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在日米軍基地からオミクロン株が染み出し…米国、日本への感染拡大「輸出」の実態

文=明石昇二郎/ルポライター
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普天間基地(「Wikipedia」より)

米国由来の「第6波」

 新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」への感染者が、日本国内で初めて確認されたのは、昨年11月30日のことだった。当初は、成田空港や羽田空港、関西空港といった国際空港の検疫で感染が確認されており、いずれも海外からの入国者か、その入国者の濃厚接触者、そして空港検疫所の職員に限られていた。

 一方、米国でオミクロン株への感染者が初めて確認されたのは、12月1日のことだった。南アフリカから11月22日に帰国していた人で、ワクチン接種率が非常に高いサンフランシスコで見つかっていた。感染者はモデルナのワクチンを2回接種しており、接種完了からまだ6カ月は経っていなかったという。

 各国とも水際対策を強化していたのである。我が国に至っては、のちに撤回されたものの「緊急避難的な予防措置」として、12月の1カ月間、日本に到着するすべての国際線で新たな予約を停止するよう航空会社に要請し、日本人であろうと帰国できなくしようとしていたほどだ。それでも、ダメだった。WHOのテドロス事務局長も12月14日の記者会見で、

「これまでに77カ国が感染者を確認した」

「実際検出されていなくても、すでにほとんどの国に広がっているだろう」

と述べていた。そして日本ではこの頃から、「米国」から帰国した人の感染確認例が目立ち始める。なかでも注目を集めたのは、12月8日に米国から帰国し、成田空港の検疫では陰性だったものの、東京都内の自宅で待機していた帰国翌日に発熱の症状が出て、同月16日、オミクロン株への感染が確認されたという20代女性の件だろう。自宅待機中に女性の自宅を訪れた20代の男性にも感染し、それに気づかないままその男性は、12月12日に川崎市の等々力競技場で行なわれたサッカー天皇杯の準決勝を観戦していたからだ。おかげで、男性の周辺で観戦していたおよそ80人が、濃厚接触者扱いを受ける騒動へと発展していた。

 さらに「米国」に関心が集まるきっかけとなった出来事は、沖縄県内にある複数の米軍基地で、同時多発的に大規模クラスターが発生したことだろう。

 12月17日、沖縄本島北部にある米軍の海兵隊基地「キャンプ・ハンセン」に勤めている軍属の米国人女性とその夫(日本人)が、オミクロン株に感染していることが確認された。この情報を皮切りに、米軍基地に勤務する日本人従業員の間で感染者が続々と確認され、その果てにキャンプ・ハンセンで300人規模の一大クラスターが発生していることが判明する。在日米軍基地からオミクロン株が“染み出し続ける”事態が発生しているのは、もはや否定しようがなかった。

 1月16日現在、在日米軍基地で新型コロナウイルスに感染していることが確認されたのは6093人。このうち3943人が、キャンプ・ハンセン(1022人)や嘉手納基地(877人)、普天間基地(458人)といった沖縄県内の基地である。それ以外では、山口県と広島県の県境にある岩国基地(756人)や、神奈川県の横須賀基地(328人)や厚木基地(182人)、青森県の三沢基地(317人)、東京都の横田基地(179人)、長崎県の佐世保基地(148人)でもクラスターが発生している。

 それもそのはず、当の米国本土では1月10日、140万6500人という想像を絶する新規感染者数を記録。1週間の平均でも75万人あまりに達しているのだという。その感染爆発の勢いがそのまま日本に“輸出”されたわけだ。在日米軍基地における新型コロナウイルスの大流行は、米国本土の感染状況の反映なのである。

 国内外から「鎖国」と批判されるほどの厳しい水際対策を敢行し、昨年11月や12月には日に50人や60人というレベルにまで新規感染者数を減らしていた日本。その水際対策を事実上崩壊させ、第6波の感染急拡大をもたらしていたのは、他でもない「同盟国」の米国だった。

 日本の平和と安全を脅かす最大の脅威は、今や中国や北朝鮮より、米国なのである。

日本政府は米国や米軍に厳重抗議しなくていいの?

 クラスターが発生している在日米軍基地の周辺自治体では、過去最大の新規感染者を記録し続けている。

 1月13日、国内で最も多くの在日米軍基地を抱える沖縄県では、過去最多の1817人もの新規感染者を確認している。米軍岩国基地のお膝元の山口県では同日に過去最多の218人の新規感染者を確認。もう一方の広島県でも同日に805人の新規感染者を確認しており、その大半がオミクロン株によるものと見られている。特に沖縄県では、新型コロナウイルスに感染したり、濃厚接触者になったりして医療機関で働けなくなった医師や看護師らが1月12日現在で628人にも上っているのだという。

 こうした深刻な感染拡大を受け、さまざまな催しやイベントが中止に追い込まれている。1月から2月に沖縄や広島を訪問する予定だった中学校の修学旅行は、予約を軒並みキャンセル。1月23日に広島県で開催される予定だった都道府県対抗の全国男子駅伝大会も中止となった。中学生や高校生、大学生、社会人の選手たちが襷(たすき)をつなぐ同駅伝には、全国から600人を超える人々が参加する予定だった。

 毎年1月から2月にかけて沖縄で行なわれる、恒例のプロ野球球団とサッカーJリーグクラブの春季キャンプにしても、Jリーグではセレッソ大阪とヴィッセル神戸が沖縄キャンプの中止を発表。予定どおりキャンプを実施するクラブも、練習を無観客で行なうところが多くなりそうだ。一方、プロ野球の各球団は今のところ、春季キャンプを有観客で開催する方針だが、感染状況次第で無観客に切り替えられる恐れもある。キャンプシーズンが書き入れ時の沖縄のホテルも、キャンセルが相次いでいるという。

 全国の新規感染者数もうなぎ上りである。現在、「まん防」(蔓延防止等重点措置)が適用されているのは沖縄・広島・山口の3県だけだが、今の感染拡大の勢いが衰えないままだと、3県以外で「まん防」やその先の「緊急事態宣言」が適用される都道府県が現れるのも、時間の問題だろう。

 こうした対策に費やされる経費や、オミクロン株の感染拡大によって生じた損失は、「同盟国」に請求できるものなのだろうか。お詫びがあって然るべきと考えるのは、筆者だけなのだろうか。それ以前に、日本政府として米国政府や米軍に抗議しなくていいのだろうか。

        ※

 米軍も実にとんでもないことを仕出かしてくれたものだが、米軍兵士がオミクロン株を日本に次々と“輸出”することに至った最大の原因は、ワクチンの2回接種ではオミクロン株に対して無力であり、感染を防げないことを、軍として把握・認識していなかったことに尽きるだろう。感染症というものに対し、迂闊極まりないことだと思う。

 在日米軍基地に派遣される兵士らは皆、ワクチンの接種済みであることから、米国出国の際も日本入国の際も、検査が一切行なわれていなかったことからも、オミクロン株を舐めていたことがうかがえる。

 ワクチンでは、新型コロナウイルスへの感染を100%防ぐことはできない。ワクチンは、接種した人の重症化を防ぎ、命を守るためのものである――。もはや当たり前の「世界の常識」になっていると思っていたが、少なくとも米軍では常識となっていなかったようである。この常識を、改めて強調しておきたい。

(文=明石昇二郎/ルポライター)

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

1985年東洋大学社会学部応用社会学科マスコミ学専攻卒業。


1987年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の「核燃料サイクル基地」計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。その後、『技術と人間』『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』『週刊金曜日』『週刊朝日』『世界』などで執筆活動。


ルポの対象とするテーマは、原子力発電、食品公害、著作権など多岐にわたる。築地市場や津軽海峡のマグロにも詳しい。


フリーのテレビディレクターとしても活動し、1994年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。


ルポタージュ研究所

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