SUBARU(スバル)の「WRX」が新型にスイッチした。排気量を2リッターから2.4リッターに拡大して誕生したのだ。ルーツともいえる1992年デビューの「インプレッサWRX」から数えて5代目。WRXの魂でもある左右対称のシンメトリーエンジンとAWD駆動方式をそのままに、新たなフェーズへと進化したのである。その名は「WRX S4 STIスポーツR」。スバル最強のAWDスポーツである。
搭載されるエンジンは水平対向4気筒で、ユニットの構造上、低重心である。左右対称でもあり、理想的な左右バランスを誇る。ライバルのほとんどが左右非対称の横置きエンジンである。それを嘲笑うかのように、シンメトリーを武器にするのだ。
となれば、おのずと組み合わされる駆動系も左右対称になる。左右均等バランスのエンジンの直後にトランスミッションが合体され、そこからボディ中央をプロペラシャフトがリアに貫く。リアのデフから左右等長にドライブシャフトが伸びて前後輪を駆動する。「シンメトリカルAWD」を標榜するのは、それが理由だ。
エンジン排気量は2リッターから2.4リッターにスープアップ。すると想像できるのは大幅なパワーアップなのだが、新型WRX S4は、逆にパワーダウンしているのが特徴なのだ。かつてのような、舌先が痺れるような激辛スポーツではない。
ターボチャージャーを小型にしたことで、高回転域の爆発力は影を薄めた。高回転域の腰を抜かしかけるような破壊力を失っている。
だが、得たものが大きい。ターボの小型化は低回転域のレスポンスが得意である。大径タービンがフル過給するまでに間があり鈍く感じるのとは対照的に、右足のスロットルペダルの動きに反応するようになった。ドライバビリティが向上したのである。
走りに軽快感が盛り込まれたのが、その証拠だ。たとえば、ワインディングを軽快なリズムで走行していても、微小なスロットルワークにエンジンが反応する。限界域をギリギリに攻め込んで初めてトップタイムを記録するような荒さではなく、日常的な軽快感が備わったのである。
組み合わされるミッションも、ファミリーカーで常識的なCVTだ。無段階に自動変速するそれは、速さやスポーツカーとは無縁の優しさがある。どちらかといえば、経済性と実用性を優先したシステムなのだ。そんな穏やかな変速機と合体させているのである。
ただし、ゴムを伸ばしたり縮めたりするような曖昧な感覚は抑えられている。かつてのWRXのような武闘派の6速マニュアルではないが、自動変速のリズムはマニュアル感覚に近い。ステアリング裏には、指で引くだけで変速するパドルシフトが組み込まれており、それを使ってシフトダウンを促せば、エンジンを空吹かししてギアダウンもする。
その速さと正確性も鍛え上げられており、スバルの発表によれば、ドイツのスポーツカーのスポーツミッションと同等の変速タイミングだという。無段変速機CVTを採用したのは実用性であり、それでもスポーツ魂を失っていないというわけだ。
新型WRX S4は、驚くほどドライバーに優しいセダンとなった。肌を刺すような刺激は抑えられ、オブラートに包んだような柔和さがある。それこそ、いま求められているスポーツセダンの新時代のスタイルなのかもしれない。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)