人気音楽ユニット「YOASOBI」のキービジュアルなどを手がけたイラストレーターの古塔つみ氏の作品が、有名な写真などをトレース(複写)しているのではないかとの指摘が出て炎上。本人がトレースを否定しつつも、無断で「引用・オマージュ・再構築」したとして謝罪文を出したが、騒動が収まる気配はない。
事の発端は1月28日、暴露系YouTubeチャンネルとして人気の「コレコレチャンネル」の生配信中に画家だという視聴者が、古塔氏の個展で販売されている作品がある有名な作品に酷似していると告発。古塔氏のほかの作品についても、元画像と重ね合わせてみると、寸分たがわず一致することから、トレースしているのではないかとの指摘が相次いだ。
その後、ネット上では古塔氏の作品と別の作家の作品を重ね合わせる“検証作業”が進み、これまでに20作品ほどがトレースされたものではないか、と指摘されている。
騒動を受けて、古塔氏とコラボしている企業は対応に追われている。大手雑貨メーカー「マークス」は、事実関係を確認するため、古塔氏がデザインした商品を一時販売停止にした。
古塔氏は3日、自身のTwitter上で謝罪文を発表。「引用・オマージュ・再構築として制作した一部の作品を、権利者の許諾を得ずに投稿・販売してしまったことは事実」と認めて謝罪。だが、「写真そのものをトレースしたことはございません。模写についても盗用の意図はございません」として、トレースや盗用の意図は否定した。
しかし、謝罪文が発表されると、沈静化するどころか、かえって批判の声は大きくなった。「これだけ元画像と一致するのにトレースしていないわけはない」「トレースしていながら盗用の意図がないなんて言い訳を誰が信じるの?」など、古塔氏の釈明に不信感を示すコメントがネット上に噴出している。
仮に古塔氏本人が言うとおりに盗用の意図がなかったとして、著作権侵害の違法性はないのだろうか。 山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士は、次のように解説する。
「事実として、『他人の写真をトレースした』のであれば、著作権(翻案権や複製権)を侵害すると考えられます。そもそも写真は、被写体をどうする、配置をどうする、構図をどうする、露出をどうする、色彩をどうする、といったさまざまな要素を組み合わせて撮影するので、創作的な表現として『著作物』と認められます。
これを、そっくりそのまま絵にしたり、CG化したりすれば、『著作権者』にしか認められない『複製する権利』や『元の素材を活かしながら別な表現に変更する権利』を侵害します。
もちろん、たとえば美大生などが教育や授業のために行うなら、例外として著作権侵害にはなりませんが、販売しているのであればダメです(営利目的があるなら例外にはあたらない)。
まぁ、『元の作品は見てないけどたまたま似てしまった』というのなら著作権侵害もへったくれもないのですが(これを『依拠しただけ』と言います)、指摘されている作品の数、各作品の構図、色合いなんかを見れば、芸術に素人の私でも『見てまねした』と感じます。
とはいえ、本人も『著作権者の許諾を得ずに販売してしまった、ごめんなさい』として『著作権について知らなかったけど、今後は注意します』的に反省していると思われるので、ここら辺で許してあげてもいいんじゃないでしょうか」
古塔氏は今後の活動と作品において誠意を見せていくしかないだろう。次の作品に注目したい。
(文=編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)