない。というより、むしろ外野の“下種の勘繰り”を払拭することで、地に足をつけて全方位的なエネルギー戦略に没頭することになる。FCVはもちろんのこと、水素を燃料とした内燃機関の開発も続けるし、バイオエタノールエンジンも継続して販売する。

 世界にはBEVが設立しない地域も存在する。たとえば、ブラジルではバイオエタノールが圧倒的であり、BEVに関するインフラは整っていない。自動車の国・アメリカでも、東西エリアはBEVに前向きでも、砂漠が広がる中南部ではBEVアレルギーが強い。世界最大の自動車メーカーであるトヨタがBEVに専念したのならば、BEV消極的地域のユーザーの負担が増えるのである。

 逆にいえば、BEV専門メーカーを宣言した本田技研工業(ホンダ)やアウディ(VWグループ)、ボルボは、そういった地域で売るクルマがなくなることを意味する。ホンダは2040年に、アウディは2033年に、ボルボに至っては8年後の2030年にはEV以外の販売をしない。つまり、内燃機関支持層が残るエリアでは苦戦を強いられることになる。

 だが、トヨタは全方位的パワーユニットの開発によって、いかなる地域にも対応可能だ。まして政府のエネルギー投資によって普及率が増減するBEV車にとって、エネルギー投資は安定的施策ではない。その点、トヨタは地産地消を旗印に、柔軟な販売戦略が整うのである。

 世界の多くのメーカーが盲目的EV信仰に向かうなか、地に足をつけたトヨタ一人勝ちのシナリオが完成したように思う。

(文=木下隆之/レーシングドライバー)

●木下隆之
プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。

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